インタビュー

ARアプリ『ARama!』は、個人制作で世界にアプローチできることの実証実験。〜4期生インタビュー Vol.27 ばいそんさん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

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4期生41名のインタビュー、始めます!

ばいそん (守下 誠)

1995年静岡県生まれ。
xR Designer/Engineer。
九州大学芸術工学部卒業後、現在、情報科学芸術大学院大学(IAMAS)在学。
からだをコピペして遊べるARアプリケーション《ARama!》の開発を起点とし、xR技術の「本当の面白さ」を翻訳して広くユーザーへ届けることを目標に、ものづくりを行っている。
OFFICIALSITE:https://by-bison.myportfolio.com/

https://kuma-foundation.org/student/macoto-morishita/

 

 

器用貧乏でいろいろやってきたことが、ARに結実した

 

――電子工作、プログラミング、グラフィックデザイン、映像編集など、いろんなものを制作していますが、メディアアートに至るまでの経緯を教えてください。

 

ばいそん 最初は愛知の豊田高専で電気・電子システム工学科で学んでいました。面白いと思うこともたくさんあったんですけど、電気工学の世界にある大きなシステムの中の一部分で革新的なものを作るという美学は、将来的な自分のやりたいことにマッチしていないように思えたんです。それよりも趣味でやっていた映像編集やグラフィックデザインを伸ばして、「守下誠が創った」と言えるような作品制作をしたかったんですね。

高専から九州大学芸術工学部に編入して芸術の授業を受けるうちに、工学とは違うもう一つのものの創り方としてアートを捉えるようになったんです。みんなに使ってもらえることが工学の醍醐味だとしたら、アートは可能性の種みたいなものを蒔いて、鑑賞者に何らかの影響を与えることに価値を置くものだと思うんです。そうしたものづくりって素敵だなと感じてメディアアートを創ってみたいと思うようになりましたね。

 

――メディアアートではどんな作品を制作していましたか?

 

ばいそん 九州大学の卒業制作では、スマートフォンを通して世の中を見ることに疑問を投げかける『半導体の硝子を見ている』というインスタレーションを制作しました。今にして思えば、これはまだまだメディアアートと呼べる代物ではない上に、コンセプトを伝える方法が下手だったと思います。自分の思想みたいなものを形にしてガツンと人の心に響くようなアウトプットはできなかったけど、見せ方を整理してきれいに表現するエンタメ的な能力は高いんだなって気づかされた作品でしたね。

 

――情報科学芸術大学院大学(以下、IAMAS)に進学したのは、どんな目的だったんですか?

 

ばいそん 高専、九州大学と進んで、さまざまなものづくりの技術を身につけていったものの、九州大学卒業時には、結局、いろんなことをやっているだけの器用貧乏の状態だったんですよね。自分がどんなふうに社会に出ていくのかまったくイメージできなかったので、もう一度、高専時代のようなシビアな環境に身を置きたいという気持ちでIAMASに行くことを決めました。IAMASは少人数制で先生も密に関わってくれ、自分がやってきたことがいったん壊されるようなシビアな環境だと聞いていたんです。

 

――IAMASに入ってからARを制作するようになったんですか?

 

ばいそん そうですね。岐阜の養老天命反転地で作品を展示する機会があったんです。アーティストが構想した平衡感覚を失うような不思議な体感が得られる公園なんですけど、そこでやるならARを使った面白い遊びができそうだと思って、『ARama!』の元になるアイデアを思いついたんです。最初は軽い気持ちでやり始めたんですけど、これまで自分がやってきたこととマッチするように思えたんですね。

僕は最初は電子工作をやっていて、これはハードウェアで現実空間の世界ですよね。その次はプログラミングをやるようになって、これはソフトウェアの世界。それから映像編集やグラフィックデザインやインスタレーションをやるようになって現実に出力する方向に傾いていって、現実世界とデジタルな世界を行ったり来たりしていたわけです。ARは現実とデジタルを融合させる技術なので、どちらも知っていたほうがいいですよね。器用貧乏でいろいろやってきたことが、ARに結実できると思えたんです。

 

 

いろんな発想を生み、可能性を広げるツールを作りたい

 

――『ARama!』は人の残像を表示したり、人を切り抜いて好きな場所に表示するアプリですが、どんな発想から生まれたものなんですか?

