インタビュー

青森伝統の「ぼろ」に込められた 貧しさが持つ力 をオートクチュールに。〜4期生インタビュー Vol.3 八木 華さん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

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4期生41名のインタビュー、始めます!

八木 華

 

1999年東京都生まれ。
都立総合芸術高校在学中に装苑賞にノミネート。
高校卒業後、ファッションデザイナー・山縣良和主宰のcoconogaccoで学ぶ。
2019年に欧州最大のファッションコンペ「International Talent Support」ファッション部門に最年少の19歳でノミネートされ、ファイナリストに選出。

https://kuma-foundation.org/student/hana-yagi/

 

 

家業の板金工が、“修復”という私のルーツ

 

――古い布を継ぎ合わせた独特の服やドレスを制作されていますが、ファッションの道に進んだきっかけを教えてください。

 

八木 私はもともと美術高校で絵を勉強していました。あるとき絵から立体作品に興味が移って、テキスタイルの作品を創るようになったんです。その布を人が纏って動いたらさらに面白いと思うようになって、ファッションに進みました。だから、子供の頃から洋服が大好きでファッション業界に入ったという感じでもなかったんですね。

 

――美術からファッションに移行することに迷いはなかったですか?

 

八木 高校2年のときに思いつきで装苑賞に応募したんですが、最終審査に通ってファッションショーをやることができたんです。これがすごく楽しくて、すぐにファッションに転向しようと思いました。ただ、その後、高校の卒業制作のオブジェが1-WALLというコンペで賞をいただいたのですが、そのときは本当に自分のやりたいことは何なのか迷いました。今でもこのときに制作したオブジェと、現在の服の作品がどう繋がるか考えています。

 

日本橋のアトリエにて。

 

 

――ファッションといっても、八木さんの作品はアート作品という印象です。ファッションに対して、どんな考えを持っていますか?

 

八木 私は質感に凝ったものが好きなんです。それで柔らかな質感の布に興味を持ったわけですけど、布を使った現代美術の作品はたくさんあるし、質感に優れた工芸作品もたくさんある。キルトや染色などに特化することも自分がやりたいこととはちょっと違うように感じて、ずっと揺れてたんですよね。かといって、商業に特化したファッションもちょっと違う。

その服を人が纏うことによって、キャラクター性が醸し出されたり、その人が生きてきた物語みたいなものが感じられることに、私は惹かれていたんだと思います。

作品を作る際には、デザインを描くことから始まり、小さなプロトタイプを制作してから進めていくという。

 

 

――「Repair」という作品は“修復”がコンセプトだそうですが、いずれの作品も古布や古着を再利用して制作されています。“修復”にどんな想いを持っていますか?

 

八木 父が古い屋根を直したりする板金職人なんです。曽祖父から三代続く家業で、家に仕事場があったので、伝統的な板金の手法を見たり、ものづくりの感覚が子供の頃から身近にありました。それが私の中で“修復”というルーツになっています。

 

――「boro couture」という作品は、青森の「ぼろ」に感銘を受けて制作したとのことですが、これもまさに“修復”から生まれた伝統文化ですよね。

 

八木 初めて美術館で見たときはびっくりしました。実際に昔の人が使っていたものなので、なんか怖いんですよね(笑)。

昔、江戸で使われていた古着や端切れが各地に売られていったんですけど、北に行けば行くほど、売れ残った端切れが小さくぼろくなって、しかも東北は寒いので何枚も必要でした。それを縫い合わせて着れるようにしたのが「ぼろ」の歴史で、もともと“修復”というルーツを持っているんですよね。

「boro couture」。当時の青森と時代や環境は違うが「ぼろ」というこの国でしか生まれ得ない服を新しいオートクチュールとして更新する作品。

 

――「ぼろ」のどんなところに惹かれたんですか?

