インタビュー

地に足がついた 物で語るアート。 〜4期生インタビュー Vol.2 東 弘一郎さん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

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4期生41名のインタビュー、始めます!

東 弘一郎

 

1998年東京都生まれ。
美術家。
東京藝術大学 大学院 美術研究科 先端芸術専攻 在籍。
ワークショップ団体「アートスタジオ旭丘」代表。
自転車と金属を組み合わせて、主に動く立体作品を制作。
宮田亮平賞受賞。
コミテコルベールアワード2018/2019連続入選。
CAF賞2019ファイナリスト。
東弘一郎ホームページ(http://koichiro-azuma.com/

https://kuma-foundation.org/student/koichiro-azuma/

 

 

放置自転車の「時間」と「記憶」をアートで動かす

 

――東さんの作品は、自転車を使った大きな作品が多く、ひと目でわかるインパクトがありますね。

 

 「物で語れ」という思いが僕の中にあるんです。
今の時代はパソコンの中にアーカイブ化されていく作品が増えていて、物体として訴えかえてくる作品がすごく少なくなっていると思うんです。僕はせっかく作品を展示するなら、机の上に並べられるような小さなものじゃなくて、ドカンと一発、大きな物で語りたい。それは常に意識していることですね。

 

――なぜ、自転車をモチーフとした作品を創るようになったんですか?

 

 初めて作品を創ったのは、美術予備校に通いだした高3のときなんですが、偶然、その作品も自転車を使っていました。ただし、そのときのメインは白熱電球で、自転車は自分で発電するための装置として使っていたんですよね。
コンセントに差せば白熱電球は点くわけですけど、その瞬間、自分が関与しない現象になってしまう。それが納得できなくて、白熱電球が灯るまでの過程に介入したかったんです。それ以来、気づけばずっと自転車を使ってますね(笑)。

 

――自転車のどんなところに惹かれるんでしょう?

 

 装置として自転車が好きですね。チェーンとペダルという明治時代から変わらない単純な仕組みで、進歩してギアが付いても根本的な仕組みは同じ。そのシンプルさが、スゴイなあって(笑)。
中学時代からロードバイクに乗っていたんですけど、速いしカッコイイし、自分の機能拡張みたいな感じで、強くなったような気がする。自分の身近にあるスゴイ装置が自転車だったわけです。

 

 

――代表作の『廻転する不在』をはじめ、新作の『自連車』でも放置自転車を使っていますが、あえて古い自転車を使う理由は?

 

 大学のキャンパスがある茨城県取手市に住んでいるんですけど、もともと取手は「自転車の街」だったそうです。でも今は、街であまり自転車を見かけない。取手がベッドタウンとして栄えた頃は、大勢の人が駅まで自転車通勤をしていましたが、高齢化してみんな乗らなくなったようなんです。
土地も広いので、捨てるわけでもなく家に自転車を置きっぱなしにしている。そんな自転車が家に3、4台あったりして、僕は「家庭内放置自転車」と呼んでいるんです。「自転車の街ってこういうことなの?」という疑問がきっかけで、家庭内放置自転車を譲ってもらって作品を創るようになりましたね。

2020立体・パフォーマンス「廻転する不在」 ※画像クリックで、作品紹介動画へ

 

――忘れ去られた自転車が、東さんの手によって、まったく違う装置として生まれ変わるような趣がありますね。

 

 捨てられた瞬間に止まってしまった時間や記憶を、もう一度、作品として動かせないかと考えています。
放置自転車が外に野ざらしになっていると、物悲しい感じがしますよね。それをあえてきらびやかな銀座や新宿の展示会場に置く。こういうママチャリって誰でも見たことがあるものだから、鑑賞者の記憶と勝手にリンクして、感情に訴えかけるような物語的な作品が生み出せるんじゃないかって思ってます。それであえて取手のステッカーや汚れを取らずに残しているんですよね。

 

 

 

泥臭いまでに“物理的なものづくり”を大事にしたい

 

――町工場で作品を制作していますが、金属加工という作業を通して見えてきたことはありますか?

