KUMA EXHIBITION 2021(クマエキシビション2021)

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トラフ建築設計事務所 × クマ財団 『KUMA EXHIBITION 2021』オンライン展覧会 メイキング インタビュー

2017年の設立以来、毎年25歳以下の学生クリエイターを支援しているクマ財団。第1期からその年度の集大成として『KUMA EXHIBITION』を表参道のスパイラルで開催してきましたが、第3期の2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により、開催直前に中止しました。

そこで今年は「先の状況が読めなくても、4期生41名の作品をしっかり発表したい」という思いのもと、【リアル】と【オンライン】の両軸で『KUMA EXHIBITION 2021』の準備を進めて参りました。

それぞれ以下の形で実施し、「オンライン展覧会」の終了後はさらにアーカイブサイトを公開予定です。

1 リアルな会場で完全招待制の「特別内覧会」を実施(2021年3月19日(金)〜20日(土))。

2 「特別内覧会」終了後、会場を Matterport(4K3Dスキャンカメラ)で記録。展示空間をデジタル上で完全再現し、「オンライン展覧会」の特設サイトとして公開(2021年4月27日(火)〜5月31日(月))。

会場構成は昨年に引き続き、トラフ建築設計事務所にお受けいただきました。大型展覧会の会場構成をはじめ、住宅や店舗、オフィス内装、プロダクトデザインなど幅広く活躍されているトラフさんですが、本プロジェクトはどのように進められたのでしょう。

イレギュラーな状況下で、いかにオンライン展覧会ありきの会場構成を進行したのか。建築家の鈴野 浩一さん、禿 真哉さんにお話を伺いました。

従来の展覧会では、多くの方に来場いただくことを前提に会場構成をされてきたと思いますが、今回は「無観客で、オンライン展覧会ありき」というご相談から始まりました。まず、どんな感想を持たれましたか。

鈴野 最初は「え?」と思って、どういう意味か、ちょっと頭が追いつかなかったですね。「アーカイブとしてWebに残したいので会場を借りて撮影はするが、来場者は想定していない」と言われて、「それならCGで仮想空間を作って発表すればいいんじゃないの」って単純に思いましたよね。

禿 当初は内覧会をするという話もなかったですしね。改めて振り返ると、会場構成をして、設営をして、内覧会をして、その直後にドローンと Matterport で撮影してサイトが公開される……という一連の流れが確定するまでの段階が複雑で、ステップが定まらない状態で進めるのが大変だったというか。

鈴野 さらに通常の展覧会と違って学生クリエイターのみなさんが直前まで作品を作っているので、どんなものが来るのか読めないものが多くて、「不確定要素 × 不確定要素」みたいな感じでしたね。

イレギュラーなことが続いたかと思いますが、落としどころが決まったタイミングなどはあったのでしょうか。

禿 やはり会場選定が、勝負の決め手になったのではないでしょうか。会場が決まってから、すべてが気持ち良くまとまっていったように思います。

今回の会場は、そもそもトラフさんのご紹介がなければ知り得ませんでした。ちょっと特殊な場所ですので、経緯をお話しいただけますか。

鈴野 まずクマ財団さんから、感染症対策ができる場としていくつか候補が上がっていたのですが、それに加えて僕らが提案したのが今回の会場で、清澄白河にある築58年の倉庫物件でした。もちろんそのまま使える状態にはなかったのでタラップ階段をつけたりはしましたけど、もとからの鉄骨造の骨組みが綺麗な建築で、リベット構造なども面白かったので、それを生かせないかと思ったんですね。

禿 あの建物にはこれまでいろんな人やモノが出入りしてきたと思うんですが、それを受け入れてきた土壌というか、あの場ならではの空気が滲み出ているような感じがありますよね。あと清澄白河にはアート関連の施設も多いので、『KUMA EXHIBITION 2021』の会場としてぴったりだと思いました。

そして次は「tokyobike」さんが入られる、と。

鈴野 はい。現在僕らが設計していて、これから tokyobike さんのフラッグシップショップになります。ああいう倉庫みたいな感じの場所ってなかなか見つからないことに加えて、ちょうど工事に取り掛かる前のタイミングだったからこそ実現できたんですね。

前回のインタビューで「会場構成は、場所や建物ありき」というお話がありましたが、あの建物に学生クリエイターの作品を展示すると、どんなことが起こると想像されたのでしょうか。

