インタビュー
物として見て触って理解する。電気の流れが直感的にわかる装置を作りたい。〜4期生インタビュー Vol.16 岸田聖生さん〜
クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。
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4期生41名のインタビュー、始めます!
岸田聖生
1996年愛知県生まれ、神奈川・東京育ち。電気通信大学大学院修士2年。
中学生の頃から親しんできた電子工作を中心に、情報技術に囲まれた日常をちょっと面白くて興味深いものにするためのハードウェアインタフェースの開発に携わる。
電気の様子が手に取るようにわかる装置「Ambre」で、「2019年度 未踏IT人材発掘・育成事業」採択&スーパークリエータ認定、「大学内ものづくりコンテスト」大学奨励賞&協賛企業賞受賞。
OFFICIALSITE:https://skishida.github.io/
https://kuma-foundation.org/student/shoki-kishida/
電気の挙動のイメージを、面白くわかりやすく表現
――中学生の頃から電子工作に親しんできたそうですが、少年時代はどんなモノづくりを楽しんでいましたか?
岸田 父がIT企業に勤めていたことや祖父が街の電器屋を営んでいたこともあって、パソコンやテクノロジーが身近な環境でした。小学生の頃から夏休みの自由工作で市販のラジオキットを組み立てたりしていたのですが、本格的に電子工作をするようになったのは、やはり中学生になってからです。今でこそAmazonでさえもいろんな電子部品を扱っていますけど、当時はあまり多くなかったので、秋葉原で部品を探したりしてましたね。電子工作には、自分が手を加えることでだんだん思ったとおりに動くようになという積み重ねがあって、その積み重ね自体が面白かったんです。
中高一貫校で物理部無線班という部活に入っていたんですが、面白いものベースで好きなものを作るというスタンスだったので、各々が作りたいものを作っていました。天井に張り付くロボットを作る人もいれば、人が乗れるホバークラフトを作る人もいて、僕は金属の弾が発射できる戦車を作ったりしていましたね。
――大学ではどんな研究をしているんでしょうか?
岸田 大学はプログラミングやCGを学ぶことが中心となるメディア系の学部に入りました。一見、僕が中学高校でやってきた電子工作とは別の領域になるんですけど、メディアとハードウェアの両方にまたがる領域があることに気づいて、今はVRや身体拡張をテーマとした研究室にいます。たとえばVRだとモノを触ったときの感触を再現するためのデバイスや、身体拡張だとロボットアームがある。そんなふうにメディア系の中でもハードウェアを作る必要がある領域もあり、そこに自分の活路を見出した感じです。
――作品の「Ambre」は、電気の流れが手に取るようにわかるという装置ですが、これはどんな発想から生まれたものなんでしょうか?
岸田 電気というものを面白くわかりやすく表現するというコンセプトです。このコンセプトは2017年から考えていたもので、最初は自分の腕を配線にするというアイデアで、電気が流れると腕が振動したり、腕を締め付けると電気が流れなくなるという装置を考えていました。コンテストの企画書段階でボツになってしまったので形にならなかったんですが、翌年、コンセプトはそのままに「回路のお医者さん」という装置を作りました。これをさらに発展させたのが「Ambre」になります。
――台形のブロックや矢印のブロックで電気の動きを表しているようですが、それぞれの法則性を教えてください。
岸田 台形のブロックは電圧を表しています。電圧の高い低いをそのままブロックの高低で表していて、積み木のようにブロックを重ねて高くすると、電圧を示すバーも高くなります。矢印のブロックは電気が流れる方向を示しています。電気が流れる方向と矢印の方向が一致するとライトが光り、一致しないと光らないようになっています。配線を握ると電気が流れなくなるという動作は、2017年の企画のときのアイデアを持ってきたものです。実際に電気にそういう性質があるわけではないのですが、小学校の授業で電気の性質を水とポンプの例えで習ったり、中学校でオームの法則を習ったりしますよね。そういった電気のイメージを、握ったら流れなくなるという動作で表現しています。
――電気を物理的な動きで表現することで、どんなことを伝えようとしましたか?
