インタビュー

【9期生対談vol.11】「日常生活から生まれるもの」を考える 対談: 齊藤美帆(彫刻家) + 亀井里咲(メディアアーティスト)

クマ財団9期生による、ランダムなクロストークを行う本企画。第11回は「日常生活から生まれるもの」をベーステーマに掲げ、齊藤美帆(彫刻家) + 亀井里咲(メディアアーティスト)の2名が互いの持ち寄った質問に答える形で意見を交わします。

聞き手:クマ財団事務局
執筆:小泉悠莉亜
クリエイター写真撮影:コムラマイ

9期生対談シリーズ一覧はこちら|https://kuma-foundation.org/news/13491/


 

———今回は「日常生活から生まれるもの」を起点に対話をしていただきたい2名のアーティストに集まっていただきました。まずは読者のみなさまに、自身の活動を含めた自己紹介をお願いいたします。

齊藤:武蔵野美術大学の彫刻学科修士課程に在籍する、齊藤美帆です。特定の用途や機能のために生み出された「物」を模した外見的特徴をもちながらも、特定の目的のためだけに存在しない物体“non objective object(無目的な物体)”シリーズを主に制作しています。制作行為を通じて、物体の認識に対する疑問を投げかけながら「日々見てきたものの正体」を再考することを試みています。

齊藤美帆《non objective object(無目的な物体)シリーズ》2023
本作では、日々の中で無意識に視界の端を通り過ぎていたようなオブジェクトを新たに展示空間に置くことで、現在及び過去のいずれにも依拠しない「どこかの風景」を設けた。「いまここ」という漠然とした現在感を捉える試みである。

亀井:亀井里咲と申します、多摩美術大学のメディア芸術コースに在籍する修士2年生です。プロフィールはその時々で変わるのですが、現在は「人の幸せを喜び人の不幸を悲しむ素晴らしい大人」になるべく、感情とモーターをこねくり回している人だと紹介しています。キネティックアートを用いて、ただ動くだけではなく、その動きに感情などの人の起伏を載せて日記のような作品を作っております。

亀井里咲《ノーコメント》2023
一見ただのポテトチップスだが、手を乗せると呼吸と鼓動が感じられる作品。大きな声にかき消されながらも存在する、静かな意思を表現している。

———ここからはおふたりに持ち寄っていただいた質問を軸に展開します。まずは「『見たことあるけど見たことないもの』を生み出す方法とは?(亀井さん)」です。

亀井:齊藤さんの作品は「見たことあるけど見たことない」を醸し出していて、いつも興味深く作品を拝見しています。ご自身でもそれを意識して制作されるとのことですが、果たしてそのイメージを具現化する難易度は相当高いのではないかと思うんです。この類の作品は初手が肝心だと予想していて、齊藤さんは実験を重ねて形づくっていくのか、はたまた頭の中にあらかじめある複数のイメージをミックスしたり思いついたりしているのかが気になりました。一体どうされているんですか?

齊藤美帆《non objective object #1》2023

齊藤:そうですね……私もいつも悩むんですけれども、「不整合さ」がキーワードかもしれません。よく考えると辻褄が合わないだとか、ちょっと変だと感じる部分ですね。世間一般のプロダクトデザインは人間工学に基づいた合理的な形をしていて、実用に足るものばかりですが、私が言う「不整合さ」はそれらから逸脱したもの———人間工学的にはありえない形だったり、形とディテールの関係が噛み合ってなかったりする、ちょっと大きすぎるとか、なんか違和感がある———への関心があるんです。その前段があった上で、たとえばパッと見の既製品の印象から「実際にそうであるわけがない」みたいな要素を加えてみたり、制作段階で発生した偶然の失敗をそのまま取り入れてみたりすることで、半ば作為的ではない「わけのわからなさ」が生まれるのかなと思います。制作を通じて言えるのは、いずれのフェーズにせよ、かっちり決めすぎずに作ることでしょうか。

亀井:なるほど、ありがとうございます。

齊藤:ただし違和感が過剰にならないようにコントロールすることも心がけています。作品の印象も、重苦しいものはあまり作りたくなくて、なるべく軽やかになるよう、どこかクスッと笑える感じがあったらいいなと。その結果、ゆったりしたシンプルなフォルムの作品が自然と多くなっている気がします。

