インタビュー
【9期生対談vol.3】「目に見えない世界とは?」を考える 碇栞奈(幽霊画家) + 比嘉光太郎(UFO研究家・ホラー映画監督)

クマ財団9期生による、クロストークを行う本企画。第3回は「目に見えない世界とは?」をベーステーマに掲げ、碇栞奈(幽霊画家)+ 比嘉光太郎(UFO研究家・ホラー映画監督)の2名が互いの持ち寄った質問に答える形で意見を交わします。
聞き手:クマ財団事務局
執筆:小泉悠莉亜
クリエイター写真撮影:コムラマイ
9期生対談シリーズ一覧はこちら|https://kuma-foundation.org/news/13491/
———今回は「目に見えない世界とは?」を起点に対話をしていただきたい2名のアーティストに集まっていただきました。まずは読者のみなさまに、自身の活動を含めた自己紹介をお願いいたします。
碇:京都芸術大学大学院博士課程の碇栞奈です。普段は幽霊画を中心に、「見えないもの」が見えるような絵画表現、素材表現を探求しています。最近は絵画以外の表現も模索中です。なぜ幽霊に惹かれるのかを考えると、自分自身が幽霊に近い感情を抱いているからかもしれません。幽霊は対象であると同時に自己像でもあり、制作は「私が幽霊になっていく過程」を描く試みと言えるかもしれません。

碇 栞奈《幽明ノ境》2024
全面に貼られた裂布に、角度によって光沢が変化する素材を用いることで、見えるもの/見えないもの」のあわいを視覚的に表現した。素材そのものの物質性と視覚効果を取り込むことで、幽霊という存在の不確かさを空間全体で提示している。
比嘉:比嘉光太郎です。自分の活動としましては、映画・映像制作がメインで、ジャンルとしてはホラーです。ホラー映画と言いつつ、ちゃんと怖いかどうか分からないものもありますが(笑)。それから月刊オカルト雑誌「ムー」のWEB版、『WEBムー』に寄稿することもあります。

比嘉 光太郎《戦慄の受胎告知》2022
宗教体験とUFO的存在を接続し、神なのか宇宙人なのか判別不能な存在を「説明」ではなく「描写」によって描こうと試みた監督発作品。次作「エーテリアン/霊人」では、ボーダーランド科学研究協会のメード・レイヌの「宇宙人ではなく〈霊人〉が存在する」という説を援用し、幽霊とも宇宙人とも異なる存在の可能性を映像化した。
———ここからはおふたりに持ち寄っていただいた質問を軸に展開します。まずは「作品のインスピレーション源としてホラー映画は観ますか?(比嘉さん)」です。
比嘉:碇さんの描かれた「うらみの蠕動」シリーズのひとつ、「あがほとけ」を拝見した感想でもあるんですが、視線誘導が巧みだなと思ったんです。まず真ん中に浮かびあがった骨に目が向く。そこから骨壷、それを握る喪服の女性……と左右に視線を泳がせる自然な流れができていて。演出という言い方が正しいかはわかりませんが……こうした見せ方の源泉はどこなんだろうと思いまして。映画制作にも通じるところがあるのでお伺いしてみたいです。

碇 栞奈《あがほとけ》 2025
碇:実はホラー映画を参考にすることはあまりありません。対象を絞らず、色々なものを参考資料としています。興味あるものから中心に見ていきながら、おすすめしていただいたものも参照する形で。幽霊画を描いているものの、ホラー映画に対しては、怖さが勝るんです。おすすめされて観る場合はあるんですが……。最近ですと「仄暗い水の底から」を観ました。
比嘉:中田秀夫監督の作品ですね。
碇:はい、おそらく。比嘉さんに今回見ていただいた「赤仏」に関して言えば、当初は中心にある骨だけを描いていました。描きあげてから、両サイドに空間がありすぎると思ってしまい、両サイドに、うっすらとしか見えない手と、着物を着た女性を描き足しました。そうしたら絵を描く方々からは「絵が喋りすぎだ」というご意見をいただいたので力尽くで薄くしたんです。結果的には薄くしたことで、絵の中心部に近寄ると「あっ、なにかいるな」と感じる効果が生まれたので良かったです。

