インタビュー
【9期生対談vol.6】「自身の感覚と、世界との境界」を考える 対談: 石井佑宇馬(染色家)+ 作田日々果(パフォーマンスアーティスト)

クマ財団9期生による、クロストークを行う本企画。第6回は「自身の感覚と、世界との境界」をベーステーマに掲げ、石井佑宇馬(染色家)+ 作田日々果(パフォーマンスアーティスト)の2名が互いの持ち寄った質問に答える形で意見を交わします。
聞き手:クマ財団事務局
執筆:小泉悠莉亜
クリエイター写真撮影:コムラマイ
9期生対談シリーズ一覧はこちら|https://kuma-foundation.org/news/13491/
———今回は「自身の感覚と、世界との境界」を起点に対話をしていただきたい2名のアーティストに集まっていただきました。まずは読者のみなさまに、自身の活動を含めた自己紹介をお願いいたします。
石井:石井佑宇馬と申します。2001年に福島県いわき市に生まれまして、2024年に金沢美術工芸大学工芸科の染織コースに進みました。一口に染色と言っても、友禅、ろう染め、藍染めなど本当に幅広くありますが、僕は友禅を専門に勉強してきました。活動拠点の金沢市には加賀友禅をはじめとする伝統的な着物の染色技術がしっかり継承されており、それらと接する機会の多さから身近だったことも手伝って、その美しさに魅了されてこの道を選びました。制作では、伝統に根差した友禅の技法に基づく染色表現を通して、自分が感じていることや自分の美意識の根底にあるものを表出させていく、あるいは目に見える形にしていくような気持ちで普段制作しております。

石井 佑宇馬《満ちて在る》2024
本制作の着想は、2024 年8 月に石井が1ヶ月間の滞在制作を行った富山県滑川の海にある。広大な海を前にして、この世界を満たす水の巨大な質量と、その圧倒的な豊かさを肌に感じ、その印象を染め上げた。また本作品には富山県南砺市城端で織られている「しけ絹」と呼ばれる個性的な絹を用いている。
作田:東京芸術大学美術学部絵画科油画学部4年生の作田日々果です。主にパフォーマンス作品を制作しています。パフォーマンス作品を制作するに至ったのは、絵を描く行為そのものに関心を持ったことが出発点です。筆や絵の具はもともと岩石由来の顔料であり、身体もまた環境の一部でありますから、その接点として「描く」という行為から捉え直し、パフォーマンス作品の制作へと展開してきました。現在は土地や事象から秩序を読み取り、滞在制作やリサーチを通じた作品制作を行っています。

作田 日々果《計算・機》2024
群馬県桐生市での滞在制作をもとに、織物産業の痕跡が残る工場跡と向き合った作品「計算・機」。機械を失ったジャカード織機の設計図「紋紙」をコードとして読み替え、計算行為として再解釈する。川から採取した石を用い、水の流れと情報の流れを重ね合わせている。現在も滞在制作を行う。
———ここからはおふたりに持ち寄っていただいた質問を軸に展開します。まずは「パフォーマンスアートにおいて、どのように『到達点』あるいは『完成』を定めるのですか(石井さん)」です。
石井:自分にとって、インスタレーションやパフォーマンスアートはあまり馴染みのない表現で、わからないこともすごく多くて……。たとえば工芸でしたら、基本的には「物」を作る仕事だと思っていますので、物性を伴う分、明確な完成地点が描けますが、インスタレーションの場合にはライブ的な要素に応じて可変的と言いますか、流動的で決まった形がない印象を覚えます。もし自分が実演することになれば、普段の制作とのギャップから不安に苛まれることが予想されました。それを踏まえて、作田さんは、何をもって、いわゆる完成———パフォーマンスの手を止めるのか教えて欲しいです。
作田:「作品を作る」意識とはまた違うかもしれません。パフォーマンスする「場」をシビアにキャッチすること自体、パフォーマンス———私は「行為」と定義しています———をアートに昇華することだと思うんです。たとえば桐生の作品「計算・機」であれば、計算をするその状況自体が作品として鑑賞者に提示されるので、そこで創出されたビジュアルなどは作品の本質ではありません。作品そのものの精度をどれだけ高められるかは、パフォーマンス時点というよりもその前段にあたるリサーチに左右されるように思います。おそらく石井さんが、布の模様を考案するプロセスも、完成物に劣らない魅力的な作業ではないでしょうか?

