インタビュー

蝉で音楽を奏で、ゴキブリを美に変換するアートを通して宇宙とつながる。〜4期生インタビュー Vol.6 佃優河さん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

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4期生41名のインタビュー、始めます!

佃 優河

 

1999年福岡県生まれ。
筑波大学情報学群 情報メディア創成学類在学中。
落合陽一氏のデジタルネイチャー研究室に参加。
生物とコンピュータ、人間との関係性(インタラクション)を追求する『BioPunk』という世界観を掲げ、コンピュータを生物に用いた様々な作品を制作。「COSMETIC ROACH」がCREATIVE HACK AWARD2019のファイナリストにノミネート。
OFFICIALSITE:https://yuga-tsukuda.amebaownd.com

https://kuma-foundation.org/student/yuga-tsukuda/

 

 

 

生物とコンピュータが融合するBioPunkな世界

――生物を電子制御するというアート作品には衝撃を受けました。生物学の要素も強いですが、アートの道に進んだきっかけを教えてください。

 

 高1のときにテレビで落合陽一さんを知って、著書を読んだのがきっかけでした。高校時代は生物系の部活で研究していたんですが、アートと研究が両立できるということを知って、落合陽一さん主宰のデジタルネイチャー研究室がある筑波大学を志望したんです。

 

――虫とコンピュータを接続するという斬新な発想のきっかけは?

 

 デジタルネイチャー研究室に入ったとき、まず研究テーマを決めるのですが、最初は新しいディスプレイを研究しようと考えていました。でも、自分の中でどうもピンとこなくて、小さい頃に興味があったことを思い出してみたんです。それでムシキングを集めていたことや虫採りが好きだったことに思いあたって、虫とコンピュータを掛け合わせて何かできないか?と思ったのが最初でした。

先行研究を調べたところ、ゴキブリに電気を流して制御するという研究があったので、それを真似して研究していくうちに、今の表現に至ったという感じですね。

 

――「BioPunk」という世界観を掲げていますが、どんな世界観なんでしょうか?

 

 ひと言で言うと、生物とコンピュータを掛け合わせた世界観です。僕が研究している分野は、ヒューマン・コンピュータ・インタラクションという人間とコンピュータの関係性について研究する分野なんですが、その領域にプラスαとして生物を組み込み、人間×生物×コンピュータ、それぞれの関係性を考えていくという世界観でやってます。

 

――作品「蝉-Canon」は、本当にカノンの曲に聴こえることに驚きました。どういう仕組みなんですか?

 

 下敷きをしならせるとペコッっと音がしますよね。それと同じように、セミの体内に湾曲した板みたいなものがあって、それを筋肉で引っ張ることで音が鳴ります。圧電スピーカーとほぼ同じ仕組みなので、電気の周波数を制御することで音のキーを操ることができます。わりとドンピシャの音を出してくれるので、どんな曲でも奏でられます。

「蝉canon」蝉に電気刺激を与え蝉の鳴き声を制御する作品。特定の信号をもった電気を蝉の発音筋に流すことで、蝉に強制的に鳴き声を出させる。

 

――まさに異質の発想という印象ですが、佃さん独自のアイデアなんですか?

 

 はい。これまでも蝉に電気を流して音を出すという先行研究は行われていたんですが、それは解剖学的な見地から蝉が鳴く仕組みを調べることが目的で、蝉で音楽を奏でるといったことは、誰もやってないと思います。

僕の研究は、生物を電気信号で制御するというもので、どの箇所にどれくらい刺激を与えれば、どういう働きをするということを定量化していく研究なんですが、定量化したものをどのようなアプリケーションにしていくか?という分野は先人が少ないので、やること全部が新しいことになる。そのぶん大変ですけど、ワクワクします。そして最終的なアウトプットがアートになっているかたちですね。

 

――自分の仮説どおりカノンが奏でられたときは、どんな気分でしたか?

 

 宇宙とつながっているような感覚を覚えましたね(笑)。今、目の前で起きている現象とは別の理が違う次元で動いていて、それに触れることができたような気分でした。

 

 

虫の世界を通して、宇宙の“理”に触れる感覚

 

――『COSMETIC ROACH』ではゴキブリがモチーフですね。この作品で表現しようとしたものとは?

