インタビュー

演出家として、日本発のオリジナルミュージカルを創っていきたい。〜4期生インタビュー Vol.20 大舘実佐子さん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

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4期生41名のインタビュー、始めます!

大舘 実佐子

1996年東京都生まれ。
東京藝術大学大学院美術研究科在籍。
4歳からバレエをはじめ舞台に立ち続けるも、2013年に本番直前の捻挫をきっかけに演出家を志す。
近年は演劇団体「HANA’S MELANCHOLY」と音楽劇団「東のボルゾイ」を主宰し、ミュージカルや会話劇の演出を手がける。
OFFICIALSITE:https://misakoodate.wixsite.com/misakoodate-site

https://kuma-foundation.org/student/misako-odate/

 

 

4歳から続けてきたバレエから、演出家志望になった理由

 

――もともとクラシックバレエをやっていたそうですが、演出家を志すようになったきっかけを教えてください。

 

大舘 バレリーナを目指していたわけではなく、趣味として4歳からバレエを習っていました。素質が問われる世界なので、自分はこの世界で戦えないことに早々に気づいていましたが、踊るのが好きでバレエスタジオに通い続けていたんです。16歳の頃は部活以上に打ち込んでいて、通っていたスタジオのオーディションを受けて、初めて『白鳥の湖』の役付きになったんですね。ところが、本番直前のリハーサルで台から落ちて捻挫して舞台に出られなくなってしまって……。そんな私を先生が可哀想に思って、一番いい席で観せてくれたんです。そのとき初めて客席から舞台を観て、「裏方として舞台に関わろう」と思いました。バレエにもマイムで会話をする演劇的な要素があるんですが、それをしている瞬間がすごく楽しかったので、演劇を学びたいと思ったんです。それから1年ほど演劇サークルに入って、ある程度の基礎を学びましたね。

 

――東京藝大入学と同時に劇団を立ち上げていますが、学部時代の活動はどんな感じでしたか?

 

大舘 高校生の頃から有志のメンバーを集めて演劇やミュージカルなどのパフォーマンスをやっていたんですが、そのときの相方が、小中高の同級生だった脚本家の一川華さんで、大学に入ってから劇団「フライハイトプロジェクト」としてプロジェクト化したんです。私は東京藝大に入ったので美術系の人を集め、一川さんは早稲田大学に入ったので文系の人たちを集めて、年に1回は舞台を上演するようになったんです。

それと同時並行で、一回り上の世代の人たちの劇団に所属して、3年ほど演出助手をやらせてもらいました。やはり年上の人の現場に入ると、どういう流れで舞台が企画から上演まで向かっていくのかがわかって勉強になるんです。そこで学んだことを自分たちの劇団に持ち帰って実践してみるという感じで学部の4年間は活動していましたね。

フライハイトプロジェクト第2回公演『ファーストメット・ミー』公演写真

 

 

――バレエで培われたものが、演劇に活かされることはありますか?

 

大舘 人をどう配置して、どう動かせば美しく見えるのかといった舞台創りの美的な感覚が培われたのもありますが、それよりもマインドの部分が大きいです。バレエスタジオの先生がすごくプロフェッショナルな人たちで、スパルタ教育でとにかく厳しかったんです。1ミリの狂いもなく動きを揃えるなどの訓練を徹底的にやり続ける中で、質の高いものを創るためには、それ相応の労力をかけなければいけないということを子供ながらにひしひしと感じていました。やっぱりそのマインドが演劇の稽古場でもいまだにあって、私は役者さんに対して無理を強いることも多いように思いますね。

 

――稽古場では、演出家としてどんなことを心がけていますか?

 

大舘 稽古場は提案し合う場だと思っているので、役者さんに対して自分で演じて見せないようにしています。いくら自分のイメージがあったとしても、役者さんをその役で選んでいる以上、その人の良さを最大限に引き出したいと思っています。ひとつのシーンをとっても、私の解釈と役者さんの解釈が違っていて、私がイメージする芝居とは別の芝居をしてくることがあります。それが自分のイメージを超えてくることがよくあったり、「この台詞ってこういう意味だったのか!」という発見があることもあります。それが演劇の面白いところだと思っていますね。

 

 

 

人にダイレクトにエネルギーを届けられるのが演劇の魅力

 

――学部時代の代表作『今夜、あなたが眠れるように。』と『SPRING AWAKENING Version1892/Version2019』の演出面のこだわりを教えてください。

 

大舘 『今夜、あなたが眠れるように。』は、4人家族の現代劇で、“受け継がれていく命”がテーマなんです。お婆ちゃんが年老いて死んでいくのと、娘の子供(孫)が生まれる瞬間を同時に描く構成で、大事な人を失う苦しさ、母が子を産む痛みといった誰もが共有できる苦しさをどう表現しよう?と考えたとき、誰もが知っている「苦しい」感覚は何かを考えて、「役者を走らせたい」と思ったんですよね。人の死は周りの人がどんなに頑張っても止められない。追いかけても何も変わらない、でも追いかけずにはいられないという心情を動きで表現したかったんです。脚本の一川さんも最初は驚いてましたが、「面白い」と言って脚本を書き換えてくれたんですよね。その結果、お互いに表現したかっとことの一歩先が見えた感じがしました。

「今夜、あなたが眠れるように。」東京学生演劇祭2017 審査員大賞受賞作品。カーテンで囲まれたベッドを舞台美術に用い、時間と空間を行き来しながら、1つの家族をめぐる生命の連鎖を描いた。

 

――『SPRING AWAKENING』は2つのヴァージョンがあるようですが?

