2020.03.04
トラフ建築設計事務所 × クマ財団 『KUMA EXHIBITION 2020』メイキング インタビュー
2020年3月19〜22日に開催予定だったクマ財団の『KUMA EXHIBITION 2020』では、例年同様、才能あふれる学生クリエイターたちの作品を表参道のスパイラルでお披露目する予定でした。
しかし2月末、クマ財団は中止を発表しました。新型コロナウイルスの感染予防と拡大防止のためです。
その会場デザインは、トラフ建築設計事務所にお受けいただいていました。
トラフさんと言えば、2年間という期間限定でありながら130万人の来場者数を記録した『スヌーピーミュージアム』の空間デザインをはじめ、舞台美術、オフィス内装、プロダクトデザインなど幅広い分野で活躍されているプロフェッショナル集団です。
開催できなくなったイベントではありますが、クリエイターを支援するクマ財団としては、トラフの鈴野浩一さん、禿真哉さんがどのように『KUMA EXHIBITION 2020』の会場デザインをしていったか、その過程を公開させていただきたいと思います。
クマ財団にご興味を持ってくださっている方にはもちろん、コンセプトを大事にしながらものづくりをされている方、そういう作品を見るのが好きだという方に、楽しんでいただければ幸いです。
※ 本インタビューは、『KUMA EXHIBITION 2020』の中止が決定される前に実施いたしました。
トラフ建築設計事務所 × クマ財団
『KUMA EXHIBITION 2020』メイキング インタビュー
まずは会場デザインにあたり、クマ財団の『KUMA EXHIBITION』をどう読み解いていったかというところから、お話しいただけますか。
鈴野 もう2年前のことになりますけど、第1期生のエキシビションをTwitterで知って、見に行ったことがありました。今時こんなにいいスカラシップ(奨学金)と、こんなにいい展示で学生支援をしてくれる財団があるんだと驚きましたね。学校の卒業制作展以外で学生クリエイターがまとめて作品を発表できる場なんて、珍しいと思います。
禿 学生クリエイターと言っても、みなさん完成度が高い作品を作っていて、すでにプロとして活躍されている方もいますしね。(奨学生の)お名前を知ってからは、ラジオから流れてくる音楽をクマ財団の現役生や卒業生が作っていることに気づいたりするようにもなりました。
鈴野 若いのにすごい実績や実作があったので、びっくりしたというか……音楽やダンス、映像などは「好きだから、長く活動してきた」という方がいらっしゃるんですね。
一方、僕らがふだん接している建築学科の学生の場合、まず建築の基礎を学ぶのに時間が掛かりますし、実作には相当の予算も必要なので、なかなか実績を積めないものなんです。
でもクマ財団には「被災地支援のボランティアのため、助成金とクラウドファンディングだけで、建築を実践する!」と言って海外まで行ってしまう人もいたりして、すごい刺激を受けました。
禿 みなさん、出会ったときからブレないスタイルを持っていましたよね。
鈴野 仮に僕らが「こうしてほしい」と言っても絶対変えなさそうというか(笑)。みなさん意識が高くて、もっともっと話したいと思いましたね。
それから『KUMA EXHIBITION 2020』に向けて、「これまでどんな活動をしてきて、どんなものを発表したいか」と一人ひとりに話を聞いていくと、作家個人が際立っていると感じました。そこで今回は、多様な個性が集合する面白みも感じていただけるようにしつつ、【グループ展】というよりは【一人に対して一つの個室を設ける】ようなアイデアにしました。
禿 各作家と個別に話し合いながら会場内の配置を一つ一つ決めていったところが、このプロジェクトの特徴だと思います。泊まり込みの合宿にも参加させていただきましたし、その後も面談をしたり、海外にいる方とはSkypeでビデオ通話をしたりしてきましたね。
圧倒的な個性を持つ45名(3期生36名、1期生・2期生合計9名)の作品を、どのように配置していかれましたか。