作田 日々果《計算・機》2024
石井:そうですね。なんなら自分も制作のプロセスが一番好きと言っても過言ではありませんし、そこに興味を示してくださる方は本当にたくさんいらっしゃるんですけれども……その「魅力的なプロセス」を説明しようとすると、どこか完成品の付属説明に成り下がってしまう所感があります。だからこそリサーチのプロセスを主とする作田さんのあり方は羨ましいです。どうしても物性、オブジェクト的な縛りからは抜け出せないもどかしさを感じます。
作田:意外です。リサーチを積み重ねた分だけ、物の完成度が高まったり、その「存在」への安心感が醸成されたりするようにも思っていたのですが。
石井:安心感はありますね。ものを作ることは、時間を超えた人間の普遍的な欲求だと思っています。ただし果たしてそれで安心していていいのだろうか? という気持ちも同時にあります。先ほど、作田さんが「作品の質を高めるにはリサーチの段階からシビアにジャッジする」という趣旨のことを話されていましたが、これまでの作品を振り返ったとき、自分の作品について思うことはありますか?
作田:過去の作品を振り返ると、その当時考えていたことを鮮明に思い出すとともに、未熟さを感じることもありますね。ただしそれは良し悪しとは関係ないことかもしれませんが。
石井:私自身、ここ最近起こったエポックメイキングな思考の変化のひとつが「良し悪しだけで考えない」という態度でしたので、ぜひ深掘りしたいです。そもそも工芸の世界というのは良し悪しの評価軸が強力です。以前ちょっとしたことで作品の評価が180度転換した出来事がありまして、その時に工芸界における評価———特に人間の主観的な評価———というのはものすごく脆弱なのだと悟り、それ以降はあんまり囚われないよう意識するようになりました。
———やりとりはまだ続きますが、関連しそうな質問をいただいていたのでここで挟みます。「作品を綺麗だと評価されることへの違和感はどこからくるのですか?(作田さん)」。いかがでしょうか。
作田:以前石井さんが、先ほど紹介していた作品《満ちて在る》が綺麗だと評価されたことが少し残念だったとおっしゃっていたのが気になっていました。この発言は、これまでお話しされてきた「作品の良し悪し」に対する感情と関係があるのでしょうか?

石井 佑宇馬《満ちて在る》2024
石井:「綺麗」という形容は、人類普遍の軸として存在すると考えているのですが、その意味で「綺麗か/綺麗じゃないか」という物差しで評価される地点に作品が位置することに多少のもどかしさがあるんです。自分が目指しているもの、感じているものはその二項対立ではないので……より根本的な、けれどもまだそれが「なに」か、しっくりとくるものが見つかってはいないんですが……いずれにせよただ「綺麗」と分類されてしまうのが嬉しくなくて。この感情の根底に何があるのかを模索するのが直近のテーマです。
作田:油画にも「判断基準」が存在していて、イメージを扱う学科だからこそビジュアルの綺麗さ、あるいは美しさが重視されたり、作品の評価として「綺麗さ」がポジティブな意味合いで使われたりすることもあるんですが、私にとってもそこは重要ではないですね。その立場から、石井さんの言う「もどかしさ」みたいものにすごく共感できます。
石井:そうですよね。自分にとっての重要な要素が他者にうまく伝わるかどうかは、すごく難しいです。自分としても、表面的ではなく、本質を捉えたいのですが。ちなみに作田さんは今後どんな活動をしていきたいか、構想は描かれているのでしょうか?
作田:今は卒業制作がメインですが、それも含めて石による文化にまつわる制作ができないかを画策中です。昨年、初めて一人でフランスに制作のリサーチで訪れて、そこで動物壁画や巨石文化など、人よりも大きいモニュメントのリサーチをしてきたんですね。巨石が存在理由ははっきりとしていないようですが、専門家が言うには、特定の暦を基準に月や太陽の動きを記録していたとされていて、そこから鑑賞者が石を道具に見立てて観測できるような空間体験ができないかと考えています。石井さんはいかがですか?
石井:僕も今、修士二年で終了制作に着手しているところで、これまでとは違う、新たな取り組みに挑戦しようと思っているところです。「染めない」という水平から「染める」ことを考えてみる、というのがまずひとつのテーマです。今までは、布の端から端までを染め尽くす作品を多く作ってきたことに気づきまして、今後は九割染めない、ほぼ布そのままの状態の、まっさらな状態の布をひとつの世界として見立てて、その中に自分のエゴがどれぐらいの割合で存在し得るか? を思索してみたいです。試作段階ですので、内容は大いに変化するかと思いますが。あとは真っ向から対抗するように、自分のエゴを全開に出した、衝動的に染める作品も手掛けてみたいです。対照的な両側面から自身の作風を探っていきたいですね。

———おふたりの今後に期待です。今日はありがとうございました。
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