 

ばいそん 子供の頃、洗濯バサミをくっつけて飛行機の形を作ったりして遊ぶのが好きだったんですよね。洗濯バサミは数や重力の制限があるけど、AR空間には制限がないので身の回りのものを何でもくっつけられる。人にフォーカスしているのはどちらかというと技術的な問題で、ものより人の形を切り抜くほうが簡単なんです。とりあえず人でやってみたところ、面白いものができたのでTwitterに投稿したところ、「こういう使い方をしたい」とか「こういう遊びができる」といったいろんなコメントが寄せられました。自分が創ったものを通していろんな発想が生まれてくる。それは、まさしく僕が求めていたものづくりのコミュニケーションだったんです。

 

――2020年10月末に『ARama!』がリリースされましたが、手ごたえのほどは?

 

ばいそん 実は修士制作で論文を書くために作品を仕上げなくてはいけないという事情があって、あれは最低限許せる範囲でリリースしたものなんです。自分としても人におすすめできるレベルに達してないと思っているので、これから徐々にアップデートしていくつもりです。

もともと残像を表示する機能と、人を切り抜いて好きな場所に配置する機能がありましたが、テスト展示をしているうちに根本的に違う機能だと気づいて、今回のリリースでは残像の機能はカットしました。というのも、『ARama!』は子供でもすぐに使えるようなわかりやすさが重要だと思っているので、UIとUXの部分ですごく苦心しています。一つの枠組みに異なる機能を入れようとするとUIを作るのがとにかく大変になるので、いったん残像の機能は外しましたが、なるべく早く同じブランドの別アプリとしてリリースしたいですね。

 

――正式にリリースするとなると、開発以上に大変なこともあったのでは?

 

ばいそん App Storeの審査を通すのが一番大変でしたね。サポートサイトを用意したり、英語対応をしているので英語のテキストを用意する必要があって、とにかく準備しなければいけないものが多いんです。大変は大変でしたけど、やった価値はあったと思います。今後は全部一人でやることにこだわらず、システム開発の外部委託も考えているんですが、ディレクションをする際に自分一人で作った経験が役立ってくると思っています。

 

――作者としては『ARama!』はメディアアートと位置づけていますか? それともプロダクトとして作っている感覚なんでしょうか?

 

ばいそん アート作品として創っているわけではなく、エンタメでありツールであると思っています。個人的に創る作品とプロダクトをあまり区別していないんですが、将来的に自分のワークにしていきたいと思っているところはありますね。というのも、開発からリリースまで全て一人でやること自体が、僕にとってはひとつの実証実験なんですよね。今の時代は、大きな企業じゃなくても個人で何かを作って公開し、人に影響をおよぼすことができることを言いたいわけです。本当は「簡単だよ」と胸を張って言いたかったんですけど、これがぜんぜん簡単じゃなかった(笑)。だけど、いつか簡単だと言えるようになりたいんです。だから今後も個人としてものづくりをして発信することは続けていきたいと思ってます。

 

――最後に今後の制作活動の展望を聞かせてください。

 

ばいそん 『ARama!』はAR空間で積み木遊びをするようなツールだと思っていて、根底には“ツールを作る”という軸があります。ひとつの仕組みを提供し、それがどんなふうに使われるか、そこからどんな可能性が生まれるかは、使う人に委ねるのが“ツールを作る”ということだと思っています。

これからの時代は、ますます不確実な時代になっていくと思うんです。コロナ禍が象徴的ですけど、何かをやれば叩かれるし、やらなくても叩かれるという状況が起きていて、何が正解なのかわからない世の中になってますよね。正解がないからこそ、可能性を狭めるようなツール作りではなくて、そこから何か新しいものが生まれるように手助けしていきたい。僕自身も含めて、一人ひとりの可能性を最大化できるようなものづくりをしていきたいと思っています。

 

――本日はありがとうございました!

新型コロナウィルス感染防止のため、オンラインにて取材。

 

ばいそん(守下 誠) information

■ARama!のダウンロードはこちら
https://apps.apple.com/jp/app/arama/id1537782262

 

■ 卒業制作展「IAMAS 2021」に出展します
「IAMAS 2021 情報科学芸術大学院大学 第19期生修了研究発表会・プロジェクト研究発表会」
会期: 2021年2月20日[土]→2021年2月23日[火]
会場: 岐阜県大垣市加賀野4丁目1番7号 ソフトピアジャパンセンタービル
https://www.iamas.ac.jp/exhibit21/

Text by 大寺明

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