インタビュー

【9期生対談vol.12】「具現性とイメージの往復運動」を考える 対談: 大竹平(建築家) + 塚田優乃(音楽家)

クマ財団9期生による、ランダムなクロストークを行う本企画。第12回は「具現性とイメージの往復運動」をベーステーマに掲げ、大竹平(建築家) + 塚田優乃(音楽家)の2名が互いの持ち寄った質問に答える形で意見を交わします。

聞き手:クマ財団事務局
執筆:小泉悠莉亜
クリエイター写真撮影:コムラマイ / クマ財団事務局

9期生対談シリーズ一覧はこちら|https://kuma-foundation.org/news/13491/


 

———今回は「具現性とイメージの往復運動」を起点に対話をしていただきたい2名のアーティストに集まっていただきました。まずは読者のみなさまに、自身の活動を含めた自己紹介をお願いいたします。

大竹:大竹平です。京都大学で建築のデザインについて学んでいます。これまでは建築の「創り方」とその過程に流れる「時間」から捉え直すことに重心を置くことに注力していましたが、バリ島やバンコクでのワークショップ、直近の留学経験を経て、建築は「使われる人にとって美しく、豊かな空間体験であることが不可欠だ」という原点に立ち返りました。現在は、建築によってもたらされる生活の豊かさや新たな生活の可能性を、機能性と美しさを兼ね備えた空間表現から探っています。

大竹平《極彩に煌く水晶》2025
大竹の素朴な興味———「ところで、どうして玉虫の翅(はね)は見惚れてしまうほど美しいのだろうか」———に着想を得て生まれた浴室のデザイン提案。球体の浴室を覆う無数の透明のガラスタイルが玉虫の翅のように光の干渉を起こし、見る角度によって緑、赤、金、紫などの多様な色彩を発する空間での入浴行為は、その瞬間にしか訪れない世界の景色を全身で受けとめる邂逅の時間となる。

塚田:塚田優乃です。京都市立芸術大学大学院の作曲専攻修士課程の二回生で、大学院最後の半年間は交換留学生としてフライブルク音楽大学で学んでいます。専門は現代音楽の領域で、テクノロジー(音響解析、録音物、電子楽器等)と器楽の関係性を探る研究を主軸に、新しいサウンドを作りながら、音響効果を生かしたサウンドの面白さや音のときめきを、作品を通して聞き手の方々に届けています。

塚田優乃《Crystallization》2024
雪の結晶をテーマに掲げた本作品では、雪の結晶を観察する際に角度によって異なる色彩や輝きを知覚したことに着想を得た。制作の手順としては、複数の録音物を用いて、「キラキラ」などの視認情報を効果音に変換、室内アンサンブルの大編成における音響解析にかけ、その結果を元に作家本人が音を抽出し、複数のサウンドがひとつの効果音から聞こえるように再構成した。

———ここからはおふたりに持ち寄っていただいた質問を軸に展開します。まずは「制作に関するエポックメイキングな出来事と、それにまつわる思索について深掘りさせてください(塚田さん)」です。

塚田:自己紹介でも言及されていたことと重複しますが、せっかくですので、もう少し詳しくお聞きしたいなと思ってこの質問を投げかけたいです。

大竹:自分も塚田さん同様にドイツ留学———2025年 4月から9月までカールスルーエ工科大学(ドイツ)の建築学部に留学———しまして、この経験を経て大きく変わったのは、建築の作り方のデザインを最優先するのではなく、結果である「成果物としての建築のあり方」に重心を置いた設計思想への思想的転換です。建築に対して、真正面から「あらわれ(形態や機能)」と気持ちを一新したとも言えます。そう思うようになったきっかけはふたつあって、ひとつは現地で学んだカリキュラムが影響しています。現地の学生に混ざって学んだ授業で得たのは、ドイツでは昔からある建物をリノベーションして転用することが一般的だというお国事情です。数百年前の建造物が現存するドイツ文化圏では、日本のように「新築or改築or増築」のように建築にまつわるオプションではなく、「もとあるものをどう合理的に活用するか」を重視する設計文化があるんです。当初は「こんな新しい作り方ができるのでは?」と提案したこともありましたが「それははなから求めてないよ」というドイツ式の建築態度に、これまで僕が避けてきた「建築のあらわれ(形態と機能)」に真っ向対峙する態度を体感したんです。

塚田:なるほど。

大竹:もうひとつは学外での学びで———まさに塚田さんの質問に対する答えに該当するかと思うのですが、大学の長期休暇中に2ヶ月ほどヨーロッパ中を放浪していろんな建造物や美術館、あるいは街並みを堪能し「自分が心惹かれる建築とはなにか?」を深掘りするうちに、その答えが「空間体験が面白いか否か、美しいか否かへの執着」にあると気づきました。例えばフランスのパリにあるオルセー美術館、フランスの田舎にあるロンシャンの礼拝堂。それぞれの空間体験は光の入り具合や動線の組み方が本当に美しくて、自分自身の琴線に心から触れる魅力があると感じましたし、逆に、いわゆる有名な建築には心動かされませんでした。それらは建築の持つ副次的な要素———例えば高価なマテリアルが使われていたり、何千年前から残っていたりという要素が世界的な看板になっており、訪問者にとっての主観的な空間体験は二の次になっているように感じました。その体験を通じて「建築の形態から逃れることはできないし、逃げてはいけない」と心から実感しましたね。