 

八木 「ぼろ」を着ていた当時の人たちは、すごく貧しかったんです。寒い地域なので家族みんなで大きな「ぼろ」にくるまって寝たりしていて、そうした生活の匂いが残っていることに感動しました。私はドレスが好きで美術館に観に行ったりするんですけど、これまで観てきたいろんな服の中でも一番感動したんです。

貧しさが持つ圧倒的な強さみたいなものに惹かれて、自分で一着作ってみたことで、「ぼろ」が持つ精神性みたいなものを忘れちゃいけないって思うようになったんです。

 

 

 

日本独自のルーツを持つ「ぼろ」で、世界の舞台に立つ

 

――2019年にイタリアで開催されるファッションコンペ「International Talent Support」(以下、ITS)のファイナリストに選出されましたが、どんな気持ちで挑みましたか?

 

八木 出展作品の「Repair」は、SNSなどを通じて約100人の人に協力してもらって制作しています。コンセプトは「千人針」です。戦時中、女性が集まって布に糸を縫い付けてお守りとして持たせたのが「千人針」なんですが、それと同じように、いろんな人が針を通した布をイタリアに持っていくということを大事にしました。

そのときの制作風景をタイムラプスで撮ってあるんですけど、今でもよく見返して励みにしています。あらためて、集まってくれた100人の人には心から感謝したいです。

「Repair」。古布を刺し子によって修復し、小さい作業を繋げてゆくことを沢山の人と共にすることで大きな物語を描いた。

 

――19歳にして世界的ファッションコンペを体験したわけですが、そこで得られたことは?

 

八木 日本で暮らしていると生活の不自由は感じないけど、圧倒的な経済力があるわけでもないし、ヨーロッパみたいにオートクチュールの文化が根付いているわけでもなくて、根本的なルーツの差を感じましたね。同時に私たち日本人の作品や今いる境遇の希少さも感じました。

世界のいろんなデザイナーのクリエーションを見てそのとき感じた気持ちと、日本独自の「ぼろ」が持つ“貧しさゆえの強さ”みたいなものが、そのとき私の中でリンクしたんです。

 

――世界の舞台で勝負するには、日本独自のものを打ち出すべきだと?

 

八木 そう思います。私たちの世代はグローバルな感覚が染みついているので、逆に自分のルーツであったり、日本という国のルーツに戻ることが大事だと思ってます。やっぱりそういうもののほうが力があるんですよね。

 

――「ぼろ」に影響を受けた作品は、いい意味で浮いていたのでは?

 

八木 浮いてましたね。それだけは自信があります(笑)。

 

 

――次の目標を教えてください。

 

八木 ITSでは、作品数にしても、プレゼンやポートフォリオの見せ方にしても反省点ばかりでした。そのぶん世界のレベルや基準がわかったので、その経験を生かして、またITSに挑戦したいです。高校生の妹がコマ撮りアニメーションを制作しているので、今度はファッションと妹の映像作品でコラボして、ふたりで応募しようと思っています。

 

――今後、どんなファッションを新たに打ち出していきたいですか?

 

八木 私はファッションの持つ力は、日常で身につけることだけじゃないと考えているんです。

私は大きなドレスや意匠を凝らした服を見ると感動するんですけど、まだまだ日本にはドレスを鑑賞するような文化が根付いてないと思う。自分が着れないから関係ないというのではなくて、観るだけでも感動できるような服を作っていきたいと思ってます。

ファッション業界は非常に多くの廃棄物を出していて、それを改善しようと「サスティナブル」という言葉がよく使われるんですけど、地球にやさしい服を作る一方で、一着のかっこいい服をみんなで鑑賞する。そういう文化を日本に作っていきたいです。

 

――本日はありがとうございました!

 

 

 

八木 華 information

■『COEVAL MAGAZINE』掲載
https://www.coeval-magazine.com/coeval/primordial-imperatrix

『Sticks&Stones Mothership』掲載
https://www.sticksandstonesagency.com/mystical-gloss-jonathan-vdk/

■ポーランドの雑誌『newonce.paper』Vol.7に掲載

八木華instagram
https://www.instagram.com/hannah.yagi/

※その他の展示や掲載情報が決まり次第、instagramで告知させていただきます。

 

 

Text/Photo by 大寺明

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