インタビュー
結果を求める戦いのダンスから、東北の自然の中で自分を解放するダンスへ。〜4期生インタビューVol.34 YUGO〜
クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。
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4期生41名のインタビュー、始めます!
YUGO
1995年茨城県生まれ。
東北芸術工科大学 美術科総合美術に在籍中。
ダンスチームEdeeT(エディート)として、ニューヨーク「アポロ・シアター」の年間大会まで勝ち上がり、「NHK紅白歌合戦」出演やロサンゼルスで開催される「World of Dance」に出場するなど、国内外問わず活動し実績を残している。
現在はダンスの活動を続けながら、蔵王温泉街でワールドカフェ「PALETTE」を運営している。
https://kuma-foundation.org/student/yugo/
ニューヨークで感じた、踊りたいから踊るダンス本来の姿
――ダンスチーム「EdeeT」のメンバーとして世界的に活躍されていますが、まずはダンスとの出会いを聞かせてください。
YUGO ダンスを始めたのは高校卒業の間際でした。僕はいわゆる進学校に通っていて成績もいい方だったんですけど、途中から勉強に熱が入らなくなって何がやりたいのかわからなくなってしまったんです。そんなとき、中学時代の先輩が文化祭でダンスを踊っていた姿に憧れていたことを思い出して、先輩の近況をネットで調べてみたんです。そしたら仕事をしながらダンスを続けていることがわかって、こういう生き方もあるんだと衝撃を受けましたね。それがきっかけで自分もダンスをやろうと決めました(笑)。
――いきなりダンスをやろうと決めて、どう行動したんですか?
YUGO 地元にダンススクールがなかったので、東京に出ることにしました。亡くなった祖母の家が東京に残っていたので、「そこで一人暮らしをしながらダンスをやりたい」と親を説得したところ、2年間だけ好きなことをさせてもらえることになったんです。その代わり、その後は大学に進学するという約束でした。
それから東京でバイトをしながらダンススクールに通い始めたんですが、最初の半年くらいはすぐにでも帰りたかったです(苦笑)。高校の友達は楽しそうに大学生活を送っているのに、自分は一人でダンススクールに通っていて孤独でしたね。そもそも楽しくダンスができればいいくらいの気持ちで始めたので、将来、ダンサーとして活躍できるとも思ってない。そんな不安の中で練習してましたね。
――ダンスチーム「EdeeT」結成の経緯を教えてください。
YUGO アニメーションダンスと出会ってから、渋谷の宮下公園で練習するようになったんです。そこで有名なダンスチームの人たちが練習していて、アニメーションダンスを使って踊っていたので「一緒に練習してくれませんか?」と声をかけたんです。リーダーの人が僕のダンスを気に入ってくれて、チームに誘ってくれたのがきっかけでしたね。
――チームの中ではどんな役割を担っていますか?
YUGO 僕は主に振付になります。6、7人のメンバーがアニメーションダンスを軸に踊るわけですけど、ロボットが上手い人もいればウェーブが上手い人もいて、それぞれの技術や個性がバラバラなんですよね。それを一つにまとめてショーケースを作ることに面白味を感じていて、「個性がバラバラな人たちが新しい世界を創る」というメッセージを英語にして、末尾を取って命名したのが「EdeeT」なんです。
――ニューヨークのアポロ・シアターに出演していますが、アメリカでもっとも有名なクラブですよね。どうやって出演が決まったんですか?
YUGO 当初は国内のダンスイベントに出ていたんですけど、僕らのダンスはダンサーよりも一般の人の方が楽しんでもらえるかもしれないと思っていたので、試しにアポロ・シアターに動画を送ってみたんです。本来はオーディションを受けてようやく大会に出られるものなんですが、いきなり大会に出場できることになって、まずは週の大会に出ました。そこで勝ち上がることができて、次は月1の大会、その次は1クールの大会、最後の年間大会へどとんどん勝ち上がれたんですよね。
――エンターテインメントの本場でどんな経験が得られましたか?
