インタビュー
【9期生対談vol.17】「テクノロジーが明るみに出す人の認知と、変わらない情感」を考える 対談: 石井飛鳥(メディアアーティスト) + 杉田碧(アーティスト)

クマ財団9期生による、クロストークを行う本企画。第17回は「テクノロジーが明るみに出す人の認知と、変わらない情感」をベーステーマに掲げ、石井飛鳥(メディアアーティスト) + 杉田碧(アーティスト)の2名が互いの持ち寄った質問に答える形で意見を交わします。
聞き手:クマ財団事務局
執筆:小泉悠莉亜
クリエイター写真撮影:コムラマイ / クマ財団事務局
9期生対談シリーズ一覧はこちら|https://kuma-foundation.org/news/13491/
———今回は「テクノロジーが明るみに出す人の認知と、変わらない情感」を起点に対話をしていただきたい2名のアーティストに集まっていただきました。まずは読者のみなさまに、自身の活動を含めた自己紹介をお願いいたします。
杉田:東京藝術大学美術研究科先端芸術表現専攻の修士一年に在籍する、杉田碧と申します。現在は、インスタレーションとSF的な映像を用いて、身体に対する社会的なまなざしが生み出す偏見、人間社会に起こる問題の倫理観、「人としてあるべき態度」などを鑑賞者に問いかける作品を多く作っています。最近では、猿や人間の進化、ルッキズムなどが気になっています。

杉田碧《二十一世紀の空蝉》2025
現代の倫理観と多様性について問いかけた本作。生殖医療の進歩によって、倫理観を抜きに命を操作できる未来が間近に到来した世界線に生きる全ての私たちに向けて、命が軽んじられ、人間そのものや生き物たちが「モノ」化されていくことや、不自然な改良を促し淘汰されてゆく社会そのものに対する抵抗を示した。
石井:慶應義塾大学(SFC)を卒業後、情報科学芸術大学院大学にて修士課程に籍を置く石井飛鳥です。物理的感覚では説明できなくなった、現代のメディア環境における「一人」という状態の再定義を行うためにAIやソーシャルメディアを用いた制作と、実験心理学の手法を用いた認知分析をしています。端的に言えば、メディアアートの作品をつくりながら、人の認知活動に関する研究・分析もする二足のわらじを履く人です。

《Daily Report – performance – 》(2023)
作者自身の日記を学習した文章生成AIと作者である石井自身が、1行ずつ「今日の日記」を書き、声に出して詠むパフォーマンス。石井は日記を声に出して詠む一方、AIは生成中に発せられるGPUの電磁波を増幅させてノイズ音に変換し、計算機の声として鳴らす。日記の執筆を通じて、人とAIが「ふたりで一人」になる実験を行った。
———ここからはおふたりに持ち寄っていただいた質問を軸に展開します。まずは「ルッキズムの効能はあると思いますか?(石井さん)」です。
石井:突拍子もない質問かもしれませんが、ルッキズムはプラスに働くことがあるのかどうか、杉田さんの考えを聞いてみたいです。僕の勝手な予想ですが、杉田さん自身もルッキズムを絶対悪だと見なして批判しているわけではないだろうと。僕自身も、ルッキズムが社会を円滑にする側面が当然あると思っていて……。どうでしょうか?
杉田:そうですね……。ルッキズムとは少しずれてしまうかもしれませんが……以前、サルはお尻を見て個体差を判別すると知って、「もし目の前にいる人に顔がなければ、私は首から下の服で判断するしかないのだろうか?」とすごく考えるようになったんです。その時に、顔や容姿についても結構考えたんですね。私自身は容姿に時間をかける行為が好きで、自分を高めていく生活の楽しみのひとつにも感じているんです。そういうものである以上、ルッキズムそのものを一概に悪いものとは言えなくて……。おそらく私が批判したり、疑問視したりしたい部分だけではないというか、もしルッキズムがこの世に無いのも「どうなんだろうか?」と思っていますね。答えになっていないかもしれませんが。
石井:「顔から下だけで判断できるのか」ってとても面白い視点ですね。自分の分野の話になりますが、コミュニケーションにおいて、相手を認識するための手がかりはたくさんある方が良いのか、それともなくても成立するのかは長く議論されてきました。従来は、手がかりが少ないほど相互理解が難しくなり、関係性は悪化すると考えられてきましたが、テキストチャットのように情報が極端に制限されることで、語尾や返信感覚などの細部に注意が向いて、相手を美化して想像するという逆の作用も指摘されています。いわゆる「テキストでの出会い系」が成立するのも、限られた情報ゆえに相手を肯定的に解釈する力が働くからということですね。そう考えると、ルッキズムと言いますか、人の容姿だけで好意を持てるならば、意外とそれはそれでハッピーなことだよね、と思ったりもします。
杉田:そうですよね。ルックスに過度な依存をしてしまうから問題が起きるのであって……。変な話ですが、制作をする上で、「語らせるための顔」を作ることがあるんです。その時に、自分の好みに寄せてしまったり、どこか変に意識してしまったりする部分があって、それに応じて顔要素を調整してしまうことがあるというか。ですので最近は新しい取り組みとして、あえて「顔」を使わない制作に取り組んでいます。