亀井:構造的に途方もなく複雑だからこそ壮大なものを作りたくなってしまいそうなところを、日常のささやかな違和感やまなざしに落とし込む、分野特性とコンセプトのギャップに毎回興味深いなと敬服しています。

齊藤:恐縮です、ありがとうございます。

———ひと区切りついたところで次の質問です。「作品に現れる『ささやかさ』はどのように選びとっているのですか?(齊藤さん)」。いかがでしょうか。

齊藤:亀井さんの作品は、「すごいこと」が起きているのですが、それがすごく「ささやかなこと」で誰もが共感できる普遍性を内包しているような印象があります。鑑賞者にそう思わせる「ささやかさ」を支える要素は、亀井さん自身が意識的に取捨選択しているのか、あるいは日常的な興味が表れているのか、そのどちらなのかお訊ねしたいなと思っています。

亀井:いわゆるメディアアートの世界を見渡すと、テクノロジーとアートの融合を掲げた壮大な作品———社会問題をテーマにしたり、大々的にテクノロジーへの期待を表現したりする華やかな作品はとても多いです。その領域に片足を突っ込みながらも、派手なことだけが芸術になるのはちょっと悲しいなと思う性分で……。日常的な感覚やオブジェクトを用いても芸術作品だと主張できるものを作りたいという信念を持っています。

齊藤:派手なことだけが芸術になるのはちょっと悲しい……確かに、その通りですね。なんだかとても良い信念です!

亀井:ありがとうございます。もともとインドア気質でもあるのですが、学生生活の大半がコロナ禍と重なってずっと自宅にいたので、人生でいちばん目にする景色が家の中だったことも関連していそうです。靴下とかもよく片方だけ失くしては「片っぽだけでかわいそうだな」と哀れみの気持ちが自然に湧く時期もあったのが影響しているのか、無意識に日用品を作品に取り込むことも増えたように思います。

亀井里咲《春 ハイレモンの観察》2023

齊藤:私もコロナ禍は本当に暇を持て余してひたすら近所を散歩していた時期がありました。毎日同じところを散歩していると、毎日目にしていたものがある時ふとよくわからないものに変容して見えるみたいな瞬間があって、それが制作のインスピレーションに繋がったこともあるかもしれません。

亀井:たとえばどんなものですか?

齊藤:分電盤と思しきものとか、変な形のやたらでかい街灯、畑の端っこに追いやられている謎の道具———畑の主にとっては必要な日用具でしょうが、傍目からすると何用なのか全くわからない継ぎ接ぎだらけのものだとか、そういう類のものです。

亀井:いいですね。私、人のエッセイとかノンフィクション作品を見るのが好きなんですよ。なにか事件が起きてもいいし、何も起こらなくても全然面白いと思っていて、そういう空気感を自分の日常でも内包できたらなと思っているんです。さらに言えば、その空気感を自分の生活に実装できたらどうなるかという意識が制作の根幹に流れてる気がします。たとえば風に飛ばされるビニール袋とか、鍋が沸騰して泡がいっぱい出てくるとかの身の回りの動きを、自分でもモーターや機構をいじって作ってみたりして。最終的にいい感じになるっていうのを繰り返す日々ですね。

齊藤:いいですね。私もいつか作品を動かしてみたいです。彫刻の一部が意味もなくちょっとだけ動くとか。

亀井:いいですね。お手伝いできることがあれば言ってください。

———おふたりともありがとうございます。区切りの良いところで今日の対談はおしまいにします。

 


「KUMA EXHIBITION 2026」が2026年3月に開催決定!

クリエイター9期生が参加する大型成果発表展「KUMA EXHIBITION 2026」 が、2026年3月28日(土)・29日(日)に開催決定!東京の青山・スパイラルにて、アート、テクノロジー、音楽、建築など多様なジャンルの若手クリエイターが集う本展。新進気鋭のクリエイターたちによる作品が一堂に会する、刺激的な2日間をお届けします。

詳細はこちら|https://kuma-foundation.org/news/13454/

ご質問は下記のフォームより
お問い合わせください。

奨学金
【第10期生】募集中

募集期間 2026.3.4まで