インタビュー
【9期生対談vol.15】「現実世界のフィクションみ」を考える 対談: みずかみしゅうと(彫刻家) + 日下部浮(現代美術家)

クマ財団9期生による、クロストークを行う本企画。第15回は「現実世界のフィクションみ」をベーステーマに掲げ、みずかみしゅうと(彫刻家) + 日下部浮(現代美術家)の2名が互いの持ち寄った質問に答える形で意見を交わします。
聞き手:クマ財団事務局
執筆:小泉悠莉亜
クリエイター写真撮影:コムラマイ
9期生対談シリーズ一覧はこちら|https://kuma-foundation.org/news/13491/
———今回は「現実世界のフィクションみ」を起点に対話をしていただきたい2名のアーティストに集まっていただきました。まずは読者のみなさまに、自身の活動を含めた自己紹介をお願いいたします。
みずかみ:みずかみしゅうとです。東京生まれで、現在は東京藝術大学大学院 美術研究科彫刻専攻に在学しています。日常生活のなかにある、「すこし影が薄いけれども魅力的なもの」を見つけ、それらを題材にして鑑賞者の意識が変化したりしなかったりするのをつくっています。彫刻が中心ですが、時々、インスタレーションや映像、3D造形も用いた制作をしています。

みずかみしゅうと《4羽のメジロのための棺桶》2025
みずかみとその友人が捕獲したヘビが4羽のメジロのヒナを吐き出したことに端を発し製作された彫刻作品。すでに息を引き取ったヒナ達のために「何かできることはないか」と思索し、ヘビに勝てるほど強いものを作ろうと4メートル大の棺桶を生み出した。
日下部:日下部浮と申します。みずかみさんと同じく東京藝術大学にて、先端芸術表現科に籍を置いています。空間の翻訳方法に関心を持っていまして、小説の中に広がる都市や夢の中の航海について、私たちがどのように語れるのかを思索中です。また文章や小説を単独制作するのではなく、それを元に映像やインスタレーションなどに転用した作品を制作しています。

