インタビュー
【9期生対談vol.7】「表現のあわい」を考える 対談: 内川雄生(書道家) + 本岡景太(彫刻家)

クマ財団9期生による、ランダムなクロストークを行う本企画。第7回は「表現のあわい」をベーステーマに掲げ、内川雄生(書道家) + 本岡景太(彫刻家)の2名が互いの持ち寄った質問に答える形で意見を交わします。
聞き手:クマ財団事務局
執筆:小泉悠莉亜
クリエイター写真撮影:コムラマイ / クマ財団事務局
9期生対談シリーズ一覧はこちら|https://kuma-foundation.org/news/13491/
———今回は「表現のあわい」を起点に対話をしていただきたい2名のアーティストに集まっていただきました。まずは読者のみなさまに、自身の活動を含めた自己紹介をお願いいたします。
内川: YuuuRA(誘楽)という作家名で活動しております、内川雄生です。母、祖母ともに現代書道家の家系に生まれ育ち、書の学習と現代性の追求を教わり、三代目として「現代書道」を開拓しています。所謂、現代書道と呼ばれているものは戦後に発展してきたとされていますが、前衛書道含め変化に乏しくなった昨今の業界に一石を投じ、新たな潮流となるべく、「構築書」という書風を考案し制作しています。大学で専攻した建築領域から、図面と文字とを同じく「線の情報」であると捉え、それらを掛け合わせたものが「構築書」のあらましです。

YuuuRA(誘楽) / 内川雄生《接続輪廻》2023
作家自身が文・図・書に至るまで全てを制作する「構築書」を確立し、その書風による作品。全体を引いて見れば小説における挿絵のような一枚のビジュアルとして立ち上がるが、近づいて見ると、ビジュアルそのものが文章によって構成されることに気付かされる。文章を冒頭から結びまで、現代の人が読める文字で文章通りに書き進め、フリーハンドによる一発書きで完成させている。
本岡:本岡景太と申します。2020年ぐらいから、染めた紙を貼り付ける制作方法で彫刻作品を作ってきました。彫刻と絵画の中間に位置する芸術の探求を行っています。近ごろは関係性をひとつに集約することで、絵画的な空間秩序や仮想的な関係が立ち上がることに注目し、それらがどのように彫刻として成立するのか?を主題に掲げています。また制作を続ける根源には、スケールやパースを操作し、彫刻的な物質感と絵画的な見え方によって保たれる緊張関係を意図的につくり出すことで生まれる、矛盾や緊張の中にこそ、これまでに見たことのない像が立ち上がるのではないか?という問いへの探究心があります。

本岡景太《鬼ごっこをする子供の風景》2025 撮影:高野光
紙を無垢の粘土のように用いて型をつくり、染めた紙を型に貼り重ねた後に、中をくり抜いて薄い塗膜状の形態を生成した作品。中空構造であるため歪みが生じるが、この歪みこそが作品形態の特徴となる。
———ここからはおふたりに持ち寄っていただいた質問を軸に展開します。まずは「テーマを決めない本岡さんの制作スタイルでは、モチーフの原型となるものはどのように選定されるのでしょうか?(内川さん)」です。
内川:本岡さんの作品はモチーフが具象的で、どことなく周辺環境が想起できるように感じています。しかし制作過程ではテーマを決めないとのこと、あらためてモノの見方と本岡さんご自身の作品の捉え方をお伺いできればと考えています。
本岡:僕はなるべく、彫刻作品を「造形物」そのものとして見せたい願望を強くもっています。それは作品に込められた物語あるいはモチーフが前面に出てしまったり、「物語のための彫刻」になったりする弊害を本質的に宿す彫刻特有の弱点ともとれますが、いずれにせよ、作品の造形そのものが捉えにくくなり、かつ「議論して欲しい」部分へのフォーカスがぶれるように思うからです。さらに言えば、造形物として見せる———文脈を固定しないことで鑑賞者が自由に解釈できる余地を生むと考えています。先ほどの作品「鬼ごっこをする子供の風景」を引き合いに出すと、ある人にとっては鬼ごっこに見えるかもしれませんが、別の方にとっては、巨人の子供が街を破壊しているように見えるかもしれません。どのように解釈するかを全て鑑賞者に委ねたいですし、それは僕の関与する領域ではないでしょう。僕の彫刻は、「絵画と彫刻の間という主題」をより強く考えるための「作品」であって欲しいんです。
一方で、それでもモチーフを使うケースは確かにありまして、例えばモチーフなしでは関係性が見えてこない場合もあります。モチーフの位置———奥に木、その前に車、いちばん手前に人が位置する———による奥行きの体感は、絵画的な関係性なくして成立しません。そういうわけで、やむを得ずにモチーフを採用しているというのが正直なところです。ただしそのおかげで、彫刻としての物質的な見え方と、絵画としての空間的な見え方が互いに相反関係を生み出し、矛盾した状態が生まれるので、結果的に豊かな造形を生み出す産物にもなっています。
内川:なるほど。
本岡:例えば「カレーが食べたい」という問題と、「カツが食べたい」みたいな矛盾した問題が存在するからこそ「カツカレー」という新たな主題を生み出すことができる、みたいな話です。卑近な例ですこし恥ずかしいんですが(笑)。要するに「新しい存在を作りたい」というのが自分にとっては大きいんだと思います。質問の答えになっていたでしょうか……?
内川:いただいた回答を……噛み砕いているところです。積み重ねるような質問ではないのですが、今のお話から、モチーフ同士の表現が、実際にどのような表現に着地しているのかが気になりました。

