KUMA FOUNDATION クマ財団

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クリエイター奨学金は、学生クリエイターの育成を目的とした、給付型奨学金です。

ニュース

杉原 寛2018.07.12

「人工物の生態系、その風景を作る」杉原 寛さん インタビュー(後編)

前回に引き続き、2期生 杉原 寛さんのインタビューをお届けします!

“よくわからない人工物”の生態系が、残り続けていくような風景

桐田:この『READY TO CRAWL』の機構をどんどん試して進化させていく中で、例えばテオ・ヤンセンの作品みたいに、実際の自然の中で動かしてみたい、巨大にしてみたいっていうような思いはあるんでしょうか。

杉原:それは……やっぱりありますね。僕がこういう実物・立体を作ってる理由として、何かその、そのもの自体を見ることができるとか、触(さわ)れるとか、実際にそれが歩いているところを見られるとかっていうポイントがあって。あとは……(OHMUの前に手を差し出すと、ゆっくりと手の方に向かって歩き出す)。

桐田:わ、可愛い。

杉原:テオ・ヤンセンの作品みたいに、歩いてきてくれる、とか(笑)。僕は以前からテオ・ヤンセンが好きなんですが、『READY TO CRAWL』を初めて見たお客さんからも、やっぱりよく聞かれるんです。「テオ・ヤンセンって知ってますか」って(笑)。

その度、「はい、知ってます。好きです」って(笑)。僕にとっても、やっぱりテオ・ヤンセンの「一個の生態系を作る」みたいな試みは、とても興味深くて。例えば、自分が死んだとしても、自分が作ったその生態系は残っていて、その作品が砂浜の上を歩き続けるというか……。そういう風景が、すごくいいなあ、と。

杉原:あのよくわからない人工物が、その砂浜を歩いている。そんな風景が、残り続ける。もちろんすごく先のことにはなると思うんですけど、例えば僕がテオ・ヤンセンのように大きな機構で動くものを作って、そうした作品たちが一個の生態系として残り続ける、そういう風景というか、なんというか……。

桐田:自分の作り出した3Dプリンターの遺伝子たち、その遺伝子を掛け合わせて生まれた存在たちが、例えば九十九里の海岸を……(笑)。

杉原:歩き続けていたり(笑)。

桐田:そんな風景が自分の死後も、残り続けるかもしれない。

杉原:そう、そこなんですよね。あ、そういえばこの間、八谷さんっていう…。

桐田:ああ! 実物大のメーヴェを作っている方。

杉原:はい、そのメーヴェを作っている人が見に来てくれたんです。このOHMUを見てもらったら、すごく喜んでくれて。「巨大な王蟲を作ろう」って(笑)。

桐田:あっはは!

杉原:「あっ、ぜひ」って(笑)。まだどうなるかわからないですけど、そういう機会があったら、挑戦してみたいですね。

桐田:それ、面白そうですね。その時は例えばナウシカの声優の方に、巨大なOHMUと一緒に歩いていただいたら(笑)。

杉原:映画のシーンも一緒に、再現できますね(笑)。

 

「ものを作ることの喜び」を、大切にしていきたい

桐田:以前、クマ財団のHPに掲載するニュースへのコメントをいただいた時に、「大人も子どもも楽しめる展示です」と書いていましたよね。例えば、子どもたちはこの『READY TO CRAWL』を見て、どんな風に反応してましたか?