鈴野 全体的に未来を見据えたような作品が集まっていたわけですけど、一方で、未来というのは完成形として表現できるものではないんですよね。そういう前提がある上であれらの作品群をホワイトキューブのような空間でカチッと見せてしまうのはちょっと違うというか。それよりあの建物にレイアウトするほうが絵になって、人の記憶に残るんじゃないかと考えました。

禿 あの建物が持つ「ワーク・イン・プログレス(進行中)」という感じの雰囲気がまさにフィットしたと思います。あそこはいい意味で “完成されすぎていない箱” なので、本展のテーマである『New normal, New future』にもハマりましたよね。

「未来に向かって進行中」の学生クリエイターの作品がフィットする建物だったんですね。続いて、会場構成の進め方について、お話しいただけますか。

禿 まず撮影を前提に構成する必要があったので、ドローン撮影のしやすさとか、Matterport や映像になったときの見栄えも含めて作品の配置を決めていきました。たとえば、通常の展覧会では基本的に人の目線に沿った位置に作品を置きますけど、今回は天井高の高い空間を生かして、作品がなるべく空中に浮いて見せるようにするなど、オンライン展覧会ならではの会場構成をしていきましたね。

鈴野 カメラが会場入口から入るときに、あらゆる作品が正面を向いていたらインパクトがあるのではとか、カメラが横方向に動くだけで一通り紹介できるとスマートかなとか、カメラが上下に動いたときの見え方がどうなるか……といったことを一つひとつ確認しながら進めましたね。それと僕らが作った什器やサインと、学生が作った作品を分けるために、僕らが作ったものに関してはある種の記号として、工事現場で使うブルーシートで覆うようにしました。

禿 あとは通常の展覧会とも共通しますが、物理的に大きな作品の場所を決めて、それから隣り合った作品同士のコントラストや連鎖反応といったものを頭で描きながら配置しましたね。現場に入ってからも入れ替えたり回転させたりして、会場やサイトに訪れた方がちょっと気になって見てみたくなるようなきっかけを要所に作り、さらに奥や上階へと進みたくなるようにしました。

「ちょっと気になって見てみたくなるようなきっかけ」ということですが、まず会場入口にいる黒装束の三人(作品名『Uber Existence』)がインパクト大で、ボタンを押さずにはいられなかったです。

鈴野 あれはもう、あそこにあるべき作品ですよね。彼はアプリケーションを介して疑似的に外を歩いている感覚になれるようなサービスを(架空で)作っているわけですけど、まさにオンライン展覧会の新しいナビゲーションの仕方を予感させるものになっていたというか。本展の入口として、あれ以上のものはなかったと思います。

禿 本人も「あそこに置いてもらえたからこその説明ができた」と喜んでくれていて……彼に限らず、学生クリエイターの方とオンラインで打ち合わせしているときは作品の微妙なニュアンスがわからなくてドキドキでしたけど、逆に不確定要素を予測するのも刺激になったりして、新鮮でしたね。

 

鈴野 今年はリアルではあまり会えなかったけど、下見や設営も含め、お会いできた方に関しては話を聞くことができて、やっぱりみんな面白かったですよね。

禿 一つひとつの作品は結構シュールでストイックなものが多かったのですが、実際に会場に並べてみるとハッピーで華やかなテーマパークのような感じになったので、ほっとしました。

鈴野 全体で一つの作品みたいになっていましたよね。来場者が基本的にいないという特性をポジティブに捉えて、通路を最小限にして作品同士の距離をあえて近づけて、通常ではあり得ないような密度で作品を並べたりして……『KUMA EXHIBITION』ならではのパワーのようなものを表現できたと思っています。

「『KUMA EXHIBITION』ならではのパワー」とは、具体的にはどんなものだと思われますか。

鈴野 学生クリエイターの作品が集まったエネルギーとも言えると思いますが、やっぱりみんな熱があるんですよね。この展覧会に限らず、大学やジャンルを超えてコラボレーションした作品をあちこちで発表していて、すごいなと思っていました。

禿 作品によってはもはやジャンルの境界線がないような気もしていましたね。あと今回は、会場で物理的に展示して発表する方と、自分で映像にして発表する方という2つの発表方法がありましたけど、オンライン展覧会では両者がフラットになるというか。この展示形式だからこそ生まれる感覚もあるのではないかと思います。

さらにリアルな会場とオンラインが融合した好例というか、ヒューマンビートボクサーのSWOW-GOさんがあの会場で即興でパフォーマンスをして、映像作品として公開していたのは印象的でした。