日下部《ポ(ッピング)・フィクション》2024
架空の街を舞台に執筆された四篇の短編小説と、バラバラになったレゴのピースをひとつの建物内、別々の階に設置したインスタレーション作品。シミュレーション空間で生成された現実が忠実に記述されたという設定の小説を読みながら、鑑賞者は空間内を自由に移動し、展示を巡る。
———ここからはおふたりに持ち寄っていただいた質問を軸に展開します。まずは「『作品のレシピ』を公開して、誰でも再現できる作品を今後作りたいですか?(日下部さん)」です。
日下部:みずかみ君は学校が同じで親交は深いものの、聞きたいことばかりです。そのなかから代表してこの質問をもってきました。前提としてみずかみ君の作品の凄さは、なんといってもみずかみ君の高い造形力に拠りますが、その一方で映像作品などからは全く異なる毛色を感じます。「こんなことしたら面白いんじゃないか?」というアイディアをもとにトライしているような……。複数の異なる製作スタンスを持っているように見えるみずかみ君だからこそ、いっそ技術やテクニックを抜きにして、「レシピ」さえわかれば誰でも再現できる作品を作ってみたいと思うことがあるのか聞いてみたいです。
みずかみ:そうですね……。僕自身も、初手ではなく二手ぐらいあとにこそ良いものが作れるんじゃないか?とよく思います。それは「レシピ」の再現でもいいですし、究極的に言えば、「自分じゃないと作れない」みたいな技術的な部分や、個人的なストーリーさえも誰かが作品をブラッシュアップしてくれたら面白そうですよね。
日下部:映像以外でも、おもちゃやフィギュアなど、みずかみ君が作っているものはそもそも大量生産できる作品やプロダクトも多いですよね。
みずかみ:彫刻は製作時間がかかる分、サブミッションとして嗜好の異なるものを作りたくなるんだと思います(笑)。彫刻だけだとどこか動きづらいというか、瞬発力が衰える感じがあって……おもちゃを作ったりしてバランスを取っているのかもしれません。彫刻とそれ以外のものを組み合わせた作品も、これまでにいくつか作っていますね。彫刻作品の一部に映像を組み込んだものもありますが、ひとつの展示における幅の広さ———見飽きさせたくないという思いもありますが———を持たせたくて、彫刻作品と、映像作品を並べて展示したこともありました。
みずかみしゅうと《海の中の山の中の海の中の山の中の》2024
日下部:『海の中の山の中の海の中の山の中の』というみずかみ君の作品は、モニターには映し出された広大な海の中にモニターがあって、その中には山の風景があって、さらにそこに置かれたモニターの中には海があって……と、海と山が永遠に続く映像表現なのですが、入学したての時にこの作品を観て「すごいこれ!」と度肝を抜かれた記憶があります。みずかみ君がこの作品を作ったのは学部3年生で、今僕も同じ年次に上がりましたが、やっぱりあの作品はすごかったとまだ感動が冷めないです。
みずかみ:ありがとうございます。実はあの作品もリメイクしたくて。安いモニターを使ったので……。
日下部:そうなんですか? でも本当に鮮烈な印象で脳裏に焼き付いていて、今でも完全にあのビジュアルを覚えています。オンラインミーティングで画面共有する時に間違ってインカメの画面を共有しちゃった時と同じ状況ですよね。
みずかみ:そう、「ドロステ効果」ですね。オランダのココアブランド・ドロステのパッケージが由来で、パッケージに描かれた看護婦が持つココア缶のパッケージに、同じくドロステを持った看護婦が描かれ、さらにそのパッケージにも同じ絵が描かれている……という、無限に続くように見える視覚効果をアレンジしました。でも作品を作ったいちばんの思いは、「海も山両方見てー、俺両方好きだしー!」みたいな、好きなものをいっぺんに見られたら楽しくて嬉しいだろうなという気持ちでした(笑)。
日下部:初動のピュアさがすごく良いですよね。素朴なきっかけから、キャッチーなビジュアルにまでパンッと持っていける面白い作品が作れるのは、みずかみ君の本当にすごいところです。
みずかみ:「素朴なきっかけ」みたいなものをほぼ毎日書き溜めていて、1日あたりだいたい五個ぐらい思いつきます。それを1、2ヶ月後くらい寝かせてから見直して、その時にもまだ新鮮さが残っていたら、製作に乗り出す気がしますね。
日下部:いわゆる現代短歌みたいです。日常の中にある気づきを五七五七七ぐらいの尺感で、面白く切り出していくような感覚のような。
みずかみ:詩が好きなことが関係していそうです。特に自由律が。『バカが傘さしてる』という北大路翼さんの作品があるんですが、ご本人曰くこれは俳句だそうで「そんなこともありなんだ!」と目から鱗が落ちました。そういう類の詩文にも影響を受けて、作品に関する文章も結構書いていますね。
