KUMA FOUNDATION クマ財団

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クリエイター奨学金は、学生クリエイターの育成を目的とした、給付型奨学金です。

ニュース

芦藻 彬2021.03.03

「建築漫画家」として、漫画というメディアを通して建築と関わっていきたい。〜4期生インタビューVol.33 芦藻 彬さん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

>>> 4期生のインタビューについての記事はこちらから。
4期生41名のインタビュー、始めます!

 

 

芦藻 彬

1994年神奈川県生まれ。
建築漫画家。
東京工業大学大学院 建築学系に在籍中。
建築学と平行して漫画を執筆し、2015年に講談社「第116回アフタヌーン四季賞」佳作を受賞。
2018年、Web漫画レーベル『ジヘン』にて「微分、積分、世界の終わり」でデビュー。
2019年にイタリアの「Università IUAV di Venezia」に留学し、現地に滞在しながら古代オリエント建築漫画『バベルの設計士』を連載。
自家製本レーベル「羊々工社」を主催し、建築漫画を刊行している。
OFFICIALSITE:https://artsticker.app/artists/557/about

https://kuma-foundation.org/student/akira-ashimo/

 

 

卒業制作の建築設計を「漫画で表現してみよう」

 

――建築学の大学院生にしてプロの漫画家として活躍されていますが、いつ頃から漫画を描くようになったんですか?

 

芦藻 幼稚園に入る前からチラシの裏に4コマ漫画を描いたりしてましたね。でも実は、小学生のときは漫画よりも工作の方が好きだったんです。ボール紙でハウルの動く城を作ったりしていて、その設計図を描くために絵を描いていたんですよね。

小学生の頃、父が好きだった『新世紀エヴァンゲリオン』や『攻殻機動隊』などのSFアニメを観せられたんですが、中でも大友克洋先生の『AKIRA』には衝撃を受けました。実際に建築を学んでから『童夢』を読むと、建物が崩れるシーンが細部まで正確に描かれていて感動します。その頃観ていたハードSFの影響が高校くらいから表に出てきた感じなんですが、中学生の頃はもう少しソフトな『蟲師』や『夏目友人帳』に傾倒していて、他には今市子先生の『百鬼夜行抄』にも感銘を受けました。そうした作品の影響からストーリー漫画を描くようになったんです。

中学校3年生の漫研の部誌で描いた、最初の漫画作品

 

――その頃からプロの漫画家を目指していたんですか?

 

芦藻 日本橋ヨヲコ先生の『G戦場ヘヴンズドア』が僕のバイブルなんですが、漫画に賭ける情熱や生みの苦しみが描かれていて、逆に自分はプロとしてやっていくのは無理だと思ったりもしました。でも、それでも漫画が描きたくて、これまでとは違う厚みのある描き方を意識するようになったんです。ヨヲコ先生の漫画は、今でも常に読み返しながら描いていますね。

 

――漫画家志望というと美大のイメージがありますが、なぜ建築学科に?

 

芦藻 高校生の頃、部活の友達とあてどなく街を歩くという遊びをよくやっていたんですね。個性的ないろんな形の建物があって街を歩いているだけで飽きないんもんだなと思っていて、そこから建築に興味を持ったんです。

進路を考える際、最初は美大を考えていたんですけど、美術の先生に相談したところ、「漫画家を目指すなら美術の勉強も大事だけど、それ以外で何か専門性を持っていた方が漫画に活かせるんじゃないか」というアドバイスをいただいて、それがきっかけで建築学科に入りました。

大学は建築学科へ。並行して漫画の執筆を行う。

 

――大学時代にアフタヌーン四季賞の佳作に選ばれていますが、受賞したことで変化はありましたか?

 

芦藻 編集さんと漫画を創るということを初めて経験して、漫画にとってキャラクターが大事だということを教えられました。その後、お会いした編集さんもみな同じことを言っていて、常にその意味を考えながら、実はよくわかっていない状態が続いていたと思います。その頃の僕は商業漫画的な視点が足りなくて、キャラクターよりも世界観の方を重視していたんですよね。

その後、実際に『バベルの設計士』を連載していく中で、ちょっとずつその意味がわかってきた感じです。たとえば難しい哲学や概念は、言葉で説明されただけでは腑に落ちないですよね。それが人間というフィルターを通すことで自分と照らし合わせられるようになって、初めて腑に落ちてくる。キャラクターはそうした効果を持つものだと思っていて、キャラクターがいるからこそ、どんな内容のものでも人に伝えられる稀有なメディアになりうるのだと思います。

 

――デビューの経緯を教えてください。

 

芦藻 大学4年になって卒業制作が忙しくなり、一時的に漫画から離れて建築設計に全力を注いでいたんですが、それを漫画で表現してみようと思いました。設計した建物の使われ方や時間による変化を漫画という形式で描いた作品を同人誌イベントのコミティアで頒布したところ、けっこう評判が良くて、いろんな編集さんから声をかけていただけるようになったんです。

中でも『ジヘン』の編集さんが熱意のある方で、とても丁寧に漫画を見てくれました。しかも編集長が僕と同じく建築学科の出身で、「建築の漫画をやろう」と提案してくださったんです。建築を勉強された方なら意思疎通もスムーズにできますし、これはまたとない機会だと思いました。連載を始める前に、以前描いた短編「微分、積分、世界の終わり」を掲載したのがデビュー作になります。

デビュー作「微分、積分、世界の終わり」

 

 

 

留学して建築を学びながら、ヴェネツィアで漫画を連載

 

――連載デビュー作となる『バベルの設計士』は、4000年前の古代オリエント建築というかなりの難題だと思うんですが、どんな生みの苦しみがありましたか?

