KUMA FOUNDATION クマ財団

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クリエイター奨学金は、学生クリエイターの育成を目的とした、給付型奨学金です。

ニュース

大塚 健太郎2021.01.25

古典をモチーフに“演劇にしかできない表現”を探し続けていきたい。〜4期生インタビュー Vol.28 大塚健太郎さん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

>>> 4期生のインタビューについての記事はこちらから。
4期生41名のインタビュー、始めます!

 

 

大塚健太郎

1998年神奈川県生まれ。
早稲田大学文学部在学中。
2017年「劇団あはひ」を結成。
2018年『どさくさ』(作・演出)にて旗揚げ。
2019年に『流れる―能“隅田川”より』にてCoRich舞台芸術まつり!2019春グランプリを受賞。
2019年に上演した『ソネット』(作・演出)が、かながわ短編戯曲賞2020最終候補作品にノミネート。
OFFICIALSITE:https://gekidanawai.com/

https://kuma-foundation.org/student/kentaro-otsuka/

 

 

落語、能、シェイクスピアの詩集を現代劇にアレンジ

 

――「劇団あはひ」を主宰し、脚本と演出を手掛けていますが、まずは演劇をやろうと思ったきっかけを教えてください。

 

大塚 2013年に流行った『あまちゃん』がきっかけでした。自分もこんな面白いテレビドラマを作りたいと思って、漠然と映像を目指していたんですが、脚本の宮藤官九郎さんが演劇出身だと知って、演劇をやってみたいという意識になったんです。『あまちゃん』のシナリオ集を買ってきて、見様見真似で文化祭のクラス劇の脚本を書いたりしていましたね。

その後、早稲田大学に入って最初の授業でたまたま隣の席だったのが、共同主宰者になる松尾くんでした。彼は俳優を志しているという話で、自分も中学高校の文化祭で演劇の脚本を書いていたので、一緒に演劇をやろうという話になったんです。最初は演劇サークルに入ろうと思って二人で観に行ったんですけど、どうもピンと来なくて、だったら自分たちで劇団を立ち上げようということになったんですよね。

 

――落語、能、シェイクスピアの詩集など、古典をモチーフにした演劇スタイルですが、なぜ古典を現代劇にアレンジしようと考えたんですか?

 

大塚 大学で演劇を学び始めた頃、劇作家の岡田利規さんのことを知りました。。岡田さんの作品は「新しい」と評価されているんですが、たとえば冒頭に俳優が登場して前フリを話したと思ったら、そのままシームレスに芝居になって役になり、また俳優に戻ったりするんですね。それを見て落語っぽいと思ったんです。宮藤官九郎さん脚本の『タイガー&ドラゴン』が落語を題材にしていたこともあって、憧れている二人の劇作家が重なり合う地点に落語があったんです。それで落語でやってみようと思って「粗忽長屋」を題材にした『どさくさ』という劇をやったのが最初でしたね。

「どさくさ」川のほとりにあるらしい家に集まった若者たちを巡る、曖昧な生と死の物語。落語『粗忽長屋』を題材に現在を描いた。

 

――古典を題材にしてみて、どんな魅力や面白みを感じましたか?

 

大塚 やはり古典は面白いから残っているものなので安心感がありますよね。外側は古くなっている部分もあるかもしれないけど、核にあるものは絶対に古びていないので、それを抽出するときに間違えなければ、ある程度は面白くなるはずだと思っています。その後、能を題材に『流れる』という劇をやっていくうちに古典芸能が持つ演劇性を実感しました。「映画ではできないことをやりたい」というのがずっと自分のテーマとしてあるんですが、演劇は映画の模倣になっているものが多いと思うんです。それに対して落語は一人で何役もやったり、能は仮面をつけて唄ったり踊ったりして、映画の写実的な表現とは違いますよね。古典芸能には演劇じゃないとできないことを考えるヒントがあると思いました。

 

――『流れる』は能の『隅田川』を題材としながら、鉄腕アトムが登場しますよね。この奇抜な組み合わせはどんな発想なんですか?

 

大塚 当時は漫画や能の記号的な表現について考えていました。たとえば泣く表現の場合、漫画だと洪水のように涙が描かれるし、能では手で顔を覆うくらいの動作で表すんです。それぞれ別のベクトルだけど、写実的ではなく記号的に表すという点では同じだと感じて、能と漫画をリミックスしてみようと考えたんです。能の『隅田川』は母が子を探す話なので、鉄腕アトムの命題ともフィットするように思えたんですよね。

 

――『ソネット』という作品はシェイクスピアの詩集をモチーフにしていますね。この作品で表現したかったことは?