碇 栞奈《あがほとけ》 2025

碇 栞奈《あがほとけ》 2025
比嘉:難しいところですよね。絵を描く人、要はその道の人にとっては「くどい」と評されるものでも、僕みたいな門外漢にとっては、普通にすんなり受け入れられる場合もあるでしょうから。映画に例えるならば、「勇者ヨシヒコ」シリーズの福田監督節が効いた「物事をやたらと長く説明するセリフ」は、映画好きとそうでない人で評価が二分されるんです。前者にとっては、くどくて「ダメ」、後者にとっては、分かりやすいし「いい」。そういうことをひっくるめると、じゃあ誰に向けて作品を作るのかについて考えちゃいますよね。
碇:それについて、比嘉さんはどう考えていますか。
比嘉:媒体の強みを生かした方が良いと思っています。本を書くならマニア向けでも、説明過多でも、文章だから通じるような気がしますが、映画はむしろ逆で、中学生が見て楽しめるトーンを目指しています。
———ありがとうございます。次の質問です。「制作において意識している宗教観はありますか?(碇)」。いかがでしょうか。
碇:うまく言葉にできるかわからないんですけれども……。かつて幽霊の幅を出すために、映画「リング」を参考にしたことに対して、「あなたが扱っている幽霊はそういう幽霊じゃないよ。あれはブードゥーだから気をつけてね」とご指摘いただいたことがあるんです。あれはいわゆるブードゥー教に近いものだ、と。そうした意識は私にとっては少し難しいのですが、「目に見えないもの」を表現しようとすると、自然と宗教の類にぶち当たるわけじゃないですか。その宗教観の違いから、「あなたが表現したかったものって本当にこれなの?」と自然な流れで問われることになるんです。そうしたことを踏まえて、比嘉さんが意識されている宗教観はあるのかなと気になりまして。
比嘉:宗教観ですか……いや、特にあんまり意識しませんが、漏れ出てしまうものは結構ありますね。今現在特定の宗教を信仰していることはありませんが、もともとキリスト教福音派家系に生まれましたので、気付けば泥酔時にめちゃくちゃ讃美歌ばっかり聞いている、みたいなことは日常的にあります。作品で例えるならば、映画「戦慄の受胎告知」のラストシーンでは、空に異常な何かが現れてホワイトアウトして、最終的に万物が全てひとつになります。この世界観は、世界が終焉を迎えるとき、神様が空からやってきて全部チャラになるというキリスト教の教えから知らずうちにインスパイアされているのかもしれません。そうやって振り返ると、染みついてしまった元来の宗教観からは抜け出せない感じが大いにありますね。

映画「戦慄の受胎告知」のラストシーン
———クマ財団からもおふたりにお伺いしたい質問があります。おふたりの扱う幽霊や超常現象に対しての向き合い方を教えていただきたいです。対象が存在すると実際に信じていますか、あるいは、研究対象として割り切っているのでしょうか?
比嘉:自分の場合ですと、信じたい気持ちがあるんですよ。ただ何かが邪魔をしていて、その邪魔をする気持ちが創作物に向かわせるように思います。そこがまさにせめぎ合いのポイントですが、おそらく30歳前後で急にタガが外れて完全なビリーバーになり、探求する必要もないほどの領域に至ってしまうような気もしますね。
碇:それはどうしてですか。
比嘉:ミッドライフクライシスという時期が人生にはあるらしいんですが……要は、人が人生を誤りがちな時期だそうです。実際にイエス・キリストもブッタもムハンマドも30歳前後で修行に出て悟りを啓いていることを考えると、自分はタガが外れる方向にいくんじゃないかと(笑)。碇さんはどうですか。
碇:博士課程に進学して研究内容を新しくしてから、「お能」に片足を突っ込みました。お能の世界観では、時間軸が3つに分かれていて、最初の時間は「現実の世界」、ふたつめは「夢の世界」であったり、「生きていない者たちが語り出す世界」。最後が「生きていない者たちの思いが浄化されて、また現実に戻ってきた世界」。これらの世界に壁はなく、行き来することができるそうです。最近は、その考え方を寄り所に幽霊画を描いていることもあって、その仕草や時間の流れを取り入れてみようなどと考えています。ただ一方で、「もしこの要素を描いたら、それに嫌な思い出がある人たちになにか言われるのでは?」などとは考えます。もしそうだとしても、「思わず感嘆の声をあげてしまうほどの絵を描け、そうしたら文句も言われないだろう」と説得されまして。自分自身としても、最終的にその境地にいくしかないと諦めて、うまく折り合いをつけるしか方法はないように思っています。
比嘉:そもそも通説では扱えないものを探求するのは、人間が種族として間違った進化の方向に進んでいるからだと思います。知性があると、見えている世界だけでは満足しきれなくなる。たとえば大災害が理不尽に起こるなんてありえない、なぜかと言えば神様がお怒りなんだとか、死後に何もないのは嫌だからあの世があることにしようとか。フィクションを考えるのは、知性があるからのことで。これは SF 的な考え方ですけれども、人間よりも長生きな種族(生物)———サンゴやゴキブリ———の生きやすさに倣うならば、いずれ人間も環境に適応して、人間が考えるような知性とはまた別の方向性の生き物になるんじゃないかなと思います。そっちの方が生きやすいはずなんですよね。

———それぞれの議論はまだ続きそうですが、今回はここまでとさせてください。みなさんありがとうございました。
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