インタビュー

【9期生対談vol.20】「素材にまつわる時間性」を考える 対談:坂爪亜蓮(金属造形作家) + 原田茉琳(アーティスト)


クマ財団9期生による、クロストークを行う本企画。第20回は「素材にまつわる時間性」をベーステーマに掲げ、坂爪亜蓮(金属造形作家) + 原田茉琳(アーティスト)の2名が互いの持ち寄った質問に答える形で意見を交わします。

聞き手:クマ財団事務局
執筆:小泉悠莉亜
クリエイター写真撮影:コムラマイ / クマ財団事務局

9期生対談シリーズ一覧はこちら|https://kuma-foundation.org/news/13491/


 

———今回は「素材にまつわる時間性」を起点に対話をしていただきたい2名のアーティストに集まっていただきました。まずは読者のみなさまに、自身の活動を含めた自己紹介をお願いいたします。

原田:東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画に在籍する原田茉琳です。絵画専攻に所属していますが、木材を使った立体作品や平面作品を制作しています。「つくること」を取り巻く表現の過程に現れる構造や姿勢に関心をもち、限定的な行為やそこに生まれる時間、意識について実験的にアプローチする制作を行っています。

原田茉琳《Be just cog in the…》2024
完成品よりも「なにかをつくる」を取り巻く手法や行為、姿勢について関心のある原田が、自身の制作において長い時間の痕跡や発想を具現化する実験として継続的に手を動かした痕跡を落とし込んだ作品。ベニヤの木片パーツから切り出したピースをさらに小さな木片パーツとあわせ、ダボ構造を応用して接続している。

坂爪:はじめまして、坂爪亜蓮です。多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程工芸専攻に在籍しています。内面に生まれる心象風景を、鉄の立体と通じて可視化しています。外界の風景の再現ではなく、記憶や感情の奥に揺らめく「内なる自然」を形にする試みとも言えるかもしれません。

坂爪亜蓮《誰かに寄り添うために、一拍分余計に呼吸が必要だった》2024
時間の流れをテーマとし、自身の時間軸に見立てた真鍮と、自身を取り囲む社会を表した鉄線を一体化させた抽象造形作品。坂爪自身が感じる、他人との時間軸のペースの差異という体験的知覚を造形化した。個人の時間を尊重したいという自身の揺るぎない軸は、誰かのペースに寄り添い、揺らめき合い、豊かな波の一部として流れゆく。

———ここからはおふたりに持ち寄っていただいた質問を軸に展開します。まずは「作品にまつわる時間性についてどう考えていますか?(坂爪さん)」です。

坂爪:鑑賞者の方が作品を見る時に、その方々の「作品の時間に加わる」ことについて、原田さんはどういうふうに考えていらっしゃるのかが気になりました。例えば、作家は何ヶ月も時間をかけて作品を作るじゃないですか。私としては、その作業の積み重ねの時間が作品に現れると考えていますし、いざ展示される段階では「鑑賞者の時間」も作品に加わっていくと思うんです。そうしたことについて原田さんはなにか考えることがあるのかなと。

原田:……あんまりちゃんと考えたことなかったテーマです。難しいですね。自分の手を経て自立した作品が他者に鑑賞される時、自分が歩んできた時間軸の経過、あるいは延長を見られているという風に捉えているかもしれないですね。学部の卒業制作『〈白〉地図/blanc:k map』のように、1年間なにかしらを作り続けて、展示段階でもその制作風景を見せ続けていた時の「作り続けている状態」を鑑賞者に見ていただく感覚に似ています。作品は私の断片的な時間を示すものというか。鑑賞者が作品を見る時間は、自分の「見る」の大きな時間軸のごく一部分だと感じているかもしれません。……答えになっているでしょうか。

原田茉琳《〈白〉地図/blanc:k map》2024

坂爪:ありがとうございます。なるほど、理解できました。

原田:逆に坂爪さんはいかがですか?

