インタビュー
【9期生対談vol.22】「偶然と必然」を考える 対談:木本大貴(パフォーマー) + 高山芳の(キネティックアーティスト)

クマ財団9期生による、ランダムなクロストークを行う本企画。第22回は「偶然と必然」をベーステーマに掲げ、木本大貴(パフォーマー) + 高山芳の(キネティックアーティスト)の2名が互いの持ち寄った質問に答える形で意見を交わします。
聞き手:クマ財団事務局
執筆:小泉悠莉亜
クリエイター写真撮影:コムラマイ / クマ財団事務局
9期生対談シリーズ一覧はこちら|https://kuma-foundation.org/news/13491/
———今回は「偶然と必然」を起点に対話をしていただきたい2名のアーティストに集まっていただきました。まずは読者のみなさまに、自身の活動を含めた自己紹介をお願いいたします。
木本:高校卒業後単身でドイツに渡り、現在はミュンヘン芸術アカデミーに在籍する木本大貴です。インターネット上の情報システムと個人の記憶をテーマに、パフォーマンスや絵画を通じて時間の在り方を探求し、「経過する時間とは何か」「記憶はどのように構築されるのか」という問いを体験的なアプローチによって表現しています。

木本大貴《Like a River》2023
木本自身が2時間かけて、キャンバスの上に10mの長さの線を描くパフォーマンス作品。決められたルールに従って混ざり合う絵の具の色は、パフォーマンスの動き、寸法、時間枠によって混ざり合い、観客はパフォーマンスに積極的に参加することが求められる。
高山:多摩美術大学大学院統合デザイン領域に在籍する高山芳のです。数字で制御しない電池式のモーターを用いて、磁力や風力、重力などの物理現象や「出来事」を反復する小さな装置を制作しています。我々が世界を多様な鼓動に満ちたものとして捉え直すきっかけとして装置は機能すると考えています。
高山芳の《脈拍》2025
“メカニカル”という文脈に止まることなく、出来事(あるいは詩)として人々が、世界をどう的なものとして捉え直すきっかけとして制作された装置。“テクニカル”の対局には、寄せては返す波、満ちては欠ける月、そしてそれらを眺める、呼吸をし脈を打つ自分自身などがあり、世界にはそれらの反復が満ちていると高山は考える。
———ここからはおふたりに持ち寄っていただいた質問を軸に展開します。まずは「偶然と必然についてどう考えていますか?(高山さん)」です。
高山:ざっくりとした質問かもしれませんが、たとえば自分はどちらを重視しているかなど、木本さんの体感をお聞かせいただければと。
木本:偶然と必然をどう捉えているか……。僕自身はどちらかと言うと運命論者で、全てのことは起こるべくして起こると思っています。僕たちが生まれてきたことですら必然というか、僕の両親が出会ってなければ僕は生まれていなかったわけですから。でもそう考えると偶然の割合の方が多いのかもしれないですね……。
高山:私は、「偶然らしいか/必然らしいか」のどちらかしかないと考えています。木本さんの作品上では、これらの考えをどう扱っていますか? エラーともとれる偶発性をどのように自分の作品に意図的に取り入れるのかであったり、もしくは意図していなかったのに発生してしまったりする事象について。
木本:「こんなことが起きるかもしれない」と思ってパフォーマンスしたら、本当にそれが起きることはありますね。
高山:それは偶然を、必然的に獲得しているんですか?
木本:獲得とまでは言えないですが、それに近いものはあるかもしれません。たとえば僕が空間に大きく長い線を引くパフォーマンス中に、 2歳くらいのよちよち歩きの赤ちゃんが、僕が引いた線の上をしばらくなぞって歩いたあとに転んでしまったんです。それってある意味では自分の想定内———野外でパフォーマンスする時に雨が降ってくるとかと同じ類———ではあるんですが、狙ってできることではないし、でも勝手にそうなっちゃうみたいなことはありますよね。

