インタビュー
地球温暖化という大問題を、ゆるっとふわっと解決したい。そして夢は火星へ。〜4期生インタビュー Vol.9 村木風海さん〜
クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。
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4期生41名のインタビュー、始めます!
村木 風海
2000年神奈川県生まれ、山梨県育ちの化学クリエイター。
CRRA代表理事・機構長。東京大学教養学部理科I類に在学中。
小学4年生の頃から地球温暖化を止めるための発明と人類の火星移住を実現させるための研究を行っている。
2017年に高校生にして総務省「異能vation」破壊的な挑戦部門に採択される。
2019年に「Forbes Japan 30 UNDER 30 2019 サイエンス部門」を受賞。
2020年に一般社団法人 炭素回収技術研究機構(CRRA)を設立。
OFFICIALSITE:http://www.crra.jp/kazumi-muraki
https://kuma-foundation.org/student/kazumi-muraki/
人類初の火星人を夢見て、子供の頃から二酸化炭素を研究
――小学4年生の頃から地球温暖化の研究を行っているそうですが、問題意識を持ったきっかけを教えてください。
村木 実は最初から温暖化を研究していたわけではなく、きっかけは宇宙だったんです。小学4年生のときにスティーブン・ホーキング博士の冒険小説『宇宙への秘密の鍵』を読んだんですけど、地球以外に人類が住める星で一番適しているのは火星だと書かれていたんです。それで火星に行きたいと思うようになって、最初は火星移住の方法を研究していました。
調べていくうちに火星の大気の95%を二酸化炭素が占めていることを知って、人が住むためには、まず二酸化炭素をどうにかしないといけないと思いました。それから二酸化炭素を集める研究を始めたんですが、中学生の頃、その研究が温暖化の問題に役立つことに気づいたんです。
――高校2年生という異例の若さで総務省の「異能vation」に採択されていますが、ここから本格的な活動が始まったわけですか。
村木 実は中学3年生の頃にはすでに「ひやっしー」の仕組みの部分が出来ていました。だけど、研究費もなかったし、特許を取ったり製品化するとなると、すごくお金がかかるので困っていたんです。そこで「異能vation」に応募したところ、これが奇跡的に通って年間300万円の支援が受けられることになったんです。それを資金に「ひやっしー」を21台作って、地元の小中学校に教材として無償貸与しました。
――「ひやっしー」の仕組みと、その効果を教えてください。
村木 特許申請中なので詳しくは話せないのですが、おおよその仕組みとしては、中にアルカリ性の水溶液が入っていて空気中の二酸化炭素を吸収し、二酸化炭素が減った空気を外に放出します。二酸化炭素を集める大規模な工場に比べるとやはり効率が落ちてしまいますし、工場の仕組みをそのまま小さくすることもできないので、コンパクトな仕組みにするのが難しいところではありますが、初号機から3年で性能を195倍アップさせました。
性能的には1時間で500mlのペットボトル8~10本分くらいの二酸化炭素が取れます。オフィスで眠くなったり車の運転中に眠くなることがありますが、その原因として二酸化炭素が濃くなっていることが多いんです。オフィスや学校に「ひやっしー」を置くことで、仕事や勉強の集中力を上げる効果が期待できます。
――人工知能が搭載されていますが、どういう意図があるんでしょう?
村木 もともと僕は理系ではなかったんです。今でもそうなんですが、数学が徹底的に苦手で、得意科目は国語、社会、英語です。だから科学者が専門用語ばかりの難しい話をしているのを聞くことに拒絶感があって、科学が嫌いな人の気持ちがわかるんですよね。なので文系的な視点から「ひやっしー」をドラえもんのように親しみやすいものにしたいと思って、人工知能を搭載してお喋りできるようにしたり、周りのCO2濃度に応じて顔の表情を変化させたりしています。
――「ひやっしー」のミッションとは?
