インタビュー
人の体と自然との“境界線”である服に、平和の祈りを込めて。〜4期生インタビューVol.37 岡﨑龍之祐さん〜
クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。
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4期生41名のインタビュー、始めます!
岡﨑龍之祐
1995年広島県生まれ。
東京藝術大学 大学院 美術研究科デザイン専攻在籍。
ファッションデザイナーとして、自身のルーツ、身体性、土地性などから思考し、人が纏う形を制作する。
小柳ゆき、きゃりーぱみゅぱみゅなど有名アーティストの衣装提供も行う。
「コミテコルベールアワード2018」グランプリ受賞。
「藝大アーツイン丸の内2019」三菱地所賞 受賞。修了制作の「JOMONJOMON」が東京藝大デザイン専攻の首席に選ばれる。
OFFICIALSITE:https://ryunosukeokazaki.com/
https://kuma-foundation.org/student/ryunosuke-okazaki/
常に手を動かしながら、息をするように創り続けていく
――東京藝大のデザイン科でファッションデザイナーとして活躍されていますが、ファッションに興味を持つようになったきっかけを教えてください。
岡﨑 最初は音楽から入りました。親が音楽関係の仕事をしていた影響で、パンクのカルチャーやファッションに興味を持つようになったんです。小さい頃から絵を描いたり、ものづくりをするのが好きだったこともあって、中学高校で周りの男子がお洒落しはじめたとき、「自分で服を作ってみたい」と思ったんですよね。それから自分が着るパンツを作ったりするようになったんですけど、ちょっと変わったデザインにしていて、コム・デ・ギャルソンのオマージュみたいな感じでしたね(笑)。
服作りをしたい人は服飾学校に行く人が多いですけど、自分はものづくりが一番好きだったので、アート全般を学びながらものづくりがしたいと思って東京藝大に入りました。誰にも真似できない造形で纏うものを創りたいと思っていましたね。
――東京藝大はファッションが盛んなイメージはあまりないですが、その中でどんなふうに自分の方向性を見定めていったんですか?
岡﨑 1年生のときは普通にデザインの勉強をしていました。問題解決の考え方や使いやすさ、他者の共感を得られやすい造形といったデザイン思考を学んでいたんですけど、ファッションデザインが「デザイン」とされているのに、ランウェイで着る服が普段着られないようなデザインであることが疑問だったんです。だけど、機能性を取り払った中に絶対的な美学があって心を動かされる。そこにもデザインの価値があるはずだと思って、もっと深く知りたいと思ったんですよね。今思えば、デザイン思考に対する反骨精神があったのかもしれないですね。
――自身のルーツや身体性、土地性から思考していくということですが、どんなコンセプトで服を作っていますか?
岡﨑 なぜ人は服を着るのか?ということを徹底して考えてみたことがあって、人間の体に一番近い部分で自然に触れているのが服だと考えたんです。それは自分を表現するためのツールでもあるけど、自分と自然をつないでくれるものでもある。
僕は平和への祈りや神道の祈祷からインスピレーションを得て服を作っているんですが、祈りとは自然とのつながりに思いを馳せるものだと思うので、僕の中では祈りを服で表すことがしっくりきました。最近は自然との調和について考えていて、“自分と自然との境界線”をコンセプトに服を作っていますね。
――「Wearing Prayer」という作品は、まさに「祈りを着る」という意味ですね。どんな思いを込めていますか?
岡﨑 広島から上京して美術予備校に1年間通っていたんですが、クラスで8月6日(広島に原爆が投下された日)に黙祷しているのが僕だけだったんですね。僕自身も原爆の問題にちゃんと向き合ったことがなかったんですが、黙祷している自分に気づいたとき、18年間生きてきた広島の文化が自分の中に蓄積されていることを感じて、自分のルーツや広島の歴史をもっと学びたい思いました。
それから平和活動をするようになって、その活動の中で折り鶴の再生紙と出会ったんです。すごく感動して、直感的にこの再生紙で服を創りたいと思いました。体に一番近いところで平和の願いを纏わせたいという想いがありましたね。制作では、自分も祈りながら縒るという行為を大事にしました。そうすることで最終的に出来上がったものに作者の想いが表れるものだと思っています。
――抽象的なイメージを形にしていく際、どんなふうにデザインを考えていくんですか?