岸田 電気の流れが直感的にわかるようになってほしいという想いがあります。僕は中学生の頃から電子工作をやっているので、感覚として「この電気はこう流れる」という挙動のイメージがつきます。だけど、たとえば大学の同期が初めて電気回路を触るとなったとき、挙動がわからなかったりする。そこには電気の実態がつかめていないというギャップがあると思いました。物理の公式ではなく、もっと感覚的に電気の実態が一発で伝わる装置があればいいと考えたんです。
子供が落書きするように、思い描いたものに実体を与えたい
――制作の面で難しかった点やこだわった点はどんなところですか?
岸田 やはり電気の性質が伝わっているか、理解できるかがひとつの指針なので、そこはこだわりましたね。去年は1、2カ月に1回くらいデモ展示をして、実際に子供たちに触ってもらい、その反応を見ながら微調整を繰り返しました。電気の性質を示す動きの意図が伝わっていないようだったら、元の方指に戻って実装し直すわけですが、“本当に伝えたいことをどこまで伝えられるか”という落とし所が難しかったですね。
――電気の性質を理解してほしいと考える背景には、どんなメッセージがあるんでしょう?
岸田 巷にはあらゆる電気のデバイスが溢れているので、そこに思いを馳せないのはいかがなものかと思うんです。たとえばスマホのケーブルは一本でも、電気が流れるためには+と-が必要なので、内部には必ず2本の線が入っています。それがわかっていないと1本のケーブルとしか認識できない。そんなふうに電気のリテラシーを持って世の中を見ることができる人が、少しでも増えればいいと思っています。「Ambre」に触れることで、電気の動きがどんなふうに表現されていたかを思い出してもらえるとうれしいですね。
――電子工作を通して表現することをどう考えていますか?
岸田 人に見せたり評価されることを抜きにして、みんな子供の頃は絵を描くのが好きだと思うんです。僕はその延長でもいいと思っていて、落書きをするように、ちょっと電子工作で動くものを作ってみるくらいの感覚でもいいのかなと思っています。たとえば10年間飛び続ける人工衛星のようなすごいプロダクトを作ってみたいという気持ちもあるんですが、それとは別に、日常の中で他愛もない動作をする“ちょっと面白いものを創りたい”という気持ちは、昔から変わらず僕の一貫している部分ですね。
――他にも「GO飯」というアプリの制作に携わっていますが、あれも「ちょっと面白いものを創る」という発想から生まれている?
岸田 「GO飯」はハッカソンに出したものなので、そもそもプレゼンが面白くないとウケないということもあって、技術的なことや社会実装は二の次に考えるところもあるんですが、僕が担当したハードウェアの部分では、技術的にも面白いことをやっているつもりです。GO飯はスマホを使った飲食店のレコメンドアプリですが、探しているお店が寿司屋だったら寿司型のアクセサリーをイヤホンジャックに差して、スマホを振った回数に応じてその距離にある寿司屋が探せるようになっています。他にもラーメン屋や居酒屋などのアクセサリーを差すことができるんですが、このイヤホンジャックがアクセサリーを識別する仕組みを僕が作りました。スマホのイヤホンジャックから音楽プレイヤーの操作ができたり、マイク入力ができるので、その機能を使っています。この仕組みに関しては、けっこう面白いものができたと思いますね。
――岸田さんが思い描くテクノロージ社会の未来像と、今後のクリエイター活動の抱負を聞かせてください。
岸田 頭の中にあるアイデアがヴァーチャル空間でどんどん具現化できるようになると思います。VRの面白いところは、物理世界で作るのが難しかったものが、すごく低コストで誰でも実装できるようになることだと思うんです。それこそ電気回路がわからなくても、同じように動くものがヴァーチャル空間で作れるようになる。その一方で、やはり僕らが生きているのはこの世界なので、頭の中でイメージしたものを現実世界に書き起こす必要が絶対にあると思っています。そのためにも電気回路や電子工作のスキルは磨き続けていかなければいけないと思っています。僕はいろいろ興味が移り変わるタイプなんですが、思いついたものに実体を与えたいという想いは、いつでも一貫していると思いますね。
――本日はありがとうございました!
岸田聖生information
■ 『Ambre』 紹介サイト
https://ambreio.net/
Text by 大寺明