村木 産業革命から気温上昇がプラス1.5度を超えると、急に異常気象が増加したり、生態系が連鎖的に壊れたり、食糧危機になったりといろんな問題が一気に起きると国連が警鐘を鳴らしています。現状では、あと0.5度以内に抑える必要があるのですが、そのためには全世界で年間330億トンくらい排出されている二酸化炭素を半分の165億トンまで減らさなくていけないんです。さらに2050年までには0にしなければいけない。それはとても無理な話ですよね。それを達成するには、すべての乗り物をやめて会社や工場もすべて営業停止、家で暮らすだけという生活をして、やっと半分まで減らせる程度なんですよね。
――ある意味、コロナ過の自粛生活やリモートワークをずっと続けるようなものですね……。
村木 そうなんです。実際、コロナによって二酸化炭素の排出量は減っているので、世界中の人がテレワークになれば、なんとか達成できなくもないのかもしれません。
だけど、今から江戸時代みたいな暮らしをするのは無理があるので、二酸化炭素の回収が必要になってきます。「ひやっしー」を全世界に普及させられれば、温暖化は止められると思っています。
研究のモットーは「中身は最先端、見た目はゆるふわ」
――やはり「世界を救う!」という使命感を持っているんでしょうか?
村木 はい。その使命感でやってます。目標としては、温暖化の解決はあくまで中間点でしかなくて、僕の夢は人類初の火星人になることです。そのときの気持ちを想像するんですけど、たとえアポロの船長みたいに英雄扱いされたとしても、故郷の地球が滅亡しかけていたら哀しいじゃないですか。だから僕は人類がいつでも還ってこれる実家として地球を守っていきたいんです。
――実現に向けて村木さんが描いているロードマップを教えてください。
村木 僕の中では2045年くらいまでのビジョンを描いています。今はさまざまな企業と共同研究をしていて、ガソリンに替わる燃料や農業分野の肥料として二酸化炭素を有効活用するプロジェクトを動かしているんですが、一方で今年の初めに会社を設立して「ひやっしー」の販売を始めたので、今後はどんどん普及させていきたいと思っています。さらに車や電車の中などあらゆるものに「ひやっしー」を埋め込んで、街全体で二酸化炭素を吸い取るような社会を思い描いています。
2030年までは二酸化炭素を減らす活動に注力しようと思っているんですが、同時に2030年までには月に行って、2045年までには火星に行きたいと思っています。
温暖化と火星移住はまったく別の話に見えて、実は二酸化炭素というキーワードでつながっています。火星の大気から燃料を作ることができれば、地球に還るためのロケットの燃料になります。僕たちは温暖化を解決しながら同時にワクワクするような宇宙開発をしているんですよ(笑)。
――壮大なビジョンですね。普通の発想だとビジネス化で満足しそうなものですけど、村木さんにとっては初めの一歩という感じですね。
村木 僕はお金を稼ぐことにあんまり興味がなくて、欲しい世界をお金で買うんじゃなくて、自分で創りたいという思考なんです。僕にとっては研究が最高の楽しみなので、もし宝くじが当たっても、そのお金で走査型電子顕微鏡を買いたいと思うし、稼いだお金は全部、研究費に費やしたい。自分が実現したい世界を創るためにお金を使いたいという気持ちです。
人生100年時代と言われますが、僕は2000年生まれなので2100年も生きていると思うんです。いくら財産を蓄えても、そのとき地球が滅びかけていたらどうしようもないじゃないですか。
――温暖化の問題は、CO2の排出権が取引され、解決に向けて開発競争のような面もあり、現実的な壁も多いと思うんです。どうやって乗り越えていますか?
村木 僕の研究のモットーは、「中身は最先端、見た目はゆるふわ」なんです(笑)。親しみやすくすることで一般の人の理解を得ることが大切だと考えているのですが、逆にアカデミックな世界ではすごくウケが悪い(苦笑)。最近になってメディアに取り上げられる機会が増えましたけど、これまでの研究人生では「そんな研究やめちまえ」と否定され続けてきたんですよね。
もちろん壮大なことを言っているという自覚はあるので、最初は怖かったですよ。だけど、無理だと言われ続けていた研究が上手くいったという経験もあって、誰かに否定されればされるほど上手くいくと思い込むようにしてます。
僕は温暖化の問題を、ゆるっとふわっと楽しんで解決していきたい。みんな深刻になりすぎて頭の中でハードルを上げているだけで、実はそのハードルも幻想なんじゃないかって。壮大に思える問題も意外と簡単に解決できるんじゃないかと思っているんです。
――本日はありがとうございました!
村木風海information
■2021年「そらりん計画」
二酸化炭素からガソリンに替わる燃料を作り、2021年夏にはCRRA海洋研究船「第五金海丸」を動かすデモンストレーションを予定。
Text/Photo by 大寺明