鈴野 会場デザインは場所や建築ありきなので、今回はまず「スパイラル」という【表参道にありながら誰でも無料で入れる、複合文化施設】を主軸として、その環境を最大限に引き出していきたいと考えました。スパイラルは言わば街の延長線上にあるような施設であり、構造も回遊型ですので、街を歩いているうちにたまたま入ったギャラリーでいろんな作家や作品に出会っていく……そういう感じにしたいと思って設計しました。
禿 スパイラルを訪れたときに得られる “体験のバリエーション” と言いますか、この建物に対するリスペクトはずっとあったので、いろんなジャンルとメディアによる45名の作品とこの会場をどう組み合わせていくべきか、すごく意識しながら取り組んでいきましたね。
鈴野 ただ、すでに作品が完成している若干名を除いて、多くの方がエキシビションの直前まで作品を完成させられていない状況なんですよね。その中で作家ごとに展示スペースを指定しても、普通に並べるだけでは雑多に見えてしまう可能性がありました。そのゴチャゴチャこそがパワーであり、それが面白みでもあるんですけど……ある程度は統一感を出すほうがいいと考えて、素材を合板(ラワン材)でそろえたL字型やコの字型のブースを並べることにしたんですね。
禿 そういう「会場の顔」のようなものがあると訪れた方の記憶に残りやすくなるので、高さ違いでデコボコになるようにして、ボリューム感を出していきました。
鈴野 入口から見たときは統一感があるように見えるのですが、一歩入るとブースごとに全然違うメディアに出会えたり、タイミングが合えば作家本人に会えて直接話せたりします。さらにスパイラルの構造上、ゆるやかな円形のスロープを登っていくと、作品やブースを様々な角度から見ることもできます。
禿 それでいうと、スパイラルでは入口から奥に抜けるまでのスペース、回廊、階段、その先の踊り場というふうに様々な場所に作品を置けますけど、一方で展示会場の終わりまで足を運んでいただくのは簡単ではない、という課題もありましたね。
鈴野 わかりやすい案内表示をしないと、2階や3階に進む前に帰られてしまう可能性もありますよね。1階に関しても、仮にこのブースの表裏が逆転していて入口で作品が一望できてしまったら、一見しただけで “見た気” になられてしまうこともあると思います。そこで統一感は出しつつも、“あの裏側には何があるんだろう” と期待感を持たせて、奥へ、奥へと足を踏み入れたくなるような見せ方にしました。
各ブースの高さや作家の配置はどのように決めていきましたか。
鈴野 まず空間の中で一つだけ、シンボルになるような高いブースを作ったんですね。その大きな壁面をうまく使えそうな作家として、過去に天井高のギャラリー空間を生かした展示をしていた作家・しろこまたおさんに提案し、その周りも決めていったという感じです。
禿 しろこまさんの手前にあるギャル電まおさんは電飾系のピカピカするモチーフを多用している方なので、そのブースをしろこまさんの大きな壁面の前に持ってきたら反射が面白くなるんじゃないかなとか。逆に、その横はモノクロの写真を撮っている山口大輝さんのブースにしたら、対比が面白いんじゃないかなとか。
鈴野 一つひとつの作品に対して、ふさわしい場所を考えていきましたよね。
禿 ある程度の高さがある作品に対してはスロープから見たときに特等席になるんじゃないかなとか、ちょっと静かな環境で見るほうがいい、じっくり対峙したいような作品に対しては端のほうにブースを設置するとか、少しずつ細かな配慮をしていきましたね。
鈴野 大きな絵の場合は遠くからでも見えるように、できるだけ引きが取れるところを確保してゆっくり見られるようにしたり……人って、展示会場の入口付近で細かい作品を見ると、その時点で疲れてしまうものなので、大作を入口付近で余裕を持って見られるようにし、そのあとにブースの作品を見ていけるような感じにするなど、調整しました。
