インタビュー

独自に開発した「デジタル木版画」は、私にとって技法自体が一つの作品。〜4期生インタビューVol.40 しろこまたおさん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。

彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

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4期生41名のインタビュー、始めます!

しろこまたお

1994年神奈川県生まれ。
版画家。
多摩美術大学大学院 修士2年在籍。
デジタル機材を導入した独自の木版画技法を提唱。
神話的物語性・現代的装飾性・デジタル木版画という3つを主な思索主題とし創作活動を展開。
OFFICIALSITE:https://taoshirokoma.com

https://kuma-foundation.org/student/tao-shirokoma/

 

 

自分が意図しないイメージが表れてくる版画の魅力

 

――デジタル機材を導入した独自の木版画技法ということですが、これはどんな技法なんでしょうか?

 

しろこま 木版画というと、木材を彫刻刀で彫って、バレンなどの道具で摺り取る伝統的な手法を思い浮かべますが、私の技法では、Adobe Illustrator 等のグラフィックソフトを使って下図作成、色校正、版分解などを行って版画的層構造をデジタルデータ化してから、レーザー加工機によってデジタルデータを木材へ出力し、版木作成を行なっています。版画にする場合は、版木でインクを紙に何層も重ねて絵にしていくんですが、同じ技法でレリーフや立体造形も制作していて、その場合は木版自体を手で着彩して、版画のように重ねていきます。

最初にサイズと色を決めてデータ上でイメージを全て作成するんですけど、デジタルで作成したものがそっくりそのまま形になるわけではなく、レーザー加工機で読み取るためにデータをモノクロに置き換えたり、実際のインクに置き換えるといった過程で表情がまったく変わってきます。私はそこに面白味を感じていて、独自に考えた技法として、「デジタル木版画」と呼んでいます。

 

――もともとは普通の木版画をやっていたんですか?

 

しろこま 実は多摩美術大学では油画科に在籍していて、版画は個人的にやっていることなんです。というのも両親が版画家なので、親から版画の基礎を学べましたし、家にレーザー加工機があったんです。大学1年までは普通に紙に絵を描いていたんですけど、自分の頭の中のイメージをそのまま作品にすることに違和感があって、新鮮さが感じられなくなったんです。試しに自分の絵で版画を創ってみたところ、これが思った以上に作品として納得できる出来だったんですよね(笑)。

版画はまず絵が反転しますし、インクの摺り順やプレス機の圧などいろんな要素が関わるので、出来上がりを完璧に予測することはほぼ不可能です。常に自分の予想を超えてきたり、意図しないイメージが構築されていくことに魅力を感じて、自分の方向性みたいなものが見つかっていった感じでしたね。

 

――デジタルを用いながら不思議と手のぬくもりを感じますが、制作においてこだわっていることは?

 

しろこま 作品に雫やひび割れといった自然の模様が入っていたりするんですが、それは意図したものなんです。実際に紙の上にインクを飛ばして雫をスキャンしたり、家具のひび割れを写真に撮って、Illustrator上で使える素材にしています。古着屋さんの床にきれいな木目を見つけたり、道を歩いていてひび割れを見つけて写真に撮ったり、普段から素材集めをしているので、自然模様の素材は、必ずどこかに元になるものがあるんですよね。

それをモノクロに置き換えて、さらにトレースしてデータ上の素材にしていくという流れで時間はかかるんですけど、手作業でやっていることはほぼデジタル上で再現できます。だからデジタルで創ると言っても、手作業の味が失われるわけではないと思っています。手作業だとインクの雫を微調整するなんて無理ですけど、デジタルならそれができます。むしろ手作業の良さをさらに発展させることができると思っています。

デジタル木版画の制作過程。手作業で作ったような、ぬくもりのある作品になってゆく。

 

 

――デジタル木版画ならではの利点としては、どんなことが挙げられますか?

 

しろこま 大きく10項目くらい挙げられるんですけど、もっとも大きな利点と言えるのが、差異0のネガポジ反転関係の版を作成できることです。版画は凹で彫るか凸で彫るかの2パターンありますが、ひび割れや木目といった複雑な自然模様であっても凹と凸のどちらの版でも作成できます。従来の彫刻刀を用いた手作業では、このような2 版を作成することは極めて困難ですが、デジタル機材を用いることで反転関係の版同士の重なりを追求することが可能になりました。これは版画において革新的なことで、自分が作品を創るときも、この考え方がとても重要になってきます。実際、多くの作品でこの反転関係の版を活用しているんですよね。

 

 

 

自分、国、言語という制約から解放された神話的物語性

 

――版画に留まらず立体作品も創っていますが、フレームから飛び出すことでどんな表現が可能になりましたか?