鈴野 実際、コロナ禍では演劇やライブなどもできなくなっているので、そういったヒントのような作品ができるといいなとは思っていましたね。そういえば、最初は「無観客なのにリアルでやる意味があるのか」と考えていましたけど、完成した『KUMA EXHIBITION 2021』のコンセプトムービーやWebサイトを見たら単なる “記録“ ではなく “作品” のレベルになっていたので、やっぱりカメラマンの方にきちんと撮ってもらって良かったと思いました。

禿 こういう形の展覧会ってまだ少ないと思いますけど、いろんな可能性は秘めているはずで、もっと別の形も探っていきたいですよね。

鈴野 展覧会のこれからのあり方については考えましたよね。バーチャルが良くできているとも思ったし、(従来のようには)移動ができない今、オンライン展覧会のメリットをたくさん感じたわけですけど、その上でリアルな場の大切さにも改めて気づかされたこともあったりして……人間がライブで見ている視覚の情報量との違いは感じましたよね。たとえば演劇などは「半年かけて準備して、公演は1週間」なんてことがありますけど、それでも実際に観た人からは何年経っても「あれ、すごい良かったよね」と語られるようなことがあるわけで。そういう、物理的には消えてしまっても、どこかで生き続ける体験のようなものは確かにあるというか。

それはありますよね。ほかにも従来の展覧会との違いについて感じられたことなどあれば、お話しいただけますか。

鈴野 それで言うとコロナ禍で変わっていったことの一つに、木材が入手しづらくなったというのがあります。たとえばアジアから輸入するラワンベニヤなどは貴重で、そういうものを数日の展示のために使って壊すよりは、別のアプローチができないかと考えるようになりましたね。

禿 その中であの建物を生かして開催できたことは、一つの事例になるのではと思います。

鈴野 テナントの空き期間を有効活用して、アーティストが発表する場がフレキシブルに提供されたのも良かったですよね。こういうふうに空き店舗を1ヶ月だけギャラリー的に貸し出すような視点が広がるといいなと思います。ビルの価値も上がって、相乗効果になるといいですよね。

相乗効果と言えば、tokyobike さんと学生クリエイターとのコラボレーション作品もありましたね。

鈴野 東くんの作品も、あの会場と相性がすごく良かったですね。彼は自転車を使った立体作品を作っていたので、なにか面白い展開になったらと思って紹介してみたら、tokyobike さんから自転車を提供してもらえることになって……それも試作品で、廃棄するしかないということで、もとの創作コンセプトにもフィットして素晴らしかったと思います。

禿 最初は外壁に自転車をつけるデザインを考えていたんですよね、「穴を開けたい」とか言って(笑)。

鈴野 そうそう。でも外壁はキープしたかったので、室内に設置してもらいました。あの建物も、撮影時とはまた変わった形になるので、いつかみんなで見に行ってもらえたらいいなと思います。おいしいコーヒーでも飲みながら、ゆっくり話してほしいですね。

 

そこでまた新しい作品が生まれたりしたら、ぜひクマ財団のホームページで紹介したいと思います! 最後に、このプロジェクトを通しての所感や学生クリエイターへのメッセージなどをお話しいただけますか。

禿 改めて振り返ると、『KUMA EXHIBITION』は全員と1対1で対話しながら展示内容を決めていくのが特徴的な展覧会で、これって学生クリエイターにとってはかなり貴重な機会なのではないかと思います。一人で作品と対峙して作る時間も大切ですけど、それと同時に、展示内容や設置方法を外部の人と交渉しながら決めて、作品を発表していくことも大切なので、こういう展覧会の在り方が続いていくといいですよね。

鈴野 年々こういう財団による奨学金サポートとか、企業の協賛といったものがどんどんなくなってしまっているのですが、さらにコロナで追い討ちがかかるようなこともあったりするので、この活動の大切さを再認識しましたね。あと、クリエイターの方には作品を発表していく中でいろんな出会いがあって、世界が広がっていくものだと思うので、今後は自分の活動を発信していく力も重要になるのではと思います。今回のオンライン展覧会などもうまく活用してほしいですね。

禿 純粋にクリエーションする人たちをリスペクトしていますので、みなさんが活動を続けられるように、クマ財団のような感じで、企業によるサポートの土壌がもっと整備されていくといいなということも考えたりしましたね。

鈴野 まさにコロナ禍にあって世界中が共有しているネガティブな課題があると思いますけど、そういう中でもポジティブなものを発信していけるのがアーティストだったりするので、みなさんにはすごく期待しています。僕自身、接していて楽しかったし、本当にエネルギーをもらいました。応援しています!

貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。今後のトラフさんのご活躍も楽しみにしております!!

※ 本取材はオンラインで実施しました。