KUMA FOUNDATION クマ財団

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クリエイター奨学金は、学生クリエイターの育成を目的とした、給付型奨学金です。

ニュース

川端 健太2020.12.11

人と人の間にある現代特有の「フィルター」をテーマにリアリズムを追求。〜4期生インタビュー Vol.19 川端健太さん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

>>> 4期生のインタビューについての記事はこちらから。
4期生41名のインタビュー、始めます!

 

 

川端 健太

1994年埼玉県生まれ。
東京藝術大学大学院 油画技法材料研究室在籍。
現代的な視覚体験をテーマに絵画、彫刻を制作している。
同大学美術学部油画首席卒。
O氏記念奨学金受領。
卒業制作作品、東京芸術大学大学美術館蔵。
藝大.茨大.筑波大卒業修了制作選抜展2019選出。

https://kuma-foundation.org/student/kenta-kawabata/

 

 

ポートレートを4年間描き続けたことで、見えてきたもの

 

――リアリズムを追求されているようですが、写実的な表現ともまた違う印象を受けます。どのようなスタンスで作品に取り組んでいますか?

 

川端 リアルに描きたいというより、綺麗なものの中にある醜いところや目を背けたくなるもの、表裏一体のものを全部ひとつの表現として描きたいと思っています。リアリズムの手法を用いていますが、それとは別に新しい表現にも挑戦しています。「続けること」と「挑戦すること」の2つの軸で考えていて、最近ではシリコン彫刻を制作したりもしています。今後70代80代まで作家活動を続けることができたとして、今の20代の作品は初期のシリーズというイメージで捉えているので、これからどんなふうに表現が変わっていくのか自分でもすごく楽しみです。いつか巨大なポートレートが何十枚か描き溜まったとき、まとめて発表できたらいいなとも考えています。

アトリエには、今まで制作した作品が所狭しと並んでいる。

 

――素朴な疑問なんですが、こうした絵を描ける人は、訓練の賜物なのか、それとも子供の頃から空間認識能力のようなものが長けていたりするんでしょうか?

 

川端 僕の場合で言うと、絵の才能はぜんぜんない方だと思っていて、ただ好きではあったんですよね。絵を学びはじめたのも高校3年生からと遅く、それまでずっとバスケットボールをやっていました。美術よりバスケをやっていた期間の方が長いくらいなんです。

高3の夏に部活を引退してから受験を考えたんですが、なんとなく美術が好きというくらいの動機で美術予備校に入って、絵を描くのが好きではあったけど、得意というほどでもない。それに比べ、周りの生徒はすごい絵を描いているわけです。絵をはじめたのも遅かったし、技術も足りないというコンプレックスが強くあって、たぶんそれが今も描き続けている動機になっていると思います。

 

――それは驚きです。その状態から東京藝大の油画を主席で卒業していますが、どんな4年間を過ごしましたか?

 

川端 受験を終えて好きに描けるようになったら、迷わず描きたい絵のイメージがありました。それが人物や風景の具象表現で、学部の4年間は鉛筆を使ってポートレートを描き続けてきました。ひとつの表現をベースにすることで、自分の考えや言葉が整理できるようになったし、そこから派生して新たにやりたいことが出てきたので、その4年間は僕にとってすごく大切だったと思います。1年生のときからなんとなく卒業制作をイメージしていて、鉛筆を使って大きな作品を創りたいと考えていました。それが150号サイズの『tone11』(※油画首席選出作品、大学美術館買い上げ)なんですよね。

「tone11」物の価値が薄れ見たいものを簡単に見ることのできる現在だからこそ知覚することの難しくなったモノのリアリティを表現したい。

 

――「現代的な視覚体験」がテーマということですが、これはどういう意味でしょうか?

 

川端 今の時代は、直接的なコミュニケーションがどんどん失われていると思うんです。そうした現代の感覚をベースに作品を創っているということなんですが、その根底には僕の幼少期の記憶があります。幼い頃は身体が弱くて、母に連れられていろんな病院を周って診察を受けていた時期があったのですが、医者は僕を直接診るというより、パソコンやカルテを通して僕を診ていて、そのときのカルテを見る医者の横顔が強く記憶に残っているんですよね。歩き回って行った先々でやっと順番が来て診察を受けているのに、自分をちゃんと見られていないような気がして、すごく心に引っかかっていたんです。

それとは対照的に、祖母が戦時中に看護師をやっていたんですけど、「薬もなく、背中をさすって最期を看取るしかできなかった」という話を聞いて、医療が発達して多くの命が救われていますが、直接的に診られたり触れられたりするコミュニケーションは、医療に限らずあらゆる場所で希薄になっていると感じました。新型コロナの影響でオンラインが普及したり、どんどん便利になってはいるけど、あらゆるコミュニケーションの間にパソコンやカルテのような記号的なフィルターが入っているように感じていて、そうした現代特有のフィルターやノイズにアプローチすることが今の僕のテーマになっています。

 

 

 

会話を通して内面を観察し、本質的なその人らしさを描く

 

――記号的なフィルターをなくすことには、物事の本質的な部分を見つめたいという思いがあるんでしょうか?

