KUMA FOUNDATION クマ財団

KUMA FOUNDATION クマ財団

クリエイター奨学金は、学生クリエイターの育成を目的とした、給付型奨学金です。

ニュース

村松 佳樹2021.03.10

カルト映画やヒッピーカルチャーと、日本の大衆文化が混じり合った原風景。〜4期生インタビュー Vol.35 村松佳樹さん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

>>> 4期生のインタビューについての記事はこちらから。
4期生41名のインタビュー、始めます!

 

 

村松佳樹

1995年静岡県生まれ。
東京藝術大学 美術学部先端芸術表現科を卒業し、現在は大学院に在籍。
50~70年代の映画や音楽など往年のカルチャーと今のカルチャーを同時並行で楽しんできた世代として、古今東西の創作物から影響を受けた多彩な作品を制作。
その作品は絵画、イラスト、フライヤー、ポスター、写真、映像、アニメーションなど多岐に渡る。
OFFICIALSITE:https://yoshikimuramatsu.wixsite.com/website

https://kuma-foundation.org/student/yoshiki-muramatsu/

 

 

古い時代のものは、今の時代にはない感覚だから新しい

 

――イラストから映像まで非常に幅広いですが、いすれも昭和の怪奇映画や寺山修司の天井桟敷など、日本のアングラ文化の影響を感じさせます。若い世代でこうした表現をしていることを珍しく思ったのですが、どういったカルチャーから影響を受けてきましたか?

 

村松 影響ははかり知れないほど受けてきましたね。僕は1995年の生まれなんですが、ちょうどDVDが世の中に普及しはじめた頃で、古い時代のものと新しい時代のものを並列で見てきた世代なんです。VHS、CD、DVD、インターネットというふうに視聴メディアが変わっていった縦軸がありますが、僕らの世代は最初からそれらが揃っていて横軸で楽しめたので、古今東西のいろんなものから影響を受けています。それまでは意識せずに昔の作品を楽しんでいたんですが、大学に入ってから特に意識して観るようになりましたね。

 

――HPに大量のイラストが公開されていますが、やはり子供の頃から絵を描くのが好きだった?

 

村松 子供の頃から絵を描くのは好きでしたけど、趣味で描いていた程度で、基本的にはスポーツばかりやっていましたね。幼稚園の頃は水泳、小学校ではバスケ、ソフトボール、ラグビー、中学校では野球と駅伝、高校で短距離走をやってきて、受験勉強をやりたくないという理由で美大を受けたんです。だけど、もともと何かを創るのが好きだったし、昔の映画のポスターやフィギュアを集めていたので、スポーツをやらなくなっただけで、性格自体はそんなに変わってないと思います。

「kasrom」(2020)

 

――スポーツマンのサブカル好きというのも珍しいですね(笑)。

 

村松 そんなにのめり込んでいたわけでもなくて、通りすがりの文化に一瞬触れて、それが通りすぎると、また通りすがりの文化にちょっとだけ触れて去っていくという感じで、カルチャーの痴漢みたいな(笑)。興味の対象がどんどん移り変わっていくんですよね。

 

――フライヤーやポスターの作品を見ると、60年代のフラワームーヴメントの影響を感じますが、あれも通りすがりの文化の影響?

 

村松 中学生のときにドラァグクイーンの映画やサイケデリックカルチャーを知って、かっこいいと思ったんです。自分が生まれる以前のものは、普通に生活しているとあまり触れる機会がないですよね。見たことがないものなので、古いものというより新しいものとして受け止めていたんです。逆に今どきのJポップや日本映画にはほとんど興味がなくなって、50年代のオールディーズや70年代のジャーマンプログレを聴いたり、ニコニコ動画でルネ・ラルーの『ファンタスティック・プラネット』(1973年制作)を観たり、ホドロフスキー版のデューンの解説サイトでデビッド・リンチを知って『デューン/砂の惑星』(1984年公開)を観たりしてましたね。

「変圧土人」(2021)

 

 

――これまでイラスト中心だったのが、映像作品『魚女』を創ることになった経緯を教えてください。

 

村松 卒業制作で初めて創った映像作品なんですが、僕はたくさん絵を描くので、一枚一枚貼って展示するより、映像で一気に見せたほうが楽だと思ったんです。コンセプトとして、いろんな手法を使いたいというのがあって、実写、手描きアニメ、粘土のクレイアニメーション、それらが横にスライドしていくことで絵巻物のように一貫性を持たせようと考えました。

 

――前衛的というか実験的というか、なんとも形容しがたい不思議な世界観ですが、どんなところから着想を得ていますか?

