インタビュー
「理論上最強の、セキュリティAIの実装へ」伊東道明さんインタビュー
クマ財団の奨学生の取り組みを紹介し、クリエイターとしての思いや素顔に迫るインタビューシリーズ。前回は『動きをうごかす』展を通じて、クマ財団2期生の杉原 寛さんの作品と、そのクリエイティブへの思いについて伺うことができました。
今回ご登場いただくのは、2018年3月に国際学会でBest Paper Awardも受賞された、クマ財団2期生の伊東道明さんです。彼のAI・アプリクリエイターとしての活動と、2019年3月に開催予定のKUMA EXHIBITIONへ向けて制作している作品について、お話しいただきました。聞き手は、財団職員の桐田です。
セキュリティ×人工知能の実装へ
【伊東 道明(いとう みちあき)】
1995年生まれ。法政大学大学院理工学研究科在籍。人工知能/サイバーセキュリティを専門に、インフラやアプリ製作など幅広く手がけている。
IEEE 14th CSPA Best Paper Award。セキュリティ・キャンプアワード2018 最優秀賞。IT団体「Cpaw」代表。
--国際学会での発表、お疲れ様でした。今日はお時間いただき、ありがとうございます。
伊東:いえいえ、こちらこそありがとうございます。
--クマ財団や奨学生の方に関心を持たれている方々に向けて、改めて伊東さんの活動内容をできるだけわかりやすくお伝えしたいと思っています。今は、どんな作品を制作されているんですか?
伊東:今作っているのは、WAF(ワフ)と呼ばれている、ウェブアプリを守るセキュリティソフトです。すでに出回っている製品はあるんですけど、現状では「セキュリテイに新たな弱点、脆弱性が生まれたので対策して下さい」っていうときに、エンジニアが日々対応して微調整を繰り返して、使っているんですね。
そこに僕が作っているAI技術を用いたWAFを用いると、そのソフトのアップデート作業とか、人が頑張って調整しなきゃいけない作業がすごく楽になるんです。これができれば、僕たちエンジニアも他のことに労力を避けるんじゃないかと思っていて。
「MUUR」世界最高精度を達成した、深層学習手法を用いたホワイトリスト方式に近いWeb Application Firewall。元となる技術論文は、IEEE CSPA2018にてBest Paper Awardを受賞している。
--その製品の元になった、理論上最強のセキュリティAIに関する論文で、アワードを受賞されたんですよね。そうした研究に基づいた製品を作る中で、嬉しいと感じるところや難しいなと感じるところは、どういったところなんでしょうか。
伊東:そうですね、やっぱり製品化していく中で、実装して速度が速くなったりとか、思い描いていた機能がスムーズに実装できて動くと、楽しいですね。「ああ、できたぞ」って。
難しいところは、ちょうど今、「研究では出来るけど、お客様にこれをお願いするのはちょっと……」っていうところがあって、行き詰まってるんですよね。例えば設定を入力するときに、お客様にお願いするにはちょっとハードルが高いものがあるなって。どうしようかな、っていうところで今、悩んでいて。
--研究を製品化まで持っていくところに、ハードルがあるんですね。それは越えていきたいなと。
伊東:はい。理論を実装することは僕の夢というか。アカデミックな論文の中には優れた理論がたくさんあるんですが、実際に運用するところまで至っていないものがまだ多くて。そうした理論を実装して世の中に出すことが、一人のエンジニア、クリエイターとして僕がやりたいことなんです。製品を有料化するかどうかは置いておいて、ものを形にして、実際に使ってもらいたいっていう思いで今、作っています。
アートとテクノロジーのコラボレーション
--今はクマ財団合宿も控えていますが、この1年間でやってみたいということはありますか?
伊東:そうですね、クマ財団の奨学生には本当にいろんな方がいらっしゃるので、コラボレーションをやってみたいなという思いがありますね。アート系の人が結構多いので、今も芸大の方と作っている「絵の自動生成」の作品のように、何かできたらいいなって。
左のロボットの絵を元に、左の新しい形と色のロボット絵を生成。菅田 珠希さんと共同開発。
--その芸大の方とも、クマ財団1期募集時のご縁で出会ったそうで、財団職員として嬉しかったです。アート系の学生さんと出会ってみて、どんな印象を持たれましたか?
