レポート

落合安奈さん、ベトナム・ホイアンのアーティストレジデンスをご報告!

1〜2期生のスクリプカリウ落合 安奈さんが、2019年に夏に参加したアーティストレジデンス。

ベトナム・ホイアンへの滞在について、レポートにまとめていただきました。

こちらに全文を紹介いたします。

 

ベトナム・ホイアンの 「residence project 」を経て

現地に着くと、とにかく歩いて、「ホイアンのまち」の距離や温度や音や景色を身体でスキャンして染み込ませることを徹底しました。ホイアンは日本に比べて日差しが強く、冷房があるのはホテルの寝室と一部の店だけで、室内にいても野外と地続きで ある感覚が強いです。またとても暑いので、長いお昼休み(お昼寝)の時間があって店が閉まります。激しいスコールがよくあ り、その後は少し過ごしやすい気温になります。

文化遺産の展覧会会場から見える、スコールの降る旧市街

旧市街地、陶芸の村、木彫りの村、水上人形劇と、一通り気になっていたところを廻り終わった後、ふとした思いつきで郊外 の日本人墓地に足を運んでみることにしました。

ネットには限られた情報しかなく、道に迷った話や、案内人からお金をぼっ たくられた話などが並び、少し覚悟を決めて炎天下の道を1時間歩きました。 すると、道の両側に建っていた家や店が急になくなり、視界いっぱいに眩しい緑が広がりました。広大な土地の一面が田んぼ になっていて、風に揺れていました。

そこから少し行くと、お墓へと続く、人が一人ギリギリ通れるほどの細い畦道が現れました。一歩一歩進むと、両脇から姿の見えない虫や魚、鳥たちが慌てて逃げて行く音があちこちで鳴りました。372年前の日本 人商人のお墓が、たくさんの生命と緑、ホイアンの人々の営みに囲まれていることに、心が震えました。
その日から、毎日お参りに通うようになりました。

お墓を囲む、緑と牛飼い

昨年、日本である人のお家にお邪魔した際、日課として先祖へのお参りをしているのを目にしました。

その人から、あなたもお家でやってみたらと言われました。
その出来事と、「土地と人の結びつき」という自身の近年の研究テーマ、
生まれた国ではない土地に骨を埋めた人々のことは、自然とリンクしていきました。

お墓の周りで、毎日様々な出会いがありました。
ある時は、夕涼みに来た子供を抱えたお母さんと色々お話ししたり、またある時は、
夕暮れ時に畑で大きな炎を上げて何かを燃やしている年配の男性に話しかけ、
並んで地面に座って炎が小さくなるまでぼおっと眺めたり、
お墓の側の飲食店の人と親しくなって生まれたばかりの赤ちゃんを抱かせてもらいながら、
彼の祖父から昔聞いたお墓についての物語を聞かせてもらったり、あたたかい時間を過ごしました。


言葉や文化などの壁から、何をするにも、日本にいるときの3倍以上の時間がかかります。

日本人墓地のリサーチをしていると、あるところでタッチしたい情報になかなか辿り着けず行き詰まりました。

それでもひたすらお参りに出かけていると、ある日、おじいさんがお墓の道の入り又にいました。軽く挨拶をしてお参りを済 ませ、去ろうとした時、勇気を出して話しかけてみました。

彼はお墓を修理しに来た人で、誰に雇われているのかこちらが尋 ねると、ずっと求めていた情報を教えてもらうことができました。後日その目的地へ向かうと、言葉の壁が邪魔をして門前払 いをされました。落胆したのですが、再度アプローチを変えて出直したところ、なんと日本人の職員の方を紹介していただけ ることになりました。

ホイアンは観光客でさえ日本人の割合が少ない印象です。彼女はいきなりの訪問にも関わらず、様々な ところに掛け合ってくれて資料を見せてくださりました。そして展覧会にもお知り合いの方々と共に足を運んでくれて、その お知り合いの方が別の人に私の活動を紹介してくれるという、たくさんの人と人のつながりに恵まれたレジデンスとなりまし た。

普段は踏みとどまってしまうコミュニケーションが、作品制作を通して自然とできるようになっていきました。
多くの人々のサポートと出会いのおかげで、作品が生まれ、展示することができました。昼夜問わず、
同世代の日本とベトナムのアーティストとともに美術や生活、社会のことまで様々なことを語り明かしたことも
今回のレジデンスならではの経験でした。

ホイアンは魅力の尽きない土地なので、近いうちに再訪したいです。
また今回の作品は、所縁のある日本の長崎でも引き続きリサーチしていきたいと思います。

展示作品

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北東10° スクリプカリウ落合 安奈

インスタレーション 素材:カーテン、北東10°を向いた古い椅子、映像、サウンド 、風 2019

ホイアンで、ある日本人の墓と出会った。 彼は、かつて貿易商としてこの地にやってきた人物であった。 372年前からここに眠る彼の墓は、 母国の方角、北東10°を向いている。 私は、その方角へ向かって歩いてみることにした。 足元の大地が途切れた時、目の前には、海が広がっていた。
北東10°から吹く風にのって、無数の船が海原を渡ってこの地へたどり着き、 互いの大地で生成された物や文化を交換してきた。 この場所と遠い向こうの大地は、横たわる海によって今も結ばれている。

【information/ 詳細 】————————————————
‪◾️artist in residence/ ベトナム本滞在期間‬
‪7/23 ~ 8/11

‪◾️group exhibition「Bridge」/ 展覧会「Bridge」開催期間‬
‪8/9 ~ 8/11

◾️レジデンスプロジェクト運営メンバー:渡邉 昌平、戸田 尚克、古谷 由布

◾️参加アーティスト:うら あやか、スクリプカリウ落合 安奈、Ha Hoai Do、Hoa Nu Nguyen、Le Tuan Ry

◾️subsidy/ ‪助成:野村財団

◾️cooperation/ 協力:Nguyen Hoang Anh、Stoney Hanh、The Center for Sports and Culture of Hoi An、UuDam Tran Nguyen、友田吉則、安永沙羅ジューストー

◾️sponsor/ 他後援:大巻伸嗣

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