本岡景太《鬼ごっこをする子供の風景》2025 撮影:高野光
本岡:引き続き作品「鬼ごっこをする子供の風景」を例にご説明すると、意識的に絵画的な遠近感や秩序をずらすような構造を採用しています。実際には存在しない位置に木を配置してみたり、本来は離れているはずの要素同士を極端に接近させたりすることで、写実的な空間関係を無視しています。言い換えると、絵画的な秩序を超えて立体的な秩序で物事を考えるということですね。彫刻を作ることで得られる共通言語のようなものがあるのですが、言葉で説明しようとすると難しいですね……なかなかうまく伝えられなくて恐縮です。
内川:いえいえ、言葉を尽くしてくださりありがとうございます。理解が深まりました。
———ひと区切りついたところで次の質問です。「墨と紙の関係性について考えていることがあれば教えてください(本岡さん)」。いかがでしょうか。
本岡:内川さんの作品を「絵画」として見ると、すごく不思議な感覚を覚えるんです。仮に具体芸術のような墨の迫力が絵画としての強度を強めているとしたら、その近因は墨と紙の関係にあるんじゃないかと考えました。実は僕自身、山水画の影響を受けていまして、その歴史を調べたことがあります。墨を用いた最初の絵画は山水画とされ、北宋時代に発展し、南宋時代になると淡い絵が主流になり、紙に水が染み渡る作風が生まれた———こうした紙と墨の独自の関係性を内川さんの絵の内側にも見出せるように感じたので、作り手ご本人の考えをぜひお伺いしてみたいなと。
内川:僕の流派は、漢字一文字を「青墨」と呼ばれる墨を使って畳一畳ほどの紙に大きく書くことが多く、用いられる「青墨」は文字通り青みがあり淡さのよく出る墨です。磨ることで水分を多く含んだ墨は、確かな筆致が現れつつも、グラデーションのような滲みが生まれることで知られます。私自身、そうした墨の艶の美しい作品を書きたいと常日頃から思っております。
本岡:墨の載る、筆の形が然るべき様相で生かされる墨の薄さを狙っているということでしょうか。
内川:そうですね。書道の一区切りは、最初に墨を筆にたっぷりと含ませた状態から、次第に墨が減り割れたかのような線になるまでの一呼吸分で区切られます。この間に筆に墨をつけ直すことはありません。「潤渇」のバランス表現を感じつつ、文字と残った紙面の余白とを常に意識し書くことが理想です。
本岡:なるほど。
内川:墨と紙の話に話を戻しますと、自分の作品を書く上では、濃墨と、和紙や唐紙という組み合わせが多いです。墨の滲んだ部分は、新たに上から書いても線そのものは確かに見えるというような生かし方をしながら、部分的な不透明感を利用し線を重ねることで平面的ではなくす———奥行きを出すような見せ方は意識していますね。
本岡:書の純粋性と、書の両義性を感じます。確かに「書」というのは読ませる媒体でもありますし、一方で水墨画などの「絵」としての役割も持ち合わせる奥深さがある。個人的には、そのどちらの方向も可能にするという特性が、彫刻的な空間にも通じる部分がある気がします。さらに言えば、内川さんと僕の制作的なポジションやスタイルの立ち位置も似ているようにも思います。
内川:線の美しさを第一に掲げつつも、その蓄積された結果が絵画的な美しさを生み出すこともあります。その意味からも、本岡さんと相通ずる部分が確かにありそうです。
本岡:彫刻の場合、下から上へと積み上げていくのですが、書の場合ですと上から下、あるいは右から左へと流れが生まれますよね。その浮遊感は、建築的な考え方を土台にしながらも重力不在である内川さん独特の感性から生まれたものだと思います。内川さんが彫刻をつくるとしたらどうなるのか興味深いですね。
内川:ありがとうございます。本岡さんの作品は、おそらく人の脳科学的な反応があって、そこでなんらかの辻褄合わせをしようとさせるような普遍的な力を宿しているようにも思います。その辻褄合わせの過程に発生する矛盾点に意識を向けさせる空間設計や配置の適切さにも敬服です。作品への意識や解像度がものすごく高くて……。今日は僕自身勉強させていただく機会にもなりました。
本岡:とんでもないです。またぜひお話ししましょう。
———区切りの良いところで今日の対談はおしまいにします。みなさんありがとうございました。
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