2024-25
《幾重の脈動/The Layered Pulses of Living》
大切な人の訃報を知った。彼は私の祖父に似ていた。柔らかな空気と鋭い厳しさ。幼稚園生の頃に亡くなった祖父が、再びこの世を去ってしまったように感じた。その日、私はチューリッヒの老人ホーム Matternhofの認知症部門でフィールドワークに参加していた。遠い昔にギリシャからスイスに渡った女性は、ギリシャ語で私に語りかける。言葉の意味を何も理解できないままに、握られた手のしっとりとした質感の下層から、生命の脈動が如実に語りかけてきた。
ある地域においては、愛する人を記憶に留めるために、遺体の一部を取り込む儀式が存在していた。食べることは愛に近い行為として機能し、故人の忘却から逃れ、記憶を留めようとする。鼓動が止まったときではなく、生者の記憶から喪失されたときに生命の死が訪れるのかもしれない。
行為する、息をする力を持った個々の生命の源が、この惑星から、すっと消えてしまうこと。夏の暑い日に亡くなった彼を胃に招くことで、私の脈動が続くまで、記憶と存在を身体の内に留め置きたい。食べるとは、他の生命の脈動を引き継ぐ行為だ。彼は私の心身の一部となり、共に生きている。生きていた頃よりも、ずっと私の傍にいる。
▶▷▶▷グループ展詳細ページ:KUMA experiment 2024-25 vol.5 『線的時間の面的再現』
©NANAMI TOMITA