坂爪:私はとある展示期間中に、お客さんから作品「海のかたち」を見ながら思い出話をしていただいたことがあるんです。それを聞くうちに、その方の記憶に、私が少しお邪魔させていただくような気持ちになって。逆に私がお客さんの記憶に加わっていくこともできるし、そういう作品を介したつながり方もあるんじゃないかなと思っています。

原田:心象風景の記憶へのアプローチというか、確かにそうして共鳴する瞬間がありますよね。

坂爪:あります、あります。

原田:その観点で考えると、作品のビジュアルや素材から、誰かの思いに接続する経験はあんまりなかったです。ただ直近で参加したアーティストインレジデンスの取り組みでは、かつてその場所で暮らしていた、もう使われなくなってしまった家具をいただくなどの物理的な介入をすることで、鑑賞者の方々とのコミュニケーションが発生した記憶があります。その関わりに、不安と面白さの相反する感情を覚えたのも確かです。

———ひと区切りついたところで次の質問です。「素材の経年変化をどう捉えていますか?(原田さん)」。いかがでしょうか。

原田:奇しくも私も時間にまつわる質問をしたいと思っていました。坂爪さんが作品で用いる鉄は他の素材と比べて特に経年劣化を感じやすい特性があると思います。作品からまさにそうした色みやサビなどの状態変化を繊細に捉えていると感じました。ご自身ではそれらについて、なにか意識されたり、考えたりすることはありますか?

坂爪:一般的には油を塗るなどのコーティングをしてサビ対策をすることもありますが、私はあまりしません。むしろ無理に止めず、「時間の中で自然のまま錆びていってほしい」と思っています。サビが発生する———一連の時間の流れが感じられるから金属を選んで使っている側面もありますし、サビは生命とのつながり———サビの温床である鉄自体が血液や生命を連想させますし、サビと血液の色は同じですから、そこでも記憶や時間を象徴するものになるんじゃないかと。

原田:なるほど。ちなみにそうした自然現象が発生する作品は、どの時点で自分の手から離れてゆく感覚になりますか?

坂爪:どうでしょうか。サビ自体を作品に含めて考えているので、もとより自分だけのものではないという感覚かもしれません。

原田:ありがとうございます。

———クマ財団からもおふたりにお聞きしたいことがあります。ひとつの素材に対峙し続けるからこそ見出せるものはありますか?

坂爪:私は大学に入ってから金属加工を始めたので、どういう変容の仕方をするのかをまだ完全には把握できていませんし、常に新たな質感が生まれるので、制作するたびに喜びが湧いてきますね。たとえば同じ素材でもどう加工するか———パイプを例に挙げると、潰したり、捻じ曲げたような質感にしてみたり、あるいは溶接痕を入れてから叩くと、溶接痕が潰れて新たな質感が生まれたりします。鍛造だけではなく、溶接、溶鋼などの手法を混ぜながら加工することで見える表情にどんどん出会えます。私は制作しているというよりも「楽しんで遊んでいる」感覚に近いんです。なにかを作り上げるためにではなく、自分の感覚を信じて追求してゆくその楽しさが作品として現れているんじゃないかなと思いますね。

坂爪 亜蓮《海のかたち》2023

原田:坂爪さんがおっしゃっていることに同感です。私も、楽しんで素材に関わり続けているなと。没頭するようにして作業をする時間が長くなると、たまにはなにか新しい要素を見つけたくなることもありますが。常に自分の手から生み出すことで発見できる面白さを大切にしています。そうなると制作時間の有限性というものにも直面する瞬間がありまして。もし体力や意識、時間の諸条件が無限ならば……作品をどれほど大きくできるかに挑戦してみたいです。どこまで自分が作り続けられるのかにも興味がありますし、物体としての作品がどこまで拡大される可能性があるのかも探ってみたいです。

坂爪:わかります。私も、もし制作時間に制限がなければ、もっと大きい作品を作りたいです。それでこそ心象風景に近づける感覚があって。私のイメージする心象風景は、もっと壮大で果てがないんです。いずれは野外で展示されるような、広大な空間に設置しても負けないような金属造形を作りたいと常々思っています。そうした作品を通じて、鑑賞する方々の「原初の感覚」をひきおこすような作用が生まれたらいいなと思いますね。私の扱う金属は工業製品のひとつですが、それにも関わらず有機的に知覚される可能性があるものですから。

原田:確かに。作品自体から受け取るイメージとは少し異なりますが、私は最近「インスタレーション」という言葉を離れて「インストール」についてよく考えています。それは先ほど坂爪さんが言及されていた「野外展示される作品が、風景に負けない」みたいなニュアンスと重なる部分もあるのですが、特定の場所に作品が設置される時に見える風景と、それまでの制作過程で見える風景には違いがあるのが常です。もしそうだとしても、展示する場所と作品のバランスが安定的になってくるようにしたいなと思うんです。うまく言えないのですが、どこにあっても受け取るものにゆらぎがないなにかをいつか見つけられたらと思います。

———おふたりともありがとうございます。区切りの良いところで今日の対談はおしまいにします。

 


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