KUMA FOUNDATION クマ財団

KUMA FOUNDATION クマ財団

クリエイター奨学金は、学生クリエイターの育成を目的とした、給付型奨学金です。

ニュース

小西 遊馬2021.02.09

ドキュメンタリーを通して、人の痛みが想像できる力を育てていきたい。〜4期生インタビュー Vol.30 小西遊馬さん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

>>> 4期生のインタビューについての記事はこちらから。
4期生41名のインタビュー、始めます!

 

 

小西遊馬

1998年千葉県生まれ。
慶應義塾大学 総合政策学部在籍。
「人を動かすジャーナリズム」を掲げ、世界中を飛び回ってドキュメンタリーを制作。
これまでにロヒンギャの難民問題、マニラの路上で暮らす疑似家族、インドネシアのミイラの風習、香港デモなどのドキュメンタリーを制作し、国内外で賞を受賞。
取材道中の出来事や撮影者自身の日常をInstagramを中心にSNSで公開し、若い世代に向けて情報発信している。
OFFICIALSITE:https://adococt.myportfolio.com

https://kuma-foundation.org/student/konishi-yuma/

 

 

難民という現実を想像すらできない忸怩たる思い

 

――大学生にして世界各地を飛び回ってドキュメンタリーを制作していますが、ドキュメンタリーを撮ろうと思ったきっかけを教えてください。

 

小西 高校生のときにイタリアに留学していたんですが、当時はアフリカからヨーロッパにやって来る難民のニュースが連日のように流れていたんです。イタリアでモロッコ人の青年とすごく仲良くなったんですが、僕が帰国する前夜に彼が自分の生い立ちを話してくれたんですね。彼は両親がいなくて、兄弟7人でヨーロッパに渡航しようとしたんですが、途中で海に放り出されたという話を涙ながらに語ってくれました。そのとき僕は頭が真っ白になって、どんな言葉をかけていいのかもわからなかった……。歴史のテストで点数が取れても、戦火の中にいる人たちの気持ちはわからないし、自分の大切な人の悲しみも癒せない。今まで学校で学んできたことは何だったんだ?とすごく反省したんですよね。

 

――その思いが、どんなふうにドキュメンタリーにつながっていったんですか?

 

小西 それがきっかけで社会問題の本を読むようになって、山谷と新宿のホームレスを調査したり、精神疾患を抱えた方のコミュニティスペースのスタッフとして働かせていただいたりしました。大学に入ってから、もともと最初に問題意識を持った難民について調べているうちにロヒンギャの難民問題を知ったんです。それがアジアという近いところにあって、しかも日本にも住んでいることを知って衝撃を受けましたね。それで日本在住のロヒンギャの方に会いに行ったのがきっかけでした。そしたら本当にバングラデシュとインドに行けることになって、3カ月前に買ったばかりのカメラで初めて撮ったドキュメンタリーが『The scars of genocide』なんです。

 

――初めて自分の目で見た難民キャンプにどんな感想を抱きましたか?

 

小西 正直言うと、やはり遠い印象でしたね。行く前は、自分の目で見たらすごい衝撃を受けて、自分の中の何かが変わるはずだと期待していたんですが、やっぱり想像しきれなかった。それがドキュメンタリーを極めようと思ったきっかけでもあったんです。現地に行っても60~70%くらいしか感じ取れないということは、映像にするともっと弱くなるということなので、もっと解像度を上げて、できる限り現地に近づけなければいけないという責任感ですね。

 

――この作品でどんなメッセージを伝えようとしましたか?

 

小西 ロヒンギャのドラッグの問題については絶対に取り上げようと思っていました。当時は世界中のメディアを探してもその問題に言及している記事がなかった。彼らは幼い頃に目の前で父親が殺されるということを経験してきて、そのトラウマを消すための現実逃避としてドラッグを使用している。ドラッグが問題というより、そうせざるをえない状況まで追い込まれたことの方が問題だと思うんです。

 

――次作がフィリピンのホームレス女性とストリートチルドレンを追った『#JUST LOVE』ということですが、この作品で伝えたかったことは?

 

小西 彼らの姿を通して“愛の定義”を見出そうとしていたと思います。壁に手をつながれた5歳の少年を見たら、ほとんどの人は可哀想だと思うはずです。僕も最初は驚いたんですが、そもそも彼らは血もつながっていないし、路上で育児をしていて、少年が障害を持っているため、道路に飛び出して車に轢かれないように苦肉の策でそうしていたんですよね。

相手を想うがゆえにそうなっているわけですが、それもひとつの愛のかたちだと思うんです。当時、同年代の子たちが、愛されていないとか孤独だという話をよくしていて、疑問に思っていたんですけど、その要因のひとつにドラマや小説で美化された愛のあり方によって苦しんでいるように思いました。愛という字は「心を受ける」と書くように、受け取る側がどう受け取るかだと思うんです。自分たちが知らないような愛のかたちを見せることで、愛の定義が広がるんじゃないかと思いましたね。

 

 

 

撮影者のあり方がそのまま出てしまう正直で残酷な表現

 

――第3期のクマ財団奨学生には落選してしまったわけですが、次の第4期で合格しました。この1年間でどんなことをブラッシュアップしていきましたか?