 

 この作品から映像作品も同時に創り始めたんですが、その動画を人に見せると指摘される箇所が多くて、美しいって何なんだろう?と疑問を感じるようになったんです。

僕はわりとゴキブリがかわいくて好きだけど、ほとんどの人は「キモい」と言う。シェイクスピアの『マクベス』に「きれいは汚い、汚いはきれい」という台詞がありますが、結局は人間の主観にすぎないということをこの作品で問いかけたいと思いました。

――次作の『COSM(ET)IC ROACH』もゴキブリを美に変換する作品ですが、「COSMIC(宇宙的)」となっているのは、どういう意味が込められているんでしょうか?

 

 『COSMETIC ROACH』は主観に問いかけることで社会批評性を孕んだ作品でしたが、ゴキブリにとっては何の意味も持たないですよね。ゴキブリはただ存在しているだけで、きれいも汚いもない。そもそもアートと定義した時点で、必ず社会との接点を持ってしまうものかもしれないけど、ゴキブリのように、ただ存在するだけの社会批評性を孕まないアートというものを創れないだろうかと考えたんです。

――新作『サイケデリックエクソシズム』は、ゴキブリをタバコのように吸うという作品ですが、この作品で訴えたかったことは?

 

 昆虫食に対するアンチテーゼという側面があります。昆虫食は注目されやすいですが、本当に美味しいコオロギラーメンなどは別として、「昆虫を食べるより豚肉を食べたほうが美味しい」と誰もが思っているはずです。そこで、なぜわざわざゴキブリを食べる必要があるのかを考えていくと、ゴキブリの持つ良さを活かさなければいけないと思ったんです。

それでゴキブリが持つ独特の香りを楽しもうということで、ゴキブリをタバコのように吸うという作品を創ってみました。そうすると、ゴキブリが持つエグみが、マイルドな甘みや香ばしさとして楽しめたんですよね。僕は味が一番重要だと思っていたので、制作中は毎日吸って味をたしかめてましたね(笑)。

「サイケデリックエクソシズム」ゴキブリの持つ香りをタバコのように楽しむ。

 

――ゴキブリの良さを伝えたいという使命感がある?

 

 使命感みたいなものは、まったくないです。僕は他人のために創っているという感覚がなくて、自分が見たことがないものを見たくて作品を創っています。

今の時代は、ネットで調べればだいたいのことはわかるという便利な時代ですけど、逆に言うと、自分で試行錯誤して新しいものを発見するということが少ない時代だと思うんです。だから、見たことがないものを自分で創るというワクワク感が原動力になっていると思いますね。

 

――「宇宙とつながる感覚」と話されていましたが、どんな宇宙観を持っていますか?

 

 虫を見ていると、人間とは違う“理”に生きている感覚があるんです。僕はクトゥルフ神話などのコズミックホラーに影響を受けているんですが、虫はその世界観につながる鍵となる存在なんじゃないかって感じます。そこには人間には理解できない上位者の理があって、虫がそれを理解する手がかりになるんじゃないかって勝手に妄想してますね(笑)。

 

――佃さんにとってアート制作は、宇宙の上位者とコンタクトを取っているような感覚?

 

 まさにそうですね。その感覚が得られたときは、オレ、理がわかったかも……と感じることがあって、第三の目が開いたような昂揚感がある(笑)。それを感じるために制作をしているので、それが満たされていない作品というのは、僕にとっては作品ですらないという感覚なんです。

 

――佃さんが思い描くBioPunkな未来像を教えてください。

 

 完全に僕の欲求ですけど、秋葉原でゴキブリが商品として販売されているような時代が来ると面白いと思います(笑)。電子部品の工作用にゴキブリを買ったり、遺伝子組み換えされたゴキブリを買うような未来が実現したら、それこそBioPunkな世界観だと思いますね。

 

――本日はありがとうございました!

新型コロナウィルス感染防止のため、オンラインにて取材。

 

 

Text by 大寺明

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