KUMA FOUNDATION クマ財団

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クリエイター奨学金は、学生クリエイターの育成を目的とした、給付型奨学金です。

ニュース

石原航2020.12.18

“本物でも偽物でもない自分”によってインターネットの世界をより自由に。〜4期生インタビュー Vol.21 石原航さん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

>>> 4期生のインタビューについての記事はこちらから。
4期生41名のインタビュー、始めます!

 

 

石原 航

1995年東京都生まれ。
慶應義塾大学 政策・メディア研究科在籍。
今の小綺麗なデジタル社会に、よこしまなことを創造的に行える余白をつくりたい。
「信用」や「分人」をテーマに超信用社会におけるデジタルコミュニティの可能性を思索、研究している。
主な作品として「他人のアカウントにログインできるSNS Hack In」など。
OFFICIALSITE:http://kooh.me/

https://kuma-foundation.org/student/ko-ishihara/

 

 

あらゆるWebサービスは、かつて「ネットアート」だった

 

――デジタル社会に一石を投じるような作品を制作されていますが、プログラミングによる表現活動をするようになった経緯を教えてください。

 

石原 大学に入るまでプログラミングは一切やったことがなくて、高校時代はずっとラグビーに打ち込んでいました。ところが事故で内臓破裂の大怪我をして選手生命が絶たれてしまったんです。それから慶応大学SFCに入ってプログラミングの勉強を始めました。そのまま行けばデザイナーやエンジニアとしてサービスの開発に携わるという道もあったと思います。けれど、10代のときにマーク・ザッカーバーグのドキュメンタリーを観て衝撃を受けたという原体験もあって、本当に新しいものはなんだろう?と考えるようになっていました。

サービスデザインを勉強しようとすると、マーケティングや合理性といった話になりがちですが、そこから生み出される新しさには限界があると思っていて、本当に革新的なサービスは、アーティスティックな破壊性から創り出されるものだと思うんです。本当に新しいものは、役に立たないものや意味がわからないものから始まる。そう考えたときアート方面だなと思って、今は脇田玲先生の研究室でネットアートのアーティストとして活動しています。

 

――なるほど「ネットアート」という領域になるんですね。それはどんな概念の表現なんでしょうか?

 

石原 インターネットというと便利なものや合理的なものをイメージしますが、新しいメディアの使い方として、神経が逆撫でられるようなものや気持ちわるいものを表現する人もいれば、政治や社会への問題提起といったアプローチをしている人もいます。こうした様々な実験が、今のWebコミュニティを形作る原型やインスピレーションになっていたことを踏まえると、あらゆるWebサービスはかつて作品だったと思えるんですよね。Facebookがまさにそうですが、デジタルコミュニティに実名を投じることが当時は画期的なことだったし、ハイパーリンクも僕はネットアートだったと思うんです。今は当たり前すぎて作品には見えないけど、本当に新しいものを創り出している人は、意識的にせよ、無意識的にせよアート的なことをやっている人たちだと思いますね。

 

――作品の『Hack In』は、「他人のアカウントにログインできるSNS」ということですが、この作品で表現したかったことは?

 

石原 ポスト・トゥルースといわれる時代になってきて、なりすましやフェイクが横行して害悪だと見なされていますが、僕はそこに創造的な解釈が生まれるんじゃないかと思っているんです。『Hack In』は登録したユーザー同士でお互いにハッキングし合うというコミュニティなんですが、「Alike」というボタンを付けていて、「お前っぽいね」とフォロワーが評価するわけです。他人になりすまされることで、自分じゃないのに自分らしいと言われ、自分の印象に気づくかもしれない。そうすると、私ってなんだろう?とみんな考えはじめると思うんです。

また、なりすましが可能になることで、本当は自分で書いているのに「俺じゃない」と言えますよね。もともとSNSは個性を表現できる自由な場だったわけですが、下手に個性を出すと誰かに叩かれたり炎上するんじゃないか、という心配が頭の片隅につきまとって自由に表現できなくなってくる。いつでも「俺じゃない」と言える安心感があって初めて言えることってあると思うんですよね。

「Hack In」インターネットはあらゆる権限を分散し、個人をエンパワーメントしてきた。では、個人の権限すらも分散されたら何が起こるだろうか?

