インタビュー

【9期生対談vol.5】「お互いの頭の中を覗きあう」を考える 対談: 棈松建臣(建築設計) + MIYAMOTO ANJU(現代美術作家)

クマ財団9期生による、クロストークを行う本企画。第5回は「お互いの頭の中を覗きあう」をベーステーマに掲げ、棈松建臣(建築設計) + MIYAMOTO ANJU(現代美術作家)の2名が互いの持ち寄った質問に答える形で意見を交わします。

聞き手:クマ財団事務局
執筆:小泉悠莉亜
クリエイター写真撮影:コムラマイ

9期生対談シリーズ一覧はこちら|https://kuma-foundation.org/news/13491/


 

———今回は「お互いの頭の中を覗きあう」を起点に対話をしていただきたい2名のアーティストに集まっていただきました。まずは読者のみなさまに、自身の活動を含めた自己紹介をお願いいたします。

棈松:京都工芸繊維大学大学院に在籍中の棈松建臣です。僕は建築意匠の中でも「脱構築主義」という奇抜な造形をコンセプトに扱う建築について研究しています。「脱構築主義」とは、ポスト構造主義哲学、とくにデリダの思想を背景に建築へ応用されましたが、建築は現実的制約が強く、哲学的に純粋な脱構築は本来難しい分野のため、実質的には概念や言語操作に近い側面もある、理論的遊戯性の強い実践でもあります。そうした研究と並行して、研究から得られた設計プロセスを取り入れた作品の制作も行っています。

棈松 建臣《瓢鮎図》2024
「瓢箪でナマズを押さえる」という禅の公案(禅僧の修行問題)の思索のあり方を下地に制作した作品。完成した造形に対して、10案ほどのコンセプトを付与し、あらゆる可能性を見出した。

宮本:現代美術作家の宮本杏珠です。描く対象に関して、「何を描いているの?」とよく訊ねられるのですが「脆くて忘れてしまうような瞬間」を描くことを作品の制作スタイルの基本としています。その時に頭の中に思い描いている風景、夢で見た光景、現実で見た風景など異なる場面を切り取って絵を描いていまして、一枚一枚の絵は全てつながる、同じ地平線にあります。

MIYAMOTO ANJU《ある日のdw_2025.02.03 No.1》
サイズ:560×430 mm 素材:パネル、麻、油彩

———ここからはおふたりに持ち寄っていただいた質問を軸に展開します。まずは「棈松さんの作品『瓢鮎図』が表現しているのは神社ですか(宮本さん)」です。

宮本:実は私たち、初めて会った時はジャンルも言語感覚も違いすぎて意思疎通が全然できなくて、終始「・・・。」となっていたんですよ。正直今もよくわかっていない部分が多々あるのですが、それがお互いに面白く感じていて(笑)。2月24日から京都で二人展「Between Home and Outside 」の開催を予定しているので、今日は改めて色々お伺いできればと思います。まず、「瓢鮎図」という作品を初めて拝見した時に、私は神社を作っていると思っていたんです。

棈松:宮本さんから見ると、この作品は神社なんですね。

宮本:棈松さんは「建築、あるいは都市」と言いますが、私は、あの作品は神社のようにどうしても思えるんです。

棈松:あの模型のなかに実はすごく小さな鳥居が一基だけあるので、神社といえば神社なのかもしれませんが……。実際には、いろんなコンセプトが後付けで発生するので、それこそ宮本さんのような他者が介入して「これは神社だ」と言うならば、神社の可能性もあり得るのかもしれないと思っています。そもそも宮本さんは、なぜこの作品を神社だと思うんですか?