木本大貴《川の流れのように》2023
高山:たとえば同様のエラーが完全に起こらないように、ガラスケースの中でパフォーマンスをすることもできるわけじゃないですか。要するに予想外を一切排除する選択肢が存在する中で、木本さんはその空間における時間性と場所性を一切受け入れているのを印象的に感じて。
木本:ありがとうございます。確かに偶然を受け入れる環境づくりや、自分が予測できないアクシデントが起こりえるかもしれない環境は挑戦的に選択しています。パフォーマンス自体は毎回同一に行おうとしていますが、一方で「一回として同じパフォーマンスはない」という感触は自分の根幹に太く横たわっていますね。
高山:まさに木本さんの作品は、エラーを緩やかに許容していて、その点において私の作品との共通点があるように思います。木本さんのパフォーマンスとの相違があるならば、私の作品の場合には、一回一回がすごく短い反復で、扱う時間のスケールが異なる点でしょうか。ただしどの反復運動にも一回として同じ瞬間はありません。そうした「毎回異なる反復」を鑑賞者に知覚してほしいと思っていて、そのためには物理世界で起こるエラーをちゃんと許容する必要があると考えています。
———ひと区切りついたところで次の質問です。「『感覚的にしっくりくるもの』について教えてください(木本さん)」。いかがでしょうか。
木本:以前ターンテーブルの作品「pippin」がこれまでで一番でしっくりきているという話をお聞きしたことを踏まえて、その感覚の源泉に迫ってみたいです。作られてきた作品の規模感だったり、どことなく漂う「かわいらしさ」みたいなものだったりどこか高山さんの美学みたいなものが感じられるように思うんです。

高山芳の《pippin》2025
高山:サイズ感に関してはいろいろなご意見をいただくことも多いのですが、私としてはこれ以上大きくしようとも小さくしようとも思っていません。重力と磁力、摩擦や風力など、それぞれの物理現象の作用が及ぶ限度や範囲を基準にすると、自然と作品のサイズが決まるんです。いずれの力も、私が操作しようのない壮大な存在なので「どうしようもない」と言いますか、どれを受け入れて作ると、自ずと造形が決まっていきます。
木本:できることが増えたり、テクニックが向上したりしたら、高山さんの作品も発展していくんでしょうか。
高山:そうですね。良くも悪くも変わっていくと思います。
木本:オブジェクトや物理現象との関わりにおいて「どうしようもない」部分もある反面、ここだけは譲らないぞという部分もありますか。
高山:「道具は片付けるけど材料は散らかす」ですね。作業環境の汚さを正当化する言い訳でもあるのですが、頭で考えちゃうとどうしても想像を超えてこない部分がある分、手元が散らかっていると、頭では考えつかない要素がどんどんくっついていくんです。「磁石はくっつくもの」という固定概念がどんどんひっくり返っていく感覚ですね。あとは値段の高い素材を加工することが苦手———なにかを「決める」のがもとより得意ではなくて———で、割と安価な素材でプロトタイプをたくさん作れるようにしておきたいです。虫ピンとかストローなど加工するのに躊躇がなくて、思い立ったらすぐ作れるものを手元に多く置いておくなど、創作のハードルが下がる環境にしておければと。
木本:作るハードルを下げるのって大事ですよね。自分はもともと美術系の高校に通って油絵を描いていたんですが、作品ひとつひとつに込める思いが肥大化しすぎて筆を入れるのが怖くなったことがあります。結果的に描くこともままならなくなって。その経験から作りやすいものやハードルを下げて始められるものも大事さを学びました。パフォーマンスをはじめたのも、究極体ひとつあればできるので、良かったなと思いますね。
高山:自分の身体というか、自分ありきというのが大事だなと私も思います。まず自分が楽しむと言いますか、健康的に作ることが一番の喜びと言うか。その先に鑑賞してくださる皆さんがいる、という順番です。作品を見てどう感じてほしいというのは正直あまりなくて、とにかく「選択肢」を残しておいてほしい気持ちが強いです。たとえば素通りしてもいいし、でもずっと見ていてもいいし。以前、展示会場で泣いちゃった赤ちゃんを私の作品の前に連れてきてあやしてくださったことがあって、そういう事象をすごく嬉しく思っています。喜怒哀楽———怒ってほしいとは思いませんが、赤ちゃんを泣き止ませることもできれば、大人を泣かせることもできるような、一元的ではない作品であってほしいなと思いますね。
木本:高山さんが僕の考えまでも代弁してくれた気がします。「他人のために」作るとあんまり良いフィードバックが返ってこない。やっぱり自分がピュアな気持ちで楽しんでつくっていない作品は、見ている人にそれが伝わる気がします。自分が本当に好きなこと、興味を持っているものに貪欲に食らいついていきながら、満足できるアウトプットを追求することが、結果的にオーディエンスの満足に貢献できると思います。
———おふたりともありがとうございます。区切りの良いところで今日の対談はおしまいにします。
「KUMA EXHIBITION 2026」が2026年3月に開催決定!

クリエイター9期生が参加する大型成果発表展「KUMA EXHIBITION 2026」 が、2026年3月28日(土)・29日(日)に開催決定!東京の青山・スパイラルにて、アート、テクノロジー、音楽、建築など多様なジャンルの若手クリエイターが集う本展。新進気鋭のクリエイターたちによる作品が一堂に会する、刺激的な2日間をお届けします。
特設サイト|https://exhibition.kuma-foundation.org/exhibition2026/