 

芦藻 企画が決まってから連載開始まで準備に1年かけています。古代メソポタミアの資料があまりに少なくて、このままでは描けないとなり、NHK文化センターで開かれていた古代オリエント史の講座に通いました。講師の小林登志子先生に漫画の企画を相談したところ、ビジュアルに特化した資料をリスト化してくださったんです。さっそく都内の図書館を回って全部集めまして、ようやく少しバビロンの街のイメージが浮かぶようになりましたね。

 

――連載開始と同時期にヴェネツィアに留学されていますが、留学先で漫画を連載していたんですか?

 

芦藻 僕はヴェネツィア出身のカルロ・スカルパという建築家を敬愛していて、彼の建築を現地で見たいという思いもあって、もともと留学することは決めていました。連載は卒業後にするものだと思っていたんですけど、ヨーロッパに留学経験のある『ジヘン』の編集長が「日本の大学よりヒマだから連載できますよ」と言ってトントン拍子で話が進んでいったんです。

それからは留学の準備をしながら、ひたすら家で原稿を書き溜めて、留学後は週の半分は大学に通って、もう半分はみっちり漫画を描くという生活です。最初のうちは、ヴェネツィアで漫画を描けるなんて最高だ!と思っていたんですけど、途中から36時間漫画を描いて、倒れるように十数時間寝るというサイクルになって、あの頃は辛かったですね(苦笑)。

留学中の原稿。

 

――『バベルの設計士』では、どんなテーマや世界観を描き出したかったですか?

 

芦藻 “自由”というテーマを掲げていました。がんじがらめになっている秀才タイプのガガという主人公が、もがき続ける姿を描くことで、人生において自由とはどういうことなのか?ということを描きたかったです。

絵的には、塔が崩壊するシーンは絶対に描きたかったですね(笑)。あとは天才設計士ニムロデのビジョンのシーンと、ずっと悔しそうな表情をしているガガの笑顔を描きたかったです。どれも言葉ではなく、絵の力で伝えなければいけないシーンなので、それが楽しみでもありプレッシャーでもあったんですけど、今の自分の力を出し切って出力できたので、ラストまで走りきれて本当によかったです。

 

――「建築漫画家」を名乗っていますが、これはどんな漫画家像なんでしょう?

 

芦藻 建築家というと建物を建てるイメージだと思いますが、中には建築家集団のアーキグラムのように必ずしも建築を成立させようとせず、絵で建築のアイデアを発表して建築界に影響を与える人たちもいます。そうしたメディアを使った建築との関わり方もあると思っていて、僕は漫画というメディアを通して建築と関わっていきたいと思っています。実際に建築を実現させるとなると、さまざまな制約がありますが、漫画という表現であれば、コンセプトや想いをより直接的に伝えることができると思っています。

初連載作品「バベルの設計士」

 

――今後はどんな建築漫画を描いていきたいですか?

 

芦藻 連載を終えて、今は建築をテーマにいくつか企画を考えているんですが、大学で建築を学ぶ学生の話や未来の宇宙建築を設計する事務所のSFものを考えています。いずれは歴史的な建築家の伝記漫画にも挑戦できればいいですよね。建築の空間を描いた漫画だけを集めた本も作りたいと思っているので、もし一緒に作ってくれる編集者の方がいればうれしいです。

 

――最後に、建築と漫画の共通点は感じますか?

 

芦藻 どちらにも構造があるんですよね。漫画の物語も建築設計もコンセプトという一番大きな柱があって、その周囲にどんなふうに基礎を造って梁をかけていくのか、アプローチする道はどうするのか、いろんなことを考えて創っていくわけですけど、人に作品として届けるという点では、まったく同じものだと感じています。連載の場合は、柱を伸ばしていった先に物語のラストがあって、そのゴールを決めてからでないと物語を繰り広げられない。それこそ塔を建設するのに似ているかもしれませんね(笑)。

 

――本日はありがとうございました!

新型コロナウィルス感染防止のため、オンラインにて取材。

 

 

 

芦藻 彬 information

■『バベルの設計士』上・下巻
実業之日本社 絶賛発売中!

紀元前18世紀、バビロンの王・ハンムラビは全土統一を果たし、国家繁栄を確たるものとするため「太陽に届く塔」の建設を命じた。
宮廷設計士のガガは、天才的な設計士とされるノアの末裔・ニムロデを探し出し、前代未聞の古代高層建築に挑むが――。
旧約聖書に登場する伝説の「バベルの塔」を建築の視点から描いた歴史浪漫譚。

 

『バベルの設計士』を読む!
https://j-nbooks.jp/comic/original.php?oKey=182

 

 

Text by 大寺明