 

――たしかにいろんな人が見ていると思うと、無難な投稿しかできなくなってきますね。

 

石原 『Hack In』を作った背景として、高校生の頃から自分の名言ふうの言葉で厨二病ポエムみたいなものを書き溜めていたことがあります。現在1280ポエムあるんですけど、これを世に出すのはさすがに恥ずかしい(笑)。だけど、中にはいいポエムもあるので、世に出したかったんですね。最初は匿名サイトで考えていたんですけど、匿名だと自分の成果にならないし、かといって実名による投稿にもしたくない。それで“本物でも偽物でもない自分”みたいなアバター化を考えたんです。恥ずかしいポエムを出しても「俺は言ってない」と言えるようにしたかった(笑)

 

 

 

極端に合理化されたデジタル社会から逸脱する試み

 

――『Masquerade』という作品は、Web広告やYouTubeなどのレコメンド機能に対し、「砂利を混ぜる」と説明されていますが、この作品で表現したかったことは?

 

石原 インターネットから個人のデータがどんどん吸い上げられて、そのデータをもとにGoogleのサーバー内で勝手に自分像みたいなものが作られていますよね。その自分像に「こいつ、こんなの好きだよ」と告げ口されているみたいで気持ちが悪いものだし、独占的なデータ市場に対する個人が対応できるカモフラージュやステルスという意味がひとつあります。

もうひとつは、Googleに「どういう人間だと思われたいか」ということで、これまでは自分から主張する手段がなかったですよね。『Masquerade』に性格やプロフィールを設定することで、そのキーワードに紐付いたレコメンドが表示されるようになるんですが、たとえば僕が女性っぽいデータを入れると、Googleが僕を女性だと勘違いしてくれるわけです。初期段階では撹乱のツールだと考えていたんですけど、ゆくゆくはデータとしての自分を演出するためのファッション的なツールになってくる思っていますね。

 

――そうすることで、普段、読まないような本や着ないような服の広告が表示されるわけですか。

 

石原 そうですね。レコメンド機能はたしかに便利なんですけど、極端なまでに合理的にデザインされたインターネットの世界では、フィルターバブルと言われるようにアルゴリズムのフィルターに囲まれて自分の趣味嗜好に合ったものしか出会えなくなる。そこに新しい自分像を投入することで、未知のものに出会えるかもしれないですよね。

 

――「分人」をテーマにデジタルコミュニティの可能性を研究しているそうですが、どんな考えを持っていますか?

 

石原 作家の平野啓一郎さんが『私とは何か 「個人」から「分人」へ』という本を書いたことで知られるようになった考え方なんですが、本当の自分とそうではない自分という二項対立の人間観ではなく、個人の中にいろんな自分がいて、それらは全て同格のもので、その総体が「私」だと捉えるのが分人主義の考え方です。ちなみに僕はTwitterのアカウントを21個持っていて、それぞれのアカウントで分人をやっていると言えるんですが、やっぱり一つのアバターに対して一つの魂なんですよね。たとえば『Hack In』を使って一つのアバターに複数の魂が結びついてもいいと思うんです。個人の中にいくつかの自分がいるのが分人ですが、そこにさらに他人から見た自分像が入ってくる。そんなふうに分人主義という概念のアップデートを試みています。

人格がひとつだけという世界にいると、普段の自分像とかけ離れたことをやった途端、「あいつすげえキャラ変わったな」と言われて、自分のキャラから逸脱するのを抑圧されるような息苦しさを感じますが、“他人になりすまされている私”という分人があれば、自分に紐付いた微妙なラインで自由に表現していけるんじゃないかと思っています。

「doodle」SNSの投稿を他人が自由に改ざんできるというコンセプト。他人になりすましされる状況下であれば、表現の自由度が上がる。

 

――もう一つの研究テーマである「信用」についてお聞きします。超高速・高信頼とされる5Gの普及によってデジタル社会も変わっていくと思うんですが、どんな未来像を思い描いていますか?

 

石原 テクノロジーの発達によって、これまでありえなかったようなことが信用できるようになってきてますよね。たとえばAirbnbや Uberが登場する前は、見ず知らずの人の家に泊まったり車に乗るなんて信じられないことだったのが、レビューの仕組みが整ったことで、これまでなかった信用関係を結んで、自分の何かしらを人に委ねるようになりました。そうやって試しに委ねてみて、初めてわかる信用があると思うんです。そう考えていくと、例えば『Hack In』のように人に自分のアカウントを委ねたり、個人情報を委ねるといった、今まで想像もしなかったようなことまで人に委ねるようになっていくと思うんです。新しい信用を発見するには、こんなことまで委ねていいの?と思うようなことを一つひとつ委ねてみる実験をやっていくことだと思っています。

 

――本日はありがとうございました!

新型コロナウィルス感染防止のため、オンラインにて取材。

 

石原航 information

■『Hack In』について
https://vimeo.com/297550093

 

■2021年4月頃「余白」をテーマとした企画展を予定
https://gridin.info/

 

 

Text by 大寺明