 

川端 そうですね。たとえば電車に乗っていると窓の外に景色が見えるだけですけど、歩いてみるととそこには湿度や匂いがあって、疲れて足が痛くなったり汗をかいたりしますよね。便利になるということは、そういう過程みたいなものをどんどん取り払っていくことのように思うんです。昔の人に比べると、そうした過程を実感しながら生きることができなくなっていると思っていて、物事に肉薄するようなフィジカルな感覚を忘れずに制作していきたいと思っていますね。

 

――『vague』という作品は記憶を辿って描いたそうですが、それはモデルも写真も見ずに描いたということですか?

 

川端 写真を見て描くことは、写真というフィルターを通して観察していることになるので、自分の目で見たものを記録せず、自分の中の記憶を頼りに描いてみました。やはり実物を見ながら描くのと記憶を辿って描くのとでは、絵もまったく違ってきます。形も曖昧だったりするのですごく時間がかかるんですけど、いろいろ考えながら描くのがすごく楽しくて、今後の制作のベースになるかもしれないです。

「vague」曖昧で不確実な視覚体感を、写真等のメディアをつかわず自分の目で見たものの記憶を辿りキャンバスに再現した。

 

――身近な人をモデルに描くことが多いようですが、これも「フィルターをなくす」というテーマとつながっている?

 

川端 表面的ではなく、その人の内面まで知っていくという過程が重要なので、学部の頃はただ描く対象としてお願いして描くのではなく、取材をしてその人といろいろ会話をしてから描いていました。

現在は肖像画の依頼を受けて描く仕事が定期的にあるのですが、お会いしたことのない方を描くのはすごく難しいです。今までの依頼があった肖像画では亡くなられた方が多かったので、写真しかない場合が多くて、画質も荒かったりする。しかも写真は一場面でしかないので、クライアントが求めるその人らしい姿とは限らない。それで家族や親族の方に取材したり、その人の性格を書いてもらうことで、いろんな角度から観察して、人物像を想像しながら描くようにしています。最初はすごく苦労していたんですけど、取材していく過程が面白いし勉強にもなるし、意義も感じられるので、今後も肖像画の仕事は続けていきたいですね。

 

――新型コロナによって現代特有のフィルターがますます増えていますが、創作への影響はありましたか?

 

川端 むちゃくちゃありました(苦笑)。実はドイツに留学することが決まっていたのですが、コロナの影響で流れてしまったし、注文が入っていた仕事もいくつかキャンセルになって、収入的なダメージもありました。それもキツかったんですが、自粛中にアトリエにずっとこもっていたことで、絵を描きはじめて初めて絵がわからなくなってしまって、1、2カ月くらい描けなくなったんですよね。アトリエに居ることさえキツくなってきて、いろんな展示会を観て周るようにしたんですけど、そのうち絵を観ることすら無理だとなって、あのときは本当に辛かったですね。

その間、人に話を聞いたり、本を読んだり、とにかくがむしゃらにいろんなことを学ぶようにしたんですが、回復したというより、それを受け入れて乗り越えていった感じでした。長いスパンで見たとき、スランプなんていくらでもあるだろうし、そこで辞めてしまえばそれまでだけど、乗り越えることができれば理想に近づくための過程として必要だった時間になるはずだと考えるようにしました。苦しくはあったけど、自分にとってはすごく大事な時間だったと思いますね。

新型コロナウイルスの影響もある中、様々な困難を乗り越えていくことで、更に理想に向けて描いてゆく。

 

――最後に現在の活動と、今後の展望を聞かせてください。

 

川端 留学がなくなったので、修了展を目標に頑張っています。僕は半年から数年というスパンで作品を制作するんですが、学部の卒業のときから2、3年かけた大作を創ろうと考えていて、今は修了展に向けて山ごもりする仙人みたいな日々です。他にもいくつかの展示に向けた作品制作をしつつ注文が入っている作品の制作もするという毎日を送っていて、とにかく時間が足りないという感じで今はひたすら描き続けています。

 

 

――本日はありがとうございました!

埼玉県三芳町のアトリエにてインタビュー。

 

 

川端健太information

■第2回「絵画の筑波賞」展

2021年6月23日~29日
10:00~21:00/日曜・祝日10:00~20:00 (最終日16:00まで)
【会場】⻄武池袋本店 本館6階アートギャラリー

 

 

Text/Photo by 大寺明