 

村松 以前、浅草の喫茶店で友達に5時間くらい待たされたことがあって、ヒマだったから絵を描いていたんですよね。そのとき前の方に着物を着たお婆さんが座っていて、結ってある髪の後ろが少しほつれていたんです。それが魚のくたびれた尾びれのように見えたんですね。そのとき描いたラフが『魚女』の元になっています。

 

 

 

多様な国の文化が混じり合った日本的なるものに惹かれる

 

――『魚女』は異世界に誘われるような感覚がありますが、どんなふうにイメージを広げていきましたか?

 

村松 ぼーっとしているときにふと考え事をしていると、視覚を意識しなくなって妄想の方に意識がいくことがありますよね。たとえば映画を観ているときに他のことを考え出してスクリーンを見ていなかったり、電車で考え事をしているうちに駅を2、3個通り過ぎていたり、ふと気づけば時間が過ぎていた……という感覚を視覚化できないかと思って創り始めました。電車が一番ぼけーっとする時間が多いと感じたので、『魚女』は電車という設定にしています。

 

――カルト映画を思わせる奇抜なおどろおどろしさを感じさせますが、オマージュの意識はありますか?

 

村松 ありますね。まったく見たことがないものを表現することは不可能だと思っていて、どこかで見たものが絶対に原風景としてあると思うんです。むしろ自分にはそういうものしか原風景にない気がします。普通に鑑賞するときは娯楽性が高いポップカルチャーもすごく好きなんですけど、いざ作品を創るとなるとああいう感じになってしまう。それは、OSが違うようなものだと思います。MacユーザーがWindowsにすぐ慣れないのと同じで、メインストリームにある作品の良さがわかっていても、自分が創ろうとすると、そういうふうにはできない。自分の原体験にあるものがOSの基盤になっていると思うんですよね。

「数奇な問答」(2020)

 

 

――60~70年代のアングラ文化の影響を思わせる一方で、浮世絵美人が出てきて、さまざまな日本の土着文化が混ざり合っている印象を受けました。

 

村松 コラージュで浮世絵を使っている理由は、古書店で安く手に入るからなんです。だけど、日本の土着文化はすごく好きで、明治から現代までの大衆娯楽の変遷について趣味で調べているんです。たとえば戦前と戦後の大きな違いは、終戦後にアメリカのカルチャーが入ってきたことなんですが、戦前はイタリアやフランスなどヨーロッパの文化の影響の方が強かったんですよね。ハーモニーがまったくない時代が明治の初期まであって、それが西洋からいろんな音楽が入ってきて、日本の民族的なリズムに西洋の音楽を混ぜ合わせていったということが見えてくる。それが面白くて新民謡や音頭を聴いたりしていますね。他にも演劇やメディアの変遷について調べたり、最近はカタカナについて調べはじめました。

日仏アーティストによるオンライン展覧会『Nature Is Not Your Household』 にて制作した作品(2020)

 

――『魚女』はいろんなエッセンスが混ざり合って濃厚な密度ですね。一枚の絵だけでも相当な密度ですが、それが19分間に渡って延々と続く。制作するのも大変なのでは?

 

村松 『魚女』の絵はすべてアナログなんですが、ちょくちょく描き貯めていって2年くらいかけて創っていきました。でも、途中に何もやっていない期間もあるので、大変だったという感じでもないです。密度については、デジタルのおかげだと思います。フィルムではなく、データで編集できるので作業が楽なんですが、デジタルでアナログ感を表現するのがすごく大変だったりしますね。

「KUMA EX 2021」でも同じように実写とアニメーションを混ぜた映像作品を展示する予定なんですが、去年1年でちょくちょく描いていたものを詰め込んでいった感じです。

 

――それは楽しみですね。新作のコンセプトは?

 

村松 『恍惚のゾンエルバー』というタイトルなんですが、走馬灯のようにイメージが出てきます。たとえば以前に観た映画があって、映画を創った人の記憶が自分の記憶になっているわけですけど、他人の記憶と自分の記憶が混ざり合っていることを自覚して作品を創ることで、「この景色、どこかで見たことがあるな」という既視感をもたらしたいと思っています。鑑賞する人の記憶の階層みたいなものを描き出せたら面白いですよね。

 

――最後にこれからの作家活動の展望を聞かせてください。

 

村松 過去にはたくさん面白い作品があって、繰り返し繰り返しオマージュを創り続けてきたわけですけど、いっそのこと仏教伝来くらいまで遡っていくべきなんじゃないかという気がしてきましたね(笑)。創ること自体がすごく楽しいので、描くという行為に限らず、映像や文章など何かしらのかたちで創り続けていくと思います。

 

――本日はありがとうございました!

新型コロナウィルス感染防止のため、オンラインにて取材。

 

 

村松佳樹 information

■『魚女』
https://www.youtube.com/watch?v=GhhQZipzhnU

 

■『恍惚のゾンエルバー』
https://www.youtube.com/watch?v=OUXAjPq2Bhk

 

 

Text by 大寺明