杉原:結構、喜んでもらってます。でも子どもはやっぱり、ただ動いているのが楽しいようで(笑)。「なんだこれ?」って、動きを見て喜ぶっていう感じですかね。僕はやっぱり機構が好きなので、「どういう仕組みで動いているんだろう?」みたいなことが好きなんですけど。子どもは、そこまでは多分まだ見ていなくて。

でも、この機構の結果として生まれているこの動きと、その不思議さみたいなところは、感じてくれていると思います。ただやっぱり、機構を見てもらうってところまでは難しくて。

桐田:なるほど。

杉原:本当は、子どももこの機構を真似して何か作ってくれたりしたらいいなと思うんですけど。でもそれは人に言ったら、「いやそれはお前、無茶だろう」みたいな(笑)。「これ、そうそうできないぞ」って言われちゃったんですけど。

でも、ちょっと助けてあげればできそう、ですよね。「この機構を使ったら、こういう動きができますよ」って助けてあげて。子どもから「こういうのやってみたい」ってリクエストがあったら助けてあげつつ、一緒に作るような。

桐田:それは楽しそうです。そういえば先ほど、「僕は機構が好きで」という話もありましたが、いつ頃から好きだったんでしょうか。

杉原:「もの」というか、工作自体が昔から好きでした。例えば小学生の時も、一番好きな教科は図工だったんです。そういう「ものづくりが好き」って気持ちは、ずっとありましたね。あとは、ドラえもんとか好きでした。だから小学校でも、「将来の夢:ドラえもんを作る」みたいなことを書いて(笑)。

その流れで、なんとなく「ものを作りたいな」っていう思いがあって。漠然と機械工学科に進んで。機構を好きになったのはいつなんだろう……あまり覚えてないんですけど。でも、それとは別にテオ・ヤンセンとかは見ていて。ずっと見ていて、「ああ、なんだかいいな、楽しいな」と思っていました。

桐田:そうだったんですね。杉原さんのその、「ものを作りたいな」って思う気持ちの根底には、どんな思いがあるんでしょうか。

杉原:うーん、そうですね……。本当に根底にあるのは、「作ることの喜び」、だと思います。それはこれからも、大切にしたいなって思ってます。この機構も結局、なんでこれを作ってるのかっていえば、自分が作ってるのが楽しいし、自分の思いついたアイデアを形にするのが楽しいからで。だから、一番この機構を見たいのは、自分というか。自分が思いついたものを、動いているところが見たいから作ってる。それで、自分が作ったものを見てくれた人も、喜んでもらえたらいいなって。

桐田:じゃあ、まず自分が思いついたものを一番自分が見たいから作るという、ある種、ものづくりの初期衝動のままに。

杉原:そうですね、初期衝動のままに。やっぱりそこが一番作ってて嬉しいので。

杉原:例えばこの作品は、今回の展示用に作ったんですが。今までの山中研の展示はスタッフ主導でやっていたところを、今回は学生が設営からデザインまでやってみたんです。そうしたら、みんな自分のものを作る時間が全然とれない(笑)。

なので、僕もだいぶ苦しんで(笑)。この作品も、本当に展示の二日前ぐらいに初めて組み上げられたんです。しかも「これ、本当にできるのか?」って、周りからも言われていて。だから実際に組んで、動いて、できたっていう時の喜びはもう、「ああ……俺、天才」みたいな(笑)。

桐田:あっははは!(笑)

杉原:いや、もちろん半分冗談ですけど(笑)。深夜のテンションで作ってる時は、「ああ、俺天才だな……!」って思いながら、すごい一人でこう……悦に入ってました(笑)。

桐田:いや、すごく大事なことだと思います。

 

「自分がしたかったものづくりって、こういうのじゃん」

桐田:現在、山中研究室に所属されていますよね。杉原さんが機械工学から山中研という、デザインやプロトタイピングの領域に行こうと思ったきっかけには、何かあったんですか?

