インタビュー

風景が模様に見える “認識のズレ”をかたちに。 〜4期生インタビュー Vol.1 サカイケイタさん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

>>> 4期生のインタビューについての記事はこちらから。
4期生41名のインタビュー、はじめます!

サカイケイタ

1997年東京都生まれ。
武蔵野美術大学造形学部彫刻学科を卒業後、同大学造形研究科美術専攻彫刻コースに在籍。
自身のディスレクシアによる視点から立体造形を制作。
アートコンペ「CAF賞 2019」で最優秀賞を受賞。

https://kuma-foundation.org/student/keita-sakai/

 

 

文字が模様に見え、街の風景がラインに見える

 

――ハンガーや卵など身の回りにあるモノを使って、幾何学的というか哲学的というか、独特の世界観を生み出していますね。こうした立体表現を創るようになった経緯を教えてください。

 

サカイ 美術学科のある高校でデザインを勉強していました。あるとき、角材を素材に好きなものを彫っていいという木彫の授業があって、オリジナルのゆるキャラみたいな造形を彫ってみたんです。これがめちゃめちゃ楽しくて、ビビッと来た(笑)。それがきっかけで自分がやりたいことは立体表現だと気づいて、大学では彫刻を専攻しました。

 

――彫刻とサカイさんの立体表現はかなり違う印象ですが、今の作風はどんなふうに生み出されたのですか?

 

サカイ 彫刻は具象表現から学ぶのが一般的なんですが、僕はミニマリズムの抽象表現が好きで、大学1・2年次の彫刻の課題(塑像)に興味が持てなかったんです。大学3・4年になって自由に課題を設定できるようになり、初めて自分の好きなように創ったのが、白色に塗った板を壁に貼りつけた抽象的な作品でした。

それからいろいろ模索していくなかで一番しっくり来たのが、ハンガーと卵を使った『命がけ』という作品です。たくさんモノを並べて、その規則性から類推を図るという表現が、面白かったんです。

サカイケイタさんの作品「命がけ」。(ハンガー、卵 サイズ可変 2017)

 

 

――CAF賞の最優秀賞を受賞された作品ですね。抽象的な作品を創る際、どんなふうにインスピレーションが湧くものなんですか?

 

サカイ 自分は「ディスレクシア」という読み書き障がいを持っているんです。文字が模様に見えたりする現象なんですけど、逆に街の風景や山の稜線が、文字のラインに見えてきたり、幾何学的な模様のように見えてくることがあるんです。普段からそういう体験をしているので、ディスレクシアの視点から模様性をあつかった作品を創るようになりましたね。

 

――ディスレクシアは、文字をどんなふうに認識するものなんですか?

 

サカイ 文字の意味が頭に入ってこなくて、文字と文字の隙間とか、流れるようなラインになっているとか、そういうことが気になりだして模様化していくんです。そうなると、文章を読んでもストーリーが追えなくなってきます。僕の場合は、縦書きよりネットの横書きのほうが読みやすかったり、書体やサイズによっても違います。

 

――サカイさんの作品を見ていると、“認識のズレ”みたいなものを問いかけられているような気持ちになるのですが、なるほど、そう聞いて納得しました。

 

サカイ 認識のズレについては、普段から意識的に過ごしています。たとえば、友達に街が汚いことを言おうとして、「この街の床は汚いな」と言ったところ、友達から「地面だろ」と指摘されたことがありました。ほとんどの人は「床」は屋内で「地面」が外、あるいは素材の違いで認識しているわけですけど、僕は「足元の広い面」という概念で捉えていて、それが伝われば床でも地面でもどちらでもいいという認識だったわけです。

 

――なるほど、認識している概念にズレがあるわけですね。

 

サカイ 人はモノを見るとき、どんな機能を持っているかを判断しています。たとえば、ドアは開け閉めするものだし、コップを見ると注ぎたくなる。そうした機能から見た固定概念があると思うんですけど、僕は必ずしもそういうふうに捉えなかったりします。

風景を見ても道路の並び方から規則性を読み取ったり、建物の幾何学的な形態や色彩が気になってしまう。そうした人と自分との認識のズレが、「こういうふうに見えるんじゃないか」と考えながら制作していますね。

「LINE02」。(合板、アクリル絵具 サイズ可変 2019)

 

 

作品を通して「ディスレクシア」を知ってほしい

 

――ディスレクシアであることで生きづらさや困難を感じたりすることは?

 

サカイ 読むことが遅いことにより学習の機会を逃していたことから成績が上がらず、授業についていくのに疲弊していました。将来の目標や希望は持てなかったです。

あるとき電子ツールを使った家庭学習を取り入れたことが転機になりました。僕の場合、文章を自力で読んで書いて覚えるより、iPadで文章を読み上げて音声から情報を得る方が効果的だったので、独自のやり方を工夫し勉強しました。家族や友人、教育機関から理解と支援を得たことで自己肯定感が生まれ、エンパワーメントされた経験を今後の制作活動に活かしてゆきたいと考えています。

 

――作品を通して伝えたいことや、訴えかけたいメッセージはありますか?

 

サカイ 学習障がいの社会的な問題を考えてもらうきっかけになればいいな、と思っています。

高校生の頃、テストを受けるときにA4用紙の細かい文字だと僕には読みづらいので、A3サイズにフォント拡大してもらうように先生にお願いしたことがあったんです。そしたら先生は「サカイ君の障がいをみんなに説明してから対応していい?」と言う。僕からすると、「みんなと平等にテストが受けられるようにしたい」ということなんですけど、先生からすると、「みんなに説明することが平等」だと考えているわけです。「合理的配慮」の基本的な意味があまり理解されていないように思いましたね。

 

――自然に配慮すべきところを、特別扱いしてしまったわけですね。

 

サカイ ディスレクシアの人は日本で10%くらいいると言われていて、軽度の方も含めると15%くらいいるとされています。だけど、まだまだ日本では認知度が低く、支援のあり方が十分ではないと感じています。

自分の作品を通して学習障がいの「ディスレクシアってなんだろう?」と関心を持ってもらい、具体的に関わるなかで、障がいにおけるコミュニケーションの困り感を改善するきっかけになればと思って表現活動をしています。

 

――物の見え方や意味合いは、実は人それぞれ違うかもしれない。サカイさんの作品を見ていると、そのことに気づかされる気がします。

 

サカイ 普段、僕たちは自分と他者というふうに無意識のうちにラベリングしているものだと思うんです。たとえば障がい者というレッテルを貼ることで、本来その人の持つ潜在的能力や可能性が制限されることが多くあると感じます。無意識のうちに一線を引いていることに、意外とみんな気づかずに過ごしている。

ディスレクシアとして表現する身としては、「振る舞いから個々の認識感の差についての視座」というテーマを持って作品を創ることが大切だと思っています。

 

――本日はありがとうございました!

 

新型コロナウィルス感染防止のため、オンラインにて取材。

 

 

サカイケイタさんの今後の活動予定

■2020年8月25日

府中市美術館にて武蔵野美術大学彫刻科・大学院2年生の合同展示会を予定。
※新型コロナウイルスの影響により、予定が変更される場合があります。

 

 

Text by 大寺明

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