 

大舘 『春のめざめ』という1890年代のドイツの戯曲を翻訳したバージョンと、舞台を現代の東京に置き換えたヴァージョンの2ヴァージョンを同時に創って、それぞれセットや役者さんもすべて変えて上演しました。翻訳ヴァージョンは、当時のドイツの教育や学校の制度を調べて時代考証をして、リアリティーを重視して創りました。東京ヴァージョンは高校演劇部が『春のめざめ』を上演するという設定で、その演劇部の中で戯曲と同じことが起きているという二重構造になっています。原作は大人の抑圧によって若者の性衝動が危うい方向に行ってしまうという物語なんですけど、なぜこの作品を現代で描こうと思ったかというと、私も脚本の一川もカトリック系の女子校に通っていたので、時代を超えて共感できたんですよね。貫いているテーマは同じだけど、男女の関係性や家族のあり方などいろいろ違う部分があるので、演出もヴァージョンごとにかなり変えています。

「SPRING AWAKENING version2019 東京」ドイツ戯曲『春のめざめ』を翻案し、東京の高校演劇部が『春のめざめ』を上演するまでを描いた演劇作品。メタシアター構造を用い、現代を取り巻く様々な問題を浮かび上がらせた。

 

――今年の夏に「東のボルゾイ」を立ち上げましたが、どんなコンセプトなんでしょうか?

 

大舘 日本発のオリジナルミュージカルを創りたいというコンセプトです。本場のブロードウェイの作品を観ると、役者さんの身体も大きいし表現もパワフルで、個性のぶつかり合いみたいな感じなんですよね。これを日本人が演じても、迫力の面でオリジナルには勝てないと思うんです。だけど、迫力があればいいというものでもないので、たとえば集団で揃えることが得意といった日本人の特性を活かしていけばいいと思うんです。曲にしても派手な曲ばかりではなく、日本人の感性に沿った曲にしたり、日本語の語感を活かしたオリジナルの曲を作ることで、英語の曲に無理に日本語を乗せるような耳障りのわるさを解消できると思ってます。

 

――上演を予定していたミュージカル『なんのこれしき2020』が、新型コロナによって来年3月に延期になりましたが、演劇界の打撃はいかがですか?

 

大舘 コロナ禍になってオンライン劇や配信演劇がすごく増えていて、どうにかして新しい価値を見出そうとみんな頑張っていますね。この数カ月、私も配信演劇の現場に関わっていたんですが、パソコンの画面越しに演劇を見せるのは、どうも演劇じゃない気がしてしまって……。配信演劇は観る側が自分の環境を自由に設定できるし、一時停止や早送りができてしまうものもあるけど、本来の演劇は、お客さんが劇場の椅子に座って身構えている状態で観ますよね。私は観る側も演じる側も緊張感を持って同じ空間にいるということが、演劇には絶対に必要な要素だと思っています。緊張感の中で全員の感覚が研ぎ澄まされて、各セクションの歯車がすべて噛み合ったとき、心が震えるようなパフォーマンスが生まれる瞬間があるんです。そういう瞬間に一回でも遭遇するとハマっちゃいますよね(笑)。

「なんのこれしき」生と死、生きる目的を求め悩む若者達をシニカルなユーモアとフルオリジナルの楽曲で鮮やかに描いた。日本人の身体、言葉を炸裂させるミュージカル。

 

――演出家として、観る人にどんな感動を与えていきたいですか?

 

大舘 今はこうしてオンラインで何でもできる時代になっていますが、やっぱり演劇ってどこまでもアナログなんですよね。人が集まらないと稽古もできないし、劇場という空間で限られた人しか観られない。上演したら終わりというすごく刹那な表現なんですよね。私はそこに美しさを感じるし、目の前で役者さんが命を削って芝居をしたり歌っているのを見ると、人間の底力を目の当たりにした気がして、辛いときでも「明日も頑張ろう」と思えるものなんですよね。

人にダイレクトにエネルギーを届けられるのが演劇の魅力だと思っています。お客さんにいいものを届けたいというのは当然のこととして、演劇業界やクリエイターの人の創作意欲を掻き立てられるような作品を創れるようになりたいと思っています。

 

――本日はありがとうございました!

新型コロナウィルス感染防止のため、オンラインにて取材。

 

 

大舘実佐子information

■ステージリーディング『ジーンを殺さないで』

脚本:一川華、演出:大舘実佐子
【日程】2020年12月19・20日
【場所】中野テレプシコール
詳細は特設ページをご覧ください。
ジーンを殺さないで 特設ページ

 

■ミュージカル『なんのこれしき2020』

脚本:島川柊、作曲:久野飛鳥、演出:大舘実佐子
【日程】2020年3月11~15日(全10公演)予定
【場所】池袋シアターグリーン BOX in BOX THEATER
詳細は特設ページをご覧ください。
なんのこれしき2020 特設ページ

 

 

Text by 大寺明

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