YUGO とにかく楽しかったですね。評価方法が審査員ではなく歓声の大きさで決められるので、歓声が尋常じゃないんです。ダメなものには容赦なくブーイングを浴びせるし、面白いものは面白いと受け入れる。そんなエンターテインメントの雰囲気がすごく好きでした。
今でも強く印象に残っているのが、ニューヨークで出会った黒人グループです。街で動画を撮っていると大音量のスピーカーを担いだ黒人グループが「ダンスバトルしようぜ」と声をかけてきたんです。自信満々だったんですけど、いざ踊ってみるとめちゃくちゃ下手だったんですよ(笑)。だけど、上手い下手ではなく、自信に溢れた踊りがすごくかっこよく見えたんですよね。今でも“ダンスってそういうことだよな”と考えることがありますね。
ダンスから離れた東北の地で、再びダンスを見つめ直す
――ダンスを始めて2、3年で世界最高峰のステージに立ち、さらにはNHK紅白でバックダンサーを務めるなど、普通じゃ考えられないくらい順調ですよね。
YUGO 自分でも実感がわかなくて、ずっとふわふわしてましたね。アポロ・シアターに出たことで国内でも有名になって仕事ももらえるようになり、自分を慕ってくれる後輩もできたんですけど、自分の技術に納得できなくて必死に練習を続けてましたね。
アンダーグラウンドのダンス界では、ダンスバトルに勝てば実力を認められるという文化があって、僕も出場していたんですけど、勝ちきれなくて悶々とした日々が続きました。バトルではガツガツ相手を倒しにいくようなパフォーマンスが求められるんですけど、自分はショーケースを中心にやってきたのでバトルに馴染めなかった。それからダンスの熱がどんどん冷めていったんですよね……。
――それこそ上手い下手を気にせずダンスを楽しんでいたニューヨークの黒人グループが思い出されたのでは?
YUGO そうなんですよ。それに比べて自分は結果を気にして練習も手につかないし、仕事もこなすような感じになっていて、これは良くないな……と強く感じでいました。2年という親との約束を3年に延長してもらってダンスを続けていましたが、3年の終わりにはダンスへの情熱もなくなりかけていて、いったんダンスから離れようと思ったんです。実家に帰って1年ほどのんびり大学受験の準備をしてから、山形の東北芸術工科大学に行くことにしました。ダンスから離れるために東京からも離れたかったんですよね。
――一転して美術を学ぶことになって、心境の変化はありましたか?
YUGO 一から美大で頑張ろうと思って、とにかく毎日デッサンの練習をしてましたね。あるとき教授に話しかけられて、ダンスをやっていたことを話すと、「ダンスを辞めたと言うけど、きみを創っている一部分だよ」と言われたんです。ダンスを過去のステータスみたいに使うことに抵抗があったんですけど、それから自分の感覚の一部としてダンスを捉えるようになって、ダンスとゆっくり向き合えるようになったと思います。
――ダンスとの向き合い方が変わることで、表現も変わりましたか?
YUGO 自分は周りを気にしすぎて「こういう表現をしなければいけない」という枠を作ってしまっていたんですけど、否定されてもいいから一回それを壊してやってみようと思えるようになりましたね。それから山形の自然の中でダンスをして映像作品を創るようになったんです。クラブで踊るのも楽しいんですが、外てきれいな景色を見ながら何も気にせず踊るのが気持ちよくて、何かから解放されるような感覚があったんです。自分はダンスが好きじゃないと思っていたけど、踊ること自体は嫌いじゃないんだなって気づきましたね。
――EdeeTの活動の方はどうなりました?
YUGO しばらくダンスから離れたことで、すっきり分けて考えられるようになったと思います。EdeeTの活動では、ロサンゼルスで開催される「World of Dance」に出場しようということになって、一昨年は練習のために東京と山形を行き来する生活を送っていました。久しぶりに振付をするのも楽しめたし、大会に出たりショーのお仕事をするのもまた楽しめるようになりました。以前と変わらずメンバーとはいい付き合いができています。
――最後に現在の活動と、今後の展望を聞かせてください。
YUGO 僕は空き家のリノベーションにハマっていて、蔵王温泉街の空き店舗をリノベーションして、大学の友人と一緒にカフェ兼アートスペースとして「World Cafe PALETTE」を去年9月にオープンしました。蔵王温泉街は東北芸術工科大学と近いので、学生やアーティストが集まれる“居場所を作りたい”という思いがあったんです。
今後もダンスは続けていくつもりですが、山形でお店を作る活動と東京でダンスの活動をしていて、自分でも活動がバラバラのような気がします。だけど、自分でもまだ気づいてないところでつながりがあるんじゃないかと感じています。ダンスを主とした表現のための場所を作りたいのか、それとも居場所を作るためにダンスをやっていくのか、今一度、自分の核となる部分を見つめ直すことが重要になってくると思っています。
――本日はありがとうございました!
YUGO information
■ワールドカフェ「PALETTE」
https://world-cafe-palette.business.site/
山形県山形市蔵王温泉940−5
【営業時間】土日のみ営業 10:00~18:00
Text by 大寺明