 

しろこま 版画的な思考を3次元的に応用してレリーフや立体造形作品も創っているんですが、最近はアクリルやステンレスなどの素材も使ってます。いろんな素材に置き換えることで物理的な厚みが増し、版画とはまた違う世界観が構築できるようになってきました。私はもともと絵から入ったわけですけど、レリーフや立体作品を作れるようになったことで、すごく自由になりましたね。

展示会「Exhibition No.5 -aoiro no jikan-」の様子。(2020 woodcut,inkjet print 390×690(mm) ed.8)

 

――「神話的物語性・現代的装飾性・デジタル木版画」の3つを思索主題にしているそうですが、「神話的物語性」ではどんな思索をしていますか?

 

しろこま 自分の場合、ほとんどイメージを持たずに作品を創り始めるんです。まず作品のサイズと色を限定して、三角や星や人型、あるいは木目やひび割れといった素材を一つひとつ当てはめていくんですね。たとえば手を挙げた人型の素材を用いるとしたら、頭の上には星を乗せても月を乗せてもいいわけです。素材の並べ方を変えるだけで作品の印象ががらりと変わるので、いろんな組み合わせによる偶然性から作品を構築していくことがほとんどです。

そうやって元になるイメージを作成した後、凹凸のデータに置き換えて、さらにレーザー加工機で板材に置き換え、インクを乗せて摺って版画に置き換えていくという過程で、自分のイメージを超えたものが表れてきます。そこに全人類に共通する神話的物語性みたいなものが含まれているように感じていて、自分でも「こんな物語があるんじゃないか?」と想像しながら出来上がったものを見るんですよね。

 

――なるほど、鑑賞する側が物語性を見出すわけですね。

 

しろこま 今のところ人型や星といった物語を連想させる素材を使うことが多いので、最終的にファンタジックな作品になっていますが、素材はなんでもいいわけですから、本当はいくらでも作風を作ることができます。たとえば三角や矢印の素材を使って、色を黒に限定した幾何学的な作品も創ったりしています。私はデジタル木版画という技法自体を作品として捉えているので、自分でいろんな作品を創るだけでなく、他の人がこの技法を使ってまったく違うイメージの作品を創ってもいいと思っています。

 

――「現代的装飾性」については、どんな思索をしていますか?

 

しろこま 作品を展示するときの外側のイメージを考えています。従来、額縁は作品を入れて展示するための四角いものですけど、自分の場合は額縁にも版画的な思考を応用していて、中の作品と同時にデータで作成していきます。作品に合わせて額縁の装飾や形が連動して見えるようにしていて、額縁も含めてひとつの作品という意識なんです。そうした方法自体が現代的な新しい装飾性のあり方なんじゃないかと考えているんですね。

 

――国籍や時代性を感じさせないドリーミーな作風ですが、どんな世界観を表現したいと考えていますか?

 

しろこま 自分のイメージを超えたものを表したいと思っています。自分がイメージしたものって、自由に考えているようで実は環境や国や言語などに限定されて、すごく制約されているものだと思うんです。デジタル木版画の間接的な技法を使っていると、自分が意図しないものが出てくることがしょっちゅうあって、そこには自分という主体や国や言語に支配されていない領域が広がっているように感じています。

 

――デジタル木版画でどんなことに挑戦していきたいですか?

 

しろこま デジタル木版画は、まだまだ途中段階で日々改良する点がたくさんあります。素材の組み合わせや色の限定、立体作品の配置など試したいこともいっぱいあって、終わりがない世界なんですよね。まず目の前の作品を創ることが先決ですが、それが完成したら次はこれを試してみようという積み重ねで、今後もよりよい作品を創り続けていきたいですね。

 

――本日はありがとうございました!

新型コロナウィルス感染防止のため、オンラインにて取材。(画像は新作の木版画)

 

 

 

しろこまたお information

■NEWoMAN 横浜window

2021年4月1日(木)~5月31日(月)
【場所】JR横浜駅「NEWoMAN 横浜」内

 

■H.P.FRANCE WINDOW GALLERY MARUNOUCHI

2021年4月5日(月)~5月13日(木)
【場所】丸ビル/東京都千代田区丸の内2-4-1

 

 

 

Text by 大寺明

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