宮本:神社って人の怨念や、お願いのような善い気持ちも含めて、人の心が膨大に詰まっているところだと思うんです。それがまず頭にあって、それで棈松さんの作品を見たときに建築って私は結構冷たいイメージがあったのですが、建築なのにすごくドロドロして見えたんですよ。なんかそれが……クマ財団の奨学生向け合宿の時もそうですし、合宿後、棈松さんの大学にお邪魔して話したいろいろなこともひっくるめて、「あ、この人結構ドロドロしてる人だ」となって。私自身も幼少期から闇のエネルギーが溢れていたんですけれども、まるでその延長を見ているかのように感じたんです。

棈松:救いようもない暗黒面に落ちてしまった感じですか?

宮本:うーん……でも社会にも適合しているんですよね。私は分岐点の片側に行ってしまったけれども、もう一方に行っていたら「こうなっていたんだ」という感覚を思わせると言うか。ちょっとわからないんですけれども、ドロドロさをすごく感じるんです、彼には。

棈松:自分からすると、闇エネルギーもなにも自分は「無」の感覚なんです。建築の思考においても、あんまり自分の意思がありません。過去の事象やモチーフを作品に引用をするのもその際たる表れです。建築以外でも、政治や世間の話に関しても「自分は結局どう思うのか?」がないんです。さまざまなプラットフォームで議論されているあれやこれやに影響を受けるばかりというか、正直なところ、自分が何者なのかもよくわかんない。だからと言って、決してネガティブな意味合いではないのですが、かと言ってプラスでもないなと。

宮本:なるほど。

鯖松:瓢鮎図に関してもつまるところ言語化がうまくできていないので、いろんな解釈に取れる落とし所を作ったんです。それに比べて、宮本さんは幼少期から何を「描く/描かない」を選び取ったり、あるいは質問のように「色」に対しての意識だったりと自分の感性をしっかりと整理して、言語化できていますよね。自分は、あらゆるものを無意識的に摂取したがる癖があると自覚していますが、それが一体なぜなのかはわからないままです。しかも知識欲に従って新たな知見を獲得するごとに、発言や思考が変わってゆくので、作品の説明も、今日と1週間後とでは変わります。つまるところコンセプトを最初に固めずに、制作の最終過程で固める制作をするのは、それがいちばんストレスフリーだからです。束縛されたくないと言いますか、放牧民……ライブ感を生きるみたいな感覚があるのかもしれません。まだアンビルドしか手掛けておらず実施設計をしたことがないので、今後もこの手法を踏襲するかどうかは正直なところ未知数です。

———ありがとうございます。まだお話をお伺いしたいところですが、このあたりで次の質問にうつります。「色について、何か特別な意味づけをしていますか?(棈松さん)」。いかがでしょうか。

棈松:宮本さんは、僕の作品を見るたびに「色をつけないの?」と訊ねるんです。それを踏まえて、色に関する意味のようなものがあれば聞いてみたいなと思いました。

宮本:意味……ですか?

棈松:自分の場合は、構図や全体像から逆算して模型を作るので、自分で絵を描く時にも、配色に意図があるんです。……その様子ですと、僕が何を言ってるかわからなそうですね?

宮本:そうですね……全然わかんないです。色の配色に困ったことなくて。

棈松:質問の角度を変えますね。たとえば制作に関して言うと、頭の中に構想が常にあってそれを形に移行するスピードがとんでもなく早いのか、それとも何も考えずに感覚的に制作をするかであればどちらのタイプですか?宮本さんは毎日相当量を作る多作の人じゃないですか。

宮本:両方です。ただ最近気づいたんですが、私すごく早いんです。思い立ったらすぐ行動しています。後輩にパネルを作ってもらっているんですけれども、パネルが完成するまでの、手元に何も描くものがないタイミングには、紙をひきちぎって下地を塗って描いたりもしますね。その乾かす時間さえも耐えられなくて。絵が乾く前に、その上からボールペンで描いたら、ボールペンがつかなくなっちゃって悲しくなったりもして……。そうかと思えば、7個に1個ぐらいは「この絵を描こう」と心に決めている絵もあります。そういう絵を描こうとすると、その絵の「子ども」のような絵がどんどん出てきてしまって、それを頭の中にとどめることなく、0.01秒後ぐらいに描きはじめています。

棈松:じゃあ描いている時に別の作品のことも考えるのでしょうか?