 

 もともと実家の和室を養生して作業していたんですが、金属を扱うようになってから大学の金属加工室に通いはじめたんです。やることがなくても、溶接の練習とかしていると、遊びとして楽しいんですよね(笑)。
それまでは、物を置けば作品になると思っていたんですが、僕が創りたいのはそういうものじゃなく、手の作業を通じて時間をかけて創るものが、自分にとっての作品だと気づきましたね。

 

――『自転転転転転車』や『■転車』など自転車のシルエットをモチーフにした作品もありますが、コンセプトを教えてください。

 

 『自転転転転転車』は、別の自転車を切り取ってつなげたわけではなく、1台の自転車から型を取って、アルミを流し込んで鋳造しています。遠目に見るとコピペしたみたいだけど、よくよく見ると、手垢のついたゴリゴリの物体なんですよね。
『■転車』も同様に遠目に見るとモザイクみたいですが、実際はキューブで作られていて、それぞれ鉄とゴムのキューブを使って素材も合っているんです。

2018立体「自転転転転転車」

 

2018立体「■転車」

 

――デジタルで表現できてしまうところを、あえて手間のかかる物質的な表現をしているわけですね。

 

 今はみんなARとかVRを使って表現しがちじゃないですか。新しいものを追いかけるのはいいんですけど、僕たちが生きているのはリアルな世界なのに、デジタルな世界で出来たものに満足するみたいな風潮が、僕にはちょっと違和感がある。
物にしても、3Dプリンターで出力すれば即座に作れてしまう時代ですけど、自分の手を動かしていないのに「俺が作った」と言っている気がして、納得できないんです。
やっぱり自分は物が出来るまでの過程に、泥臭くベタベタ介入していたい。1ミリ削るにも自分の手で削る。それが楽しいし、そうやって創るから愛着も湧く。自分の手を通じて創られたものにしか、リアリティを感じられないんです。

 

――作品を通して、訴えかけたいメッセージはありますか?

 

 展示場所や作品によっても変わってくるんですけど、新作の『自連車』に関しては、「地に足をつけない生活」がコンセプトです。
自転車って本来、前に進む乗り物ですが、この作品ではその機能を剥奪して、車輪がいっぱい回っているんだけど、空転している。
新型コロナウイルスの影響でリモートワークがもてはやされてますけど、僕はどこか胡散くさいと思っているんです。あたかも当然のことのようにみんな順応しているけど、地に足がついていない感じがして、実は空回りしてるんじゃないかって……。そうした違和感をこの作品で表現したつもりです。

2020立体「自連車」 ※画像クリックで、作品紹介動画へ

 

――東さんが自転車や手作業にこだわるのも「地に足がついている」というリアリティを大事にしているからかもしれないですね。

 

 そうですね。僕がVRやARが好きじゃないのも、脳だけで体験しているような感覚で、地に足がついていない気がするからなんでしょうね。遠くに行くとき、飛行機で行くより車で行くほうが好きなのも、同じだと思います。飛行機って時空間ワープみたいな感じだけど、道路を走って行くと地名がどんどん変わっていく、その過程にリアルを感じるんです。
今後どんどん技術が進歩して、手を動かさずに頭だけでモノが作れてしまう時代になっていくかもしれないですけど、自分はどんなことがあっても手を動かし続けたいし、アーティストとして物理的なものづくりを大事にしていきたいと思ってます。

 

――本日はありがとうございました!

 

新作の「自連車」と東さん。神奈川県の鉄工所にて。

 

東 弘一郎 information

■東京藝術大学大学院 先端芸術表現専攻修士1年入学展
INTRODUCTION EXHIBITION2020 on the web.
http://ima.fa.geidai.ac.jp/?p=1515
※2021月1月26日迄 オンライン展示中

■六本木アートナイト2020
https://www.roppongiartnight.com/2020/
※新型コロナウイルスの影響により開催未定

■LUMINE meets ART AWARD 2019-2020
作品展示:ルミネ新宿
https://www.lumine.ne.jp/lmap/post/LMAA/20191010/award2019-2020/
※新型コロナウイルスの影響により開催未定

 

 

Text/Photo by 大寺明

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