杉田碧《Gift》2023
石井:コンテンツが先にあって、それに合わせて顔を作ってしまうということですか?
杉田:そうですね。コンテンツに合わせつつ、かつメッセージを変に邪魔しない顔というか、鑑賞者に意図せぬ形で「顔」に注目させないようにしました。
石井:どちらが先かという話は分かりませんが、認知心理学的には、顔と性格にはある程度の相関関係があると示唆する研究はいくつもあります。例えばナルシシズム傾向が強い人は眉毛の形が細くて特定の形になるとか、あるいは、ASD をはじめとする神経系の病気を持っている人特有の顔の傾向もあったりするようです。そうした判例を知ると、容姿と、その人の性格や特性を完全に分離することは不可能だという思いを強めますし、「喋る内容があって顔が作られていく」という杉田さんの制作過程はとても示唆的に感じられます。
———ひと区切りついたところで次の質問です。「ここ数年で、人間らしさに対する認識に変化はありましたか?(杉田さん)」。いかがでしょうか。
杉田:石井さんの作品《Daily Report》(2021)では「個性が人間らしさを担保する」ということを掲げられていましたが、この作品を作った2021年からたったの数年でAIは急速に進化して、なかにはAIと結婚する人も現れるまでになりました。そうした変化を経て、石井さん自身の「人間らしさに対する認識」に変化があったのかが気になります。
石井:人間らしさ……。この作品を作った時には、きっぱりと二分できるものではないとしつつも、人間の要素は規定的な部分と、個人性(個性)的な部分があると分けて考えていました。またこの作品における人間らしさ———知性は、言語生成AIでどれくらい流暢に文章を喋れるか、違和感のない日本語をどれだけ生成できるかではなく、どんなスタイルや文体、語尾を使うかという部分に見出していました。
杉田:なるほど。
石井:2021年時点で使った自然言語の生成モデルはGPT2で、最近アップデートされたGPT5.1に比べると、生成される文章は比べ物にならないほど改良の余地がありました。かといって今、綺麗で文法的にも間違いの少ないモデルが出たからといって、そこに人格を感じられるようになったかと言うと、僕にとっては難しいところです。人間らしいかどうかは、コミュニケーション相手が有する「個」としての特徴———それは文体に見られるようなものが規定すると思っていますので、知的な能力が上がったからといって、その見方に変化はありません。
またChatGPTを「チャッピー」などと呼ぶようになったことで、あたかも「個人性」を獲得したかのような風潮もあるように感じています。初音ミクも同様で、「音楽生成ソフトウェアプラグイン」ではなく初音ミクというキャラクタライズによって、ひとつの人間らしいフィクションが誕生したと言いますか。そうやって固有名をつけることによって、「キャラクターを読み取ろうとする」、人間側の姿勢がある気もします。その点は2021年当時とは変わっていないように思いますね。
杉田:石井さんのスタンスは一貫しているのですね。それこそ実体を伴わない「他者」に対する依存って今後どうなると思いますか?
石井:依存というのは……恋人関係のような依存ですか?
杉田:そうですね、人間関係の構築に関する、広義の「依存」でしょうか。
石井:今後どうなっていくんでしょうね……。おそらく技術的な動向としては、コミュニケーションに使える手がかりの種類はどんどん増えていくことは確実です。それはたとえばテキストチャットからズームのようなテレビ通話に発展していった流れもそうですし、VRやARをはじめ社会的な存在感———ソーシャルプレゼンスと言われるもの———によって、そうした手がかりをより多く交換可能にしていくでしょう。そうなると、これまでは画面越しの姿をひとつのカメラでしか見ることができなかったところから、たとえばお互いを触れられるようになったり、あるいは「触れている」と感じるようになったり、匂いを交換できるようになったりと、モーダルが開いていくことはあり得ます。
杉田:なるほど。
石井:ただ、それが人間関係をより改善していく、つながりを促進する———依存も含めて———メディウムの進化の仕方をするかと言われると、おそらくそうではないかもしれません。それは遠くの人とよりリアルに繋がれるようになるからといって、その人と仲良くなったり、依存度が増したりすることとは別次元のレイヤーにあるような気がします。まあ、コミュニケーションの種類にもよると思います。たとえば、仕事のタスクを解決する関係であれば良いと思うんですけれども、人と人同士の関係性が向上することに貢献するかと言われると、今のところ僕は違うかなと考えています。依存に関しては、もっと別のところに要因があると思っています。……回答になっていないかもしれませんが、今の所の見解をお伝えしてみました。
杉田:いえ、理解が深まりました。ありがとうございます!
———おふたりともありがとうございます。区切りの良いところで今日の対談はおしまいにします。
「KUMA EXHIBITION 2026」が2026年3月に開催決定!

クリエイター9期生が参加する大型成果発表展「KUMA EXHIBITION 2026」 が、2026年3月28日(土)・29日(日)に開催決定!東京の青山・スパイラルにて、アート、テクノロジー、音楽、建築など多様なジャンルの若手クリエイターが集う本展。新進気鋭のクリエイターたちによる作品が一堂に会する、刺激的な2日間をお届けします。
特設サイト|https://exhibition.kuma-foundation.org/exhibition2026/