塚田:理解できました。ありがとうございます! 私自身もドイツでの交換留学を通じてなんらかの気づきが今後制作に反映されるような気配を感じているところです。例えば現地の現代音楽の演奏会ひとつとっても、客層が日本とは全く違うんですよね。日本ではあまり見かけないシニア層が多い。それにどのプログラムにもベテランの演奏家の方々が出演されていることにも驚きましたし、日本のように現代音楽を知らない人に向けてガイド的なプログラムを組むこともなく、ストレートに現代音楽を演奏することにも驚愕しました。カールハインツ・シュトックハウゼンをはじめドイツは現代音楽の歴史が深い分、市井の方々の理解度もあるのだろうと予想しますし、この土地で自分の作品を発表することで得られる感覚にはなにか新たなものがありそうで楽しみです。

大竹:当たり前に現代音楽がある生活環境に身を置くことの収穫は大きそうですね。

塚田:そうなんです。しかも挑戦していることは日本での活動と一緒ですし、「私がこういうことをしてきた」ということへの理解や共感があって、ディベートまでできる環境に、「自分がやってきたことは間違ってなかったと、自信を持ってやってきてよかったんだ」と想像以上の喜びを感じています。

「Crystallization」初演終演後の演奏者との集合写真

———留学を経ての今後の展開が楽しみです。さてひと区切りついたところで次の質問です。「制作において、作り方(プロセス)と成果物のどちらに重心を置いていますか? またこれまでの制作を振り返って、その重心が変化してきた経緯があれば教えてください(大竹さん)」。いかがでしょうか。

大竹:塚田さんの制作過程を伺うと、ご自身で作り上げたい作品のイメージがありつつも、そのための手段として音楽解析をはじめ様々な手段を模索されているように感じられます。だとすると両者の比重はどうなっているのか、あらためて言語化してお伺いしたいと思いました。言い換えれば、僕自身が考えてきた思索について、塚田さんはどんなバランス感で体現されているのかなと。

塚田:そうですね。私にとって、曲の最終的なイメージを描くことは、演奏者と共有する上ですごく大事にしていることです。自分の研究したい手法を用いた音楽にバランスが傾いてしまうと、奏者の方々に共有するとき、曲のイメージや表現したいことの共通認識———そもそもどういうサウンド感にしたいか、聴き手が曲を聞き終えたときにどういう感想を持ってほしいか———を握りにくくなる感覚があります。特に読後感というか、曲を聴き終えた時にどういう感想をもって欲しいかの逆算は大事ですね。その思索の経路は忘れないようにこだわろうとしていて、例えばキラキラしたサウンド感を作るとしたら、音楽以外の、外部のイメージと様々に掛け合わせていくことで大きなイメージの塊を作って、そこから生み出すような感覚です。比重で言うと、手法に囚われ過ぎてしまうと、作品を作り終えた後にも「この手法でまたやってみたい!」というアイディアはどんどん湧くかもしれませんが、作った曲を聴いていただくと言うことは、人様を拘束して、時間を割いていただくことだから、曲を聴いた時にどんな体験をしてほしいか、どんな音楽だったという印象をもってもらいたいかを大事にしています。

大竹:つまり成果物に重心を置いて、あくまでそれを表すための制作と言いますか、成果物につながる原体験を引っ張り出して組み立てていくということなのですね。さっきおっしゃっていた「どういう体験をしてほしいか、どういう感情を持って欲しいか」に関して、僕は留学先のチューターにも指摘されていましたから、あらためて「逃げちゃいけないことだな」と痛感しました。それに音楽と建築は、芸術的な分野において、一般の方々が享受する消費物———芸術品以上に消費される対象である———ですから「どんな体験をしてほしいのか」という視点は絶対に念頭に置いておかなくてはいけないなと身に沁みた次第です。

大竹平《部材(ゲノム)と建築(キマイラ)》2025

大竹:一方で、音楽と建築の決定的な違いもあるように感じます。少なくとも私がこれまでに作ってきた建築は「実際に建つ建築」ではなくアンビルト———机上空論上の建築を前提にしてきたので、来年に控えた就職活動をはじめリアルな社会の建造物との乖離が生じます。その課題構造を引き合いに出して、あらためて塚田さんにお訊ねしたいのは、ご自身で作曲する作品の描き出すイメージは、いわゆる門外漢———業界外の方々が鑑賞したときのイメージと一致するものなのかという問いです。あるいは乖離がある場合には、自身の描いているイメージに合わせるように曲を変更したり、手直ししたりすることはあるのでしょうか。

塚田:近頃はその「乖離」が比較的少なくなってきたと言いますか、チューニング後の状態と言えるかもしれません。長く作曲してきた半生で、スランプに陥ったタイミングではまさにその理想と現実のギャップに悩んでいました。そのタイミングぐらいから、わかりやすいサウンド感からイメージを広げることにしたのが功を奏したのか、前ほどの乖離は少なくなってきたように思います。今でも演者の方々には、どんな場面か、どんな物語が見えるかなどの具体性には踏み込まず、各自で想像を膨らませてもらうことでと、曲そのものが「飛び立つ」ような感覚になりますね。

大竹:どう感じるかの詳細は演者や鑑賞者に委ねると言いますか……。

塚田:そうですね。サウンド感は一致させたいですが、物語性がどうというところまでは踏み込みません。

大竹:建築の分野に置き換えるとどういうことなのかを考えながらお話を聞いていたのですが、おそらく塚田さんの言及された「音の印象」は、建築の「機能」にあたる部分なのかなと思いました。設計段階で、設計対象の機能が図書館なのか、音楽ホールなのか、ショッピングセンターなのかで迷うことは絶対なく、図面を見たら一発で「なんのための機能なのか」がわかるという意味で。興味深いです。

塚田:そうかもしれません。理解してくださりありがとうございます。

———区切りの良いところで今日の対談はおしまいにします。みなさんありがとうございました。

 


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