また、2階に関しては、スパイラルの特徴的なパブリックスペース、大きなガラス窓とベンチをそのままに、作品をゆっくり見られるようにしたり、3階に関しては卒業生の作品をまとめたりすることで人を誘導できるように配置しました。
逆に、「私はどうしてもここに展示したい」というような人はいませんでしたか。
禿 数名はいましたけど、案外こちらが提案した場所やスペースをすんなり受け入れて、柔軟にやってくれる人が多かったという印象でした。
鈴野 アーティストには自分の作品に固執していく強さも必要ですし、そこが面白みでもあるんですけど、今回のように社会や企業とつながるようなプロジェクトでは、作品で個性を爆発させつつ、みなさんのように柔軟性も備えていると、今後も広く活動をしていきやすいのではないかと思います。
禿 そういえば「柱にマッサージ機を仕込みたい」という作家がいて、「2階に続く階段の端に置くのはどうでしょう」と提案したりしましたね。そのほうが電源を拾いやすいし、地面でうごめいているほうが創作的にも面白いし、近くで見てもらえるし、とか一緒に考えて。
鈴野 ありましたね。あと逆に、こちらから「これくらいのサイズの立体物を作れないか」と提案することもありましたね。たとえばメディアアートの若田勇輔さんには、“会場の模型” に対して、僕らが “若田さんの作品の巨大な模型” を作って配置して見せて、「これくらい大きな作品をこの壁に展示するとバランスが良いんだけど、どうかな」と。
禿 この作品の模型、改めて見ると本当に大きいですね、大丈夫かなあ(笑)。
鈴野 本人も「ここまで大きな作品は作ったことがない」と言っていましたからね。でも、彼は大変やる気があったので発破をかけました。完成が楽しみです。
制作物に対するアドバイスもされているんですね。ちなみに模型では奨学生の名前がかなり大きいように見えるのですが、原寸ではありませんよね?
鈴野 原寸です(笑)。スパイラルは華々しい場所ですから、ここで展示されることを誇らしく思って、記念写真でも撮ってくれたらいいなあと。
禿 ちなみにサイン(案内表示)関連はいつもタッグを組んでいるデザイン事務所・高い山(TAKAIYAMA inc.)さんに作っていただいていて、展示エリアやジャンルが違っても統一させています。グラフィカルなデザインなので、会場のアイキャッチにもなると思います。
鈴野 高い山さんに限らず、僕らはいつもプロジェクトごとにチームを編集しているのですが、たとえば施工者からもいろんな提案をもらっていて、みんなで掛け合いをするような感じで作っていますね。
禿 同じ建物に入居している家具デザイナーの藤森泰司さんとチームを組むことも多いです。いろんな得意分野を持つ方たちとの総合力が出せるというか……そういうチーム力みたいなものはすごくあると思います。
鈴野 クマ財団に関しても、奨学生同士で自然とネットワークができて、今後の活動につながっていくでしょうね。
最後に、『KUMA EXHIBITION2020』に向けてメッセージをお願い致します。
鈴野 才能を持った若い方たちが時間をかけて、気持ちを込めて制作をしてきている過程をずっと見てきていますので、予定通り開催できたら……という思いはあるのですが、なんとも言えない時期ですよね。
ただ、仮に展示会場にお越しいただけないことになったとしても、Webサイトではアーカイブとして作家の作品一覧が見られるようになります。
トラフ建築設計事務所としても、このエキシビションが終わったら仕事の相談をしたいと思えるような奨学生の方が複数名いるくらいなので、僕らのように若い才能を探している方には、今後、Webサイトでご確認いただくといいのではないかと思っています。
禿 このように若いアーティストの作品にまとめて出会える展覧会はなかなかないので、多くの方に知っていただきたいと思います。今期に限らず、第4期、第5期といった、今後のクマ財団の活躍も楽しみにしています。
※ 本インタビューは、『KUMA EXHIBITION 2020』の中止が決定される前に実施いたしました。