岡﨑 僕はデザイン画をまったく描かないんです。自分でも想像していなかったような形が生まれてくる偶然性が大事だと思っていて、その場で絵を描いているような感じです。自分の内側から出てくるものを感じながら、足したり引いたりを繰り返して造形的に組み立てていくんですが、そうやって創ることで自分のことが知れるというのもあります。常に手を動かしながら新しいものを探して、“息をするように創る”ということを大事にしているんですよね。
縄文土器と神道の造形からインスピレーションを得る
――東京藝大デザイン科の首席作品となった「JOMONJOMON」は、“縄文”という日本のルーツを感じさせますが、この作品で表現しようとしたことは?
岡﨑 この作品は縄文土器と神道からインスピレーションを得て創りました。縄文時代の人々は常に自然の脅威に晒され、恐怖と畏怖の念を持って祈っていたと思うんです。現代人もまたコロナ過や東日本大震災が起きたとき、自然に対して恐怖や畏怖の念を持ちます。過酷な自然の中で生きることへの願いが縄文土器の装飾や造形に込められていると思っていて、それを現代的に表現しようと思いました。「JOMONJOMON」も最初に形を決めていたわけではなく、縄文土器が呪術的に作られていたように、その場の感覚で呪術的に創っていったものなんですよね。
神道のイメージについては、僕の実家が厳島神社のある宮島口にあって、家から鳥居が見えるんです。神道の造形は左右対象に作られているので、作品も左右対称にしました。人が台の上に乗って着る形にしたのも、見上げるという行為が崇拝や礼拝を思わせることを意識しています。
――あらためて、首席に選ばれた感想はいかがですか?
岡﨑 東京藝大でファッションをやっている人はいるにはいるんですけど、アートとして認められて大学の美術館に収蔵されるのは、現代的な服では初のことらしくて、「東京藝大としてもターニングポイントになる」と言われました。ファッションは個人的なものですが、人が共感できる部分を持ってきたり、歴史とつなげたりといった試行錯誤をすることで、社会とつながることができて本当にうれしかったです(笑)。
――2020年末にExhibition「梅・蘭」を共同開催されていますが、花を思わせる造形やカラフルな作品が多いですね。やはり花をテーマにしているんでしょうか?
岡﨑 令和が明けてすぐにコロナ過になって、いろいろ考えさせられる中で東京藝大の友人と3人で、これまで創り続てきたものを発表しようとなったんですが、「令和」の語源が万葉集なので、同じく万葉集の序文で詠まれている「梅・蘭」という言葉を使っています。たしかに花のような作品が多いですが、コンセプトとしては“自然の境界”という作品群なんです。
花のような造形は全てふちどりがされていて、それは人が対象を認識したり、絵を描いたりするときの輪郭を表しています。本来、輪郭というのはこの世に存在せず、物体と物体の空間が離れているだけなんですが、人は対象を認識するときに輪郭を必要とします。現代では、サスティナブルや自然との調和といったことがよく言われますが、実際はちゃんと自然を認識できていないような違和感がありました。作品では輪郭を強調することで、「自然を認識できているだろうか?」という思いを込めています。
――コロナ過に対するメッセージを込めた展示会のようですが、アーティストとして、アフターコロナの時代をどう考えていますか?
岡﨑 すごく大変な事態だと思いますけど、人の営みを長い目で見ると、こうしたことは必ず起きることであって、いつか収束するはずだと願って受け入れるしかないと思っています。コロナ過の鬱々とした雰囲気に負けないという気持ちで、僕はこの状況の中でもガンガン作品を創って発表していたんですね。作品を観た人から「元気をもらえました」「私も創ろうと思いました」といった声をいただいて、アーティストとして生き方を見せていくことが大事なんだと気づかされましたね。
アフターコロナをどう生きていくかというと、僕は以前と変わらず創り続けるというスタンスです。アーティストにとって一番大事な存在価値は、多様性を表明することだと思っていて、“こういう人もいる”ということを実践していきたい。それは僕にとって“息をするように創り続ける”ことです。僕が創ったものを観て、誰かの心が動いてくれたうれしいですね。
――本日はありがとうございました!
岡﨑龍之祐 information
■岡﨑龍之祐 個展
2021年6月18日(金)~6月27(日)
【場所】MEDEL GALLERY SHU(https://medelgalleryshu.com/)
Text by 大寺明