杉原:機械工学科の学部四年生の時に、研究室配属があるんですが、その段階になって、意外と機械工学科でものを作っている研究室が少ないってことに気づいてしまって。

桐田:そうなんですか。

杉原:機械工学科だと、例えば「物体の表面の摩擦がどうなるか」っていうとても基礎的なこととか、「作ったものをどう評価するか」っていう評価について研究していることが多かったんです。だから、メカを実際に作るみたいなことをやってるとこが少なくて。

僕は、エンジンなどのあんまり外から見えないところよりは、実際にものを人が見たり使ったりするところに興味があったので、人間工学的なことをやっている研究室に入ったんです。そこで卒論は、高齢者の方が乗り降りしやすい自動車の内装設計を考えるみたいなことをやって。

桐田:ああ、まさにヒューマン・センタード的な。

杉原:はい。高齢者の方の動きを調べるために、筋電計測をしたり、高齢者の方に車を乗り降りしてもらっているところをひたすらモーションキャプチャーしたり。そうしてずっと高齢者の方の乗り降りを何人も見続けて、「この高齢者の方の動きは、こうだ」と(笑)。

桐田:とっても地道ですね(笑)。

杉原:すごく地道なことをやってたんです(笑)。その卒論がなかなか大変だったので、疲れていた時に--ここは東大のすごくいいところだと思うんですけど、本郷にいたら、いろんな面白い授業とか、すごい方の講演とかがあって。

自分がその授業をとっていなくても、あの人がこの授業で講演に来るから潜って見に行きたいと思ったらできるんですね。それで、ちょうど現代アーティストの鈴木康広さんが授業でいらして。(鈴木さんの作品を、スマホで見せてくれる)

桐田:ああ、この作品! 見たことあります。ファスナーの形の船が、海を通っていくんですよね。

杉原:そうです、そうです。僕は鈴木さんが来る授業を、たまたま聞くことができたんですが、鈴木さんはすごく「見立ての人」なんです。

鈴木さんのアイデアって、本当に子どもの考えみたいに「これがこう見える」っていう見立てから生まれた、すごくシンプルなアイデアをそのまま形にしちゃうんですよね。そのことを授業で聞いたときに、とても感動したんです。なんというか、「すごくみずみずしいな」と思って。

桐田:確かに、とても純粋ですよね。

杉原:純粋ですよね。ファスナーを船にして走らせるっていうのも…とても素直というか。それで、鈴木さんのお話を聞いたときに、本当にその、卒業研究でだいぶカラカラになっていた心に、ちょっとこう……潤いがきて(笑)。「あ、自分がしたかったものづくりってこういうのじゃん」って。思い出した感じがあって。

「ああもう絶対、そういう好きなことができるところに行こう」って、思ったんです。そのときに山中研のことも知って。山中研は毎年展示をやっているんですが、その時に展示を見て「ああ、面白いなあ」って思って。

デザインのことも全く知らなかったですし、実は当時、山中先生のことも知らなかったんですが。知らなかったけど、でも面白いもの作ってるなあって思って。入りたいと思いました(笑)。だから本当に、鈴木康広さんには感謝してるんです。

桐田:なるほど……。鈴木さんとの出会いがなかったら、まだ筋電を測っていたかもしれない(笑)。そう考えると「出会いありき」、ですね。

杉原:本当、そうですね。鈴木康広さんにも感謝ですし、山中研に入って、たまたまこの3Dプリンターという題材とも出会えて(笑)。それで面白いものを作ることもできたので。いろいろそういう偶然があって今、ここにいるという感じです。

 

(この後、展示されている全ての作品を、杉原さんにご紹介いただきました。)

 

桐田:こういう展覧会は一年に一回やっているんですよね。

杉原:そうですね。だいたい一年に一回です。

桐田:また杉原さんの方で、イベントなどあったらぜひ見に来たいです。今後ともどうぞ、よろしくお願いします。本日は本当に、ありがとうございました。

杉原:いえ、すごく興味を持ってもらえて、説明していて楽しかったです(笑)。

桐田:それはよかったです(笑)。あ、じゃあ最後、写真よろしいですか?

杉原:あ、はい。もちろんです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。クマ財団では引き続き、奨学生の皆さんのインタビューを定期的に掲載してまいります。どうぞ、お楽しみに。

 

Images by 杉原 寛

Interview & writing by 桐田 敬介