 

大塚 この作品は“翻訳”がテーマになっています。シェイクスピアの『ソネット集』を翻訳している吉田健一が「翻訳は一種の批評だ」と言っているんですが、自分が演劇でやりたいこともそういうことかもしれないと思いました。古典を現代に置き換えることが、翻訳であり批評でもあるという考えがしっくりきたんです。ストーリーはシェイクスピアの詩に則っているんですが、それと同じくらい吉田健一の作品群、中でも随筆「海坊主」を題材に入れていて、シェイクスピアと吉田健一の関係性みたいなものをそのまま芝居にも取り込んでいます。

「ソネット」シェイクスピアの『ソネット集』と、その翻訳者の吉田健一による随筆『海坊主』を重ね合わせ、三人の男女の過去と現在がシームレスに描かれる。

 

 

 

演劇は日常とは違うどこかへ移動する“観光”みたいなもの

 

――古典に関する資料を150~200冊くらい読むということですが、古典はストーリー自体はシンプルなものが多いですよね。なのに資料を深堀りする意図は?

 

大塚 『流れる』の場合、題材が決まったら『奥の細道』と『隅田川』と『鉄腕アトム』にまつわる本を図書館や書店で探してきてひたすら読むんですが、ひとつの物語から派生するものをすべて取り込みたいという気持ちです。たとえば『伊勢物語』で在原業平が詠んだ歌の本歌取りあったり、古典はいろんな作品に派生していきますよね。そうした関連作もどんどん使っていきたいと思っていて、ヒップホップのリミックスみたいな感覚です。

 

――映画との違いとして、演劇の魅力はどんなところにあると思いますか?

 

大塚 哲学者の東浩紀さんが「哲学は観光みたいなもの」と言っているんですが、演劇も観光みたいなものだと思うんですよね。劇場という日常とは違うどこかに行って帰ってくるという移動が大事で、作品の内容以上にこの動作が演劇の本質のように思います。

舞台現場から。非日常の場所にわざわざ行き、公演を見ること自体が、演劇の醍醐味だと考えているという。

 

――そうすると、コロナ禍の今の状況は演劇にとってもかなり辛いですよね。打開策として取り組んでいることはありますか?

 

大塚 辛いですね(苦笑)。新型コロナの影響で去年1年の予定がほどんど流れてしまって、今年2月に1年ぶりに公演するはずだったんですけど、緊急事態宣言が出てそれもどうなるかわからない。去年はいろんな劇団がオンライン演劇をやっていたので観たんですが、自分が求めている演劇とは違う気がして、それとは違う方法を模索しています。そこで今は、朗読やラジオドラマの延長線上で音による作品ができないかと考えています。他にも映画を撮ろうという話をしています。もともと映画ではできないことを演劇に求めていたわけですけど、逆に映画を創ることで本当に映画にできないことが見えてくるかもしれないですよね。

 

――コロナも含めて今の時代をどんなふうに感じていますか? また、それが作品にフィードバックされることは?

 

大塚 大変な世の中だからこそ、ポジティブなものを発信していければ、とは思っています。古典にはそういった危機を乗り越えるためのヒントもきっとたくさん隠されているはずで、せっかく古典を題材に演劇をやってきたのだから、そこから得たよいものを、現代に有効な形に翻訳していけたらいいと思います。こんな時だからこそ、「日常とは違うどこか」にほんの一瞬だけでも逃げられるような、そんな作品を創っていきたいですね。

劇団あはひ。

 

――「劇団あはひ」の今後の展望を聞かせてください。

 

大塚 大学在学中に劇団を法人化しようと思っています。コロナ禍の前から演劇界はかなり閉鎖的な状況なんですが、そもそも数日間の公演で収益が確定してしまうという構造が経済的に自立できない状況を生み出していると思うんです。演劇活動が経済的に回っていくシステムを作るために、会社のビジネスモデルを演劇に落とし込んでみたいと思っています。たとえば僕たちは公演の後、能楽師などの専門家を呼んでアフタートークをよくやるんですけど、それを独立したコンテンツとして配信するなど、公演以外にも経済的に回していくための仕組みを作ることで、劇団をより継続的なものにしていきたいと考えています。

 

――本日はありがとうございました!

新型コロナウィルス感染防止のため、オンラインにて取材。

 

 

大塚健太郎information

 

■滞在制作『Letters(仮)』
2021年8月9日(月)~8月18日(水)
城崎国際アートセンター/兵庫県豊岡市城崎町湯島1062

 

Text by 大寺明