日下部:あと、みずかみ君は屈指の鳥好きですよね。こうして会話していても、鳥が部屋の外に近づいてきたら、話すのを辞めて「鳥が来た……!」って喜んで(笑)。以前、井の頭公園をふたりで散歩していた時も、僕には聞こえない鳥の鳴き声がみずかみ君にはよく聞こえていて。カラスくらいであれば僕もわかるんですけど、いろんな鳥の鳴き声を聞き分けて、どの鳴き声がどの鳥かしっかり識別するんです。
みずかみ:エナガとコゲラだ……とか言ってね。エナガは昨今人気のシマエナガの一種で、北海道に生息するものの亜種なんです。その本州版がエナガで、今まさに窓の外で鳴いていました。
日下部:鳥ネイティブなんですよね、みずかみ君は(笑)。同じ日常を生きているはずなのに、僕と認知している世界が全然違うなとしみじみ感じます。
———ひと区切りついたところで次の質問です。「日下部さんの作品の根幹を担う『小説(文章)』と、形式的に構造が似ていると思うものは何がありますか?(みずかみさん)」。いかがでしょうか。
みずかみ:日下部君は、美術予備校時代から変わらず、作品のキャプションやステートメント、あるいは鑑賞者が展示を見て書いてくださったと仮定した「レポート」などの文章を手始めに作ってから、作品制作に着手すると聞きました。作品中に提示される文章を読み込んでもらわなくてもいいと思っているとも。だとすると日下部君にとっての「小説」ひいては「文章」はどう解釈すれば良いのか、ぜひ聞いてみたいです。
日下部:なんでしょう……。制作を始めた頃には、展示室と小説(読書体験)は似ていると思っていました。展示室には入り口と出口、順路があって、展示室が3つあったら、どれかを飛ばしてしまうと内容がわからなくなってしまったり、ひとつ前の展示室に戻るのにちょっと心のブレーキというか、面倒臭さのワンステップが挟まったりすることが、ひとたびページをめくったらその前のページに戻るのがちょっと面倒くさくなる読書体験と同じじゃないかなと。そうした一過性の体験として、鑑賞の舞台である展示室と読書体験はすごく似ていて、どちらにとっても重要な「入り口と出口、順路」をきちんと空間に落とし込めたら、展示体験は完璧なものになると考えています。
みずかみ:話を聞いていて、パラパラ漫画が頭の中に浮かびました。パラパラ漫画も割と不可逆というか、どんどん細分化していくと映像になっていくので仲間なのかなと。他にも似ていると思うものはありますか?
日下部:なんでしょう。他にも似ているものってあるんでしょうか。順序構造があって、ひとつひとつが独立しているように見えるけれども、経験としてひとまとまりに感じられるもの……。
みずかみ:戻ることも可能ではある。けれどもあんまり戻ることはしないというのが結構面白い構造だなと思うんです。
日下部:そうですね。テーマパークとかもそうかもしれません。たとえばディズニーシーのエントランスには巨大な地球儀があって、その地球儀を通過した各フィールドに各国の世界遺産をモチーフにしたアトラクションや建物が建っていて、そこを一通り巡り終えたら、最後にまた地球儀見て帰るじゃないですか。そうしたテーマパーク体験やスペクタクルな体験みたいなものは、小説と似た構造を感じますし、どこか妙に惹かれてしまいます。
みずかみ:そうだとすると日下部君にとって、小説と美術作品はどちらがメインか意識することはありますか? 作品次第かとは思うのですが。
日下部:難しい問いかけですね!(笑) これは完全に理想論ですし、あんまりこういうことを望んではいけないんですけど、鑑賞者の方々が、僕の作品を取り上げたレポートや感想そのものが「小説」になれば良い、と思っている節が大いにあります。物語的な体験のようなものとして……。作品を作る前に、「鑑賞者の体験レポートのようなもの」を書いて作品を作るように、鑑賞者の方々の「小説」が僕の作品の下地になるというか……!
みずかみ:本音としては、むしろ「小説」にあたる部分を鑑賞者に書いてほしいと。
日下部:そうです、そうです。けれどもそれは無理な話ですから、自分で書いて、その小説の中の世界でなにかを作ることにします。
みずかみ:鑑賞者に文章を書いてもらうとしたら、それは多ければ多い方がいいわけですよね?
日下部:そうです。鑑賞者の方々が作品の感想をSNSに投稿してくださるのとかって、めちゃめちゃに嬉しいです。キャプチャにとって保存しています! みなさんありがとうございます!

———おふたりともありがとうございます。区切りの良いところで今日の対談はおしまいにします。
「KUMA EXHIBITION 2026」が2026年3月に開催決定!

クリエイター9期生が参加する大型成果発表展「KUMA EXHIBITION 2026」 が、2026年3月28日(土)・29日(日)に開催決定!東京の青山・スパイラルにて、アート、テクノロジー、音楽、建築など多様なジャンルの若手クリエイターが集う本展。新進気鋭のクリエイターたちによる作品が一堂に会する、刺激的な2日間をお届けします。