宮本:それはないですね。描き終わることがないから……。キャンバスが無限にあったら描き終わるかもしれませんが、現実世界はそうはいきません。時代が早く追いついてほしいなと思いますけど、それは無理なことで。ですからiPadで描いています。

棈松:そうだとすると、複数作品を同時並行して制作することが基本になりますよね。

宮本:昨日はiPadの作品も含めたら4、5個ぐらい制作しました。棈松さんは、物事を考えて固めてから手を動かす……絵画以外の人は結構そのタイプが多いかと思うのですが、私は頭の中で考えたことを現実でやろうとしても100%できないので、現実世界で描きながら思考する方が早いんです。そうしたら、そこからどうしたらいいかはわかりますから。……下手くそなんですよね。構想通りにできたことが一回もないんです。

棈松:なるほど。

宮本:いずれにしてもリアルタイムで見ている時に描けるのが一番いいなと思います。油絵は制作する場所が限られますから。過去の記憶を思い出しながら描いているうちに、その瞬間の鮮度が落ちちゃう気がするんです。いつだって一回目に描いた線が一番よくて。

棈松:羨ましいです。立体物の制作も油絵と同様、流石に難しいので。常にメモ帳とかを持ち歩いて気になったことがあればラフスケッチはしますが、制作となるとどうしても環境が整っていないといけません。

棈松:その反動かはわかりませんが、よく「魔改造」しますね。実習課題で気に入った作品があまり作れないと、事後にパーツを引き剥がして付け替えたりします。「もっとエスカレートさせたい」という自分の欲求もありますが、おそらく消化不良なんでしょうね。そうやって秘伝のタレのように継ぎ足しながら作品を昇華させています。

宮本:2月に行う二人展も魔改造された作品を出す予定なんでしょうか。

棈松:そうかもしれません。もはや建築作品というよりも、造形作品としての立ち位置の方が多分いいのかなと思っています。

宮本:現代って感覚的な人が生きにくい社会だと思うんですよね。言語化されたものの方がわかりやすいし誰にでも伝わるかもしれませんが……。「無言の味方」とまでは言いませんが、自分の絵を通じて「なにかを感じる時間」が増えたらいいなと思います。そしていつか、言葉を交わすのと同じように、「感じること」「感じたこと」で会話ができたら嬉しいです。

鯖松:それに関しては同じ意見ですね。現代の建築は、クライアントとか地元の人へのプレゼンをする際、「こういうふうに役に立ちますよ」という実用性が重視されがちです。それに対して、僕は「ソフト先行型」———建築の使われ方など———に重点を置いたりすることから建築に向き合っていきたい。実用という「武装」を全部剥ぎ取った、建築における裸の状態を提示していきたいです。

———それぞれの議論はまだ続きそうですが、今回はここまでとさせてください。みなさんありがとうございました。


棈松建臣 MIYAMOTO ANJU 二人展「Between Home and Outside 」

会期:2026年2月24日(火)〜3月1日(日)
会場:MEDIA SHOP Gallery 1
※詳細は棈松さんのInstagramもしくはMIYAMOTO ANJUさんのInstagramにて順次発表予定


「KUMA EXHIBITION 2026」が2026年3月に開催決定!

クリエイター9期生が参加する大型成果発表展「KUMA EXHIBITION 2026」 が、2026年3月28日(土)・29日(日)に開催決定!東京の青山・スパイラルにて、アート、テクノロジー、音楽、建築など多様なジャンルの若手クリエイターが集う本展。新進気鋭のクリエイターたちによる作品が一堂に会する、刺激的な2日間をお届けします。

詳細はこちら|https://kuma-foundation.org/news/13454/

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