インタビュー
【クリエイター奨学金(AI)「奨学生の声」】vol.6 絵画 / 山縣 瑠衣
クリエイター奨学金第5期生
1997年生まれ。 自らの皮膚に対する意識や視座を制作の基調に置いている。近作では、衛星地図のような垂直の眺めにおける風景の経験とそのパースペクティブを捉え、既に地図の中に捕らえられた表面=自己という状況の中で、「風景画」の主題に取り組む。
活動内容を教えてください
衛星画像に写る特定の地表の模様を収集する「地表の掻き傷」(2021年)というシリーズをはじめとした、垂直に眺めた風景と、その体験について関心を持っています。
衛星、航空機、ドローンなどの「眺めを可能にする技術」が「眺める主体を見ることを可能にする」という特徴を風景表現の問題として捉えたく思い、特に風景画という主題において表現できないかと考えています。
また、絵画制作の視点そのものやプロセス、使う道具やメディア環境について考察することが、インスタレーションや映像作品としても展開する理由になっています。
クリエイター奨学金に応募しようと思ったきっかけは?
私は2021年の東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻2年次のとき採択していただいたのですが、2020年のコロナ禍で一人で活動するのは難しいと思い、複数人でアートスペースを運営していた時期に応募を考えていました。ただ、アートスペースの運営は自分がやりたいことなのか、組織のためにするべきことなのか、その境目が曖昧になっていたタイミングでもあって。
今後を考えていく上で、自分を主語にして語れるキャリアを自分で選択しなければという気持ちが大きくなり、自分のことに集中する時間や金銭のリソースを確保するためにクリエイター奨学金に応募しました。
奨学金は何に使いましたか?
主に、修了制作(材料、機材購入、リサーチ、人件費)にあてました。
クリエイター奨学金の最終面接では、こちらの『動物性絵画、植物性絵画』の材料に着目した作品を修了展に向けて制作するとお話ししたのですが、そこからプランを大幅に変え「地表の掻き傷」にしようと考え直しました。この時の制作の分岐や思いつきに、自分も流されてワクワクしていたし、そこについて来れるお金があることはとても大事なことだったと思います。
また、採択前はお金がないことで、アウトプットが手ぐせになってしまうことへの懸念がありました。
お金をかけてインスタレーションを組めば良い作品になるわけではないですが、コンセプトに対して色々な選択肢がある中で、「絵が描けてしまうから描いてしまう」という状態を自覚していました。きっかけはこういった経済的な面からですが、そこから身体を持って描くというテーマについてもより考えるようになりました。
クリエイター奨学金に採択されて良かったことはありますか?
修了制作を起点に興味が広がり、更なる展開を生んでいけたこと、そして学生のうちに今の制作をドライブさせるきっかけを作れたことが良かったです。
傑作を作って終わり、ではなく継続できることが自分にとっては価値があります。
同期のクリエイターであるMaya Erin MasudaさんがKUMA EXHIBITION 2022で作品を見てくれたことをきっかけに、Masudaさんがキュレーションする展覧会「Ground Zero」(2023年/京都芸術センター)に参加させていただきました。
クリエイター同士の繋がりにも作家活動を継続する契機があり、とてもありがたかったです。
あとは、クリエイター奨学金の卒業後の支援としてある活動支援事業にも2023年に採択していただき、制作時に必要な機材(ドローン)を購入することができました。作品の質を高める以上に、作家のスタンスとして必要であろう道具をしっかりと揃えることができました。
最後に、応募者に一言!
応募という形だとしても、「自分はどういうことを行っているか?」ということに言葉を尽くしてみる経験は大事だと思います。
私自身、表現していることと実現したいことの間にズレが生まれて作品制作の中で混乱することがありました。それは、大学の絵画科という限定的な価値観のもとでしか、制作を行っていないことが原因だったのではないかと思っています。
クマ財団に入ってジャンルの異なるクリエイターと接することで、自分が納得いくいかないに関わらず、様々な価値観の中でやっていかなければならないということを突きつけられたように思います。自分は、創作意欲を傷つけないことより、そういう外的な要因のなかで応答するべきことを見出したいと思いました。そこで自分の言葉がわかる瞬間があるかもしれません。
「クリエイター奨学金(AI)」第8期生の応募締め切りは
2024年3月24日(日) 23:59まで!
詳細は以下をご確認ください。