伊東:完全に、僕の知らない世界の人たちって印象でしたね。今までずっとパソコンと向き合って、プログラム書いて……っていう日々だったので(笑)。アートの人たちと出会えたことで、こういう世界があるんだなあっていうことを知ることができました。そうした気づきから、美術館に行ってみようかなって思うようにもなって。ちょうどこの間も、実際に行ってきました。
--そんな変化もあったんですね。コラボレーションや出会いを通して、自分の全く知らない世界にも行ってみようと思えるような、動機をもらえたという感じでしょうか。
伊東:そうですね。しかもそっちの世界で、僕の強みが活かせるところが結構あるぞっていう風に感じたので。これからもいろいろ試してみたいなっていう思いが、増えていきました。
KUMA EXHIBITIONでは、情報の攻防を可視化してみたい
--そういえば面接の時、KUMA EXHIBITIONでは「情報を可視化する」作品を作ってみたいと仰っていましたね。
伊東:はい、ちょうど今作っています。まだ全然作り途中で、イメージが微妙なんですが。見た目は、こんな感じです。
伊東:こんな風に、光がいろんな場所から、いろんな場所へと次々に流れていく感じです。例えば今この光が流れて来ている場所は日本で、地図的には東京なんですけど。この東京に特定のサーバーがあったとして、そこにいろんな国からデータのまとまり、パケットが来ている様子を示しています。それで、この光がサーバーへの「攻撃」(ハッキング)なんです。これで今、東京のサーバーに攻撃が来てるよってわかる。
でもこれはまだ開発途中なので、この状態からいろんな機能を付け加えたいと思っています。今の段階だと地球儀だけですが、ここからさらに視点を加えたり、変えたりできるようにしていきたいなって。
--なるほど。確かに、世界でのハッキングが世界地図上で可視化されているサイトや地球儀上で可視化されているサイトは見たことがあるんですが、そうしたものにさらに別の視点を入れていきたいと。
伊東:はい。例えば視点を変えたら、地図上にあるサーバーが置いてあって、そのサーバーにどんな「攻撃」が来ていて、それを防ぐために周りにどんな「壁」(セキュリティ)が出来ているかが見えたりとか。
今どの壁にどういう攻撃が来ていて、種類判別で可視化するなど、そういう、別の視点も行き来できるような可視化をしていきたいなあと思っています。また、このプログラムは僕が作ったシステムにとって最適化するんじゃなくて、いろんなところで再利用できるようにしていきたいなとも思っていて。
例えばどこかのセキュリティなどの大会で、実際に大会で使っているサーバーをウェブ上で可視化して。一人ひとりの参加者が、どういう攻防をしているかを見えるようにできたらって。
--なるほど! サーバー間でどういう情報のやりとりというか、実際の攻防が起きているかも可視化してみたい、っていうことでしょうか。
伊東:そうです、そうです。ただ、僕はデザイナーではないので、どういう感じにデザインしたらそれが綺麗に見えるかなとか、そういうところは今悩み中です(笑)。
--1期生や2期生の中にも、こうした情報のデザインに関心がある学生さんがいらっしゃると思うので、そこでコラボレーションが起きたら一層面白そうですね。
伊東:そう思います。合宿とかでお話出来たら、嬉しいなと。
<編集後記>
伊東さんは、今回お話いただいたセキュリティAIの研究・実装以外にも、エンジニアの壁を取り払うIT団体「Cpaw」のファウンダーとしてなど、様々な活動をされています。
その多彩な活動をする背景には、プログラミングでできる社会問題の解決、その速度を上げていきたいという思いがあることも、話してくださいました。
様々な分野の壁を取り払いながら、セキュリティAIの分野では誰にも負けたくないという強い自負心もある伊東さん。今後の活躍が、ますます楽しみになりました。
クマ財団ニュースでは、今後も奨学生へのインタビューを定期的に掲載していきます。次回も、お楽しみに!
Image by 伊東 道明・菅田 珠希
Photo and writing by 桐田 敬介