 

小西 自分のあり方が変わったと思います。それは他者との関わり方が変わったということ。ドキュメンタリーは撮影の方法じゃないと思っていて、生身の人間と関わっている以上、相手に向き合って理解しようとする撮影者のあり方がそのまま出る、すごく正直で残酷な表現なんです。微妙な手ブレ、微妙な立ち位置、斜めから撮るのか真正面から撮るのか。相手が撮影者のことを信頼していたら、表情もやわらぐだろうし目の輝きも違います。そんなふうに映像の中にすべて組み込まれていって、撮影者の意志や感情が波動みたいに伝わる。自分自身のあり方がもっともドキュメンタリーの良し悪しにつながるものなんですよね。

他者との関わり方が変わることで、作品の表現だけでなく、自分自身のあり方から変わるという。

 

――ドキュメンタリーは、現地まで行って相手と関係を築いて、長期の撮影や膨大な量の編集作業など、すごく手間と時間がかかるものですよね。誰に強制されるわけでもなく、個人的にそれをやる原動力とは?

 

小西 いくつかあるんですが、何不自由ない環境で生まれた自分が、他者を理解できないということに対してコンプレックスを持っていることがあると思います。経験していないことは絶対に理解できないとも思うんですけど、理解しようとする姿勢だけは持ち続けたいというのがありますね。

 

――一昔前のドキュメンタリーというと、テレビ局が制作するイメージでしたが、今では『VICE』のようなデジタルメディアもあって、個人でも情報発信できる時代になりましたね。新たなジャーナリストのあり方として意識していることは?

 

小西 作品だけに終わらず、自分の活動や生き方を見た人が、「私も○○してみよう」「あんなふうに生きたい」とアクションを起こしたくなるようなアプローチにチャレンジしています。それで取材の道中や日常をSNSで公開しているんですが、そうやってエンタメ化することで、普段ドキュメンタリーを観ない人も作品がどうなったか知りたくなって、ドキュメンタリーをよりカジュアルに観てくれると思うんです。

そもそも今の若い世代はテレビを観ないということもあるので、若者向けに5分や10分の尺にしたり、テンポやカメラワークも意識しています。啓蒙的になりすぎると若い世代は観なくなるので、ドキュメンタリーの内容に支障が出ない範囲で映画に近い撮り方をするなど、映像も工夫しています。

 

――22歳のジャーナリストとして、今の社会にどんな問題意識を持っていますか?

 

小西 今の日本社会の過度な清潔さには違和感を覚えます。道徳やルールが行き過ぎた過度な清潔さは、すなわち排他性だと思うんです。たとえば電車で泣いている子供に「うるさい」と言えば、自分もすごく気を遣って静かにしなければいけないし、人の失敗を咎めれば、自分の失敗も許されなくなる。そんなふうに自分で自分の首を締めているだけだと思うんですよね。

もちろん治安や秩序を維持するためにある程度は必要だと思いますけど、規定されることが増えれば増えるほど、無意識のうちに自分の行動や思想も固定化され、どんどん排他的になっていく。そうした風潮に対しては自分も生きづらさを感じていて、ドキュメンタリーを通してそうじゃないものに触れることで、なんとか息をしているような側面はあります。僕の作品は何かを批判するということはあまりなくて、ありのまま描くことを徹底しているんですが、社会の悪い面や汚さを肯定するということを試みているんだと思いますね。

 

――小西さんが信じるドキュメンタリーの力とは?

 

小西 肯定だと思います。少なくとも僕のドキュメンタリーはそうありたい。ドキュメンタリーを撮り始めた最初のきっかけが、どれだけ人の痛みに想いを馳せて、この社会がやさしくなっていくかということだったので、他者の痛みというものを想像できる力を育むようなドキュメンタリーを創っていきたいと思っています。

 

――本日はありがとうございました!

新型コロナウィルス感染防止のため、オンラインにて取材。

 

小西遊馬 information

■『#JUST LOVE』
https://creators.yahoo.co.jp/konishiyuma/0200037377

 

■『Soul of Hong Kong ~唔想再失去同伴~』
https://www.kickstarter.com/projects/soulofhongkong/soul-of-hong-kong

 

 

Text by 大寺明