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活動支援生インタビュー Vol.2 岡﨑 龍之祐 : Rakuten Fashion Week TOKYO 2022S/S
クマ財団では、プロジェクトベースの助成金「活動支援事業」を通じて多種多様な若手クリエイターへの継続支援・応援に努めています。このインタビューシリーズでは、その活動支援生がどんな想いやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。不透明な時代の中でも、実直に向き合う若きクリエイターの姿を伝えます。
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Ryunosuke Okazaki | 岡﨑 龍之祐
Rakuten Fashion Week TOKYO 2022S/Sにて、
インタビュアー・ライター: YOSHIKO KURATA
― 今年夏にRakuten Fashion Week TOKYOにてショー発表おめでとうございました。
前回のインタビューでお話している通り、中高時代からファッションデザイナーを目指していたそうですが、あえてファッションスクールではなく藝大のデザイン科からファッションを考えていったきっかけはなんだったのでしょうか?
岡﨑:中高時代からシンプルに服が好きだったのですが、その中でも自分が好きなファッションデザイナー像が決まっていて。日常的には着られなさそうだけど、表現として芸術的に美しいと感じるものに惹かれていたんです。なので、ファッションデザイナーを目指すのであれば、そういったデザインや表現の可能性を広げる形で学びたいと思って、藝大のデザイン科を選びました。
「デザイン」といっても、一括りにはできなくて、例えば問題解決につながるようなプロダクトデザインもあれば、人々の共感を揺すぶるようなデザインもある。そんな中で僕自身、「服とは、プロダクトデザインなのかそれとも表現なのか」という興味がありました。つまりファッションデザインって一体何なんだろうって不思議に感じていたんです。
― 「ファッションデザイン」の定義を考えるところから始まったんですね。その視点をもとに在学中に制作した作品はありますか?
岡﨑:学部2年生の際に、「暮らし」という課題制作で発表した巨大な彫刻ですね。「暮らし」というテーマの中なので、椅子や机などプロダクトデザインをつくるクラスメイトが多い中で、日常の中で心を豊かにするために必要なもの = 自分なりのファッションとして解釈した作品でした。
一見すると、ひとりだけ違う回答をしているように見えるけど、そこは藝大ならではで、周りからすごく受け入れてもらえて。その体験をターニングポイントに、自分はつくりたいものに自然体で向き合っていこうと決心しました。
― そこから卒業後、今回のショーを開催するまでにクマ財団のサポートを受けて制作に取り組んでいたそうですね。制作面においてどのような影響がありましたか?
岡﨑:制作に集中できる環境づくりができたことが一番大きかったです。僕は、第四期生から支援をいただいているのですが、パンデミックが始まったのと同じタイミングだったこともあり、制作現場が基本的に家の中でした。もし支援がなかったら、時間、金銭面において今回のショーに出した数とクオリティはつくれなかったと思います。そう考えると、財団のおかげで活動初期から安定した制作環境が持てたことは、とても心強かったです。
あとは、さまざまなジャンルのクリエイターが存在していて、程よい距離感でお互いの活躍を刺激にできたことが心地よかったです。クリエイターそれぞれが各々のジャンルで自立した活躍できるように支援していることは、すごく素敵な財団の在り方だと思います。
―「JOMONJOMON」はこれまでルックとして発表されてましたが、今回ショー発表において改めてどのようなことを意識されましたか?
岡﨑:いままでになく「ファッションショー」に強く意識を置きながら、制作に取り組みました。これまでは修了展で発表したように、展示やルックとして表現してきたので「人が着て動いた時の造形美」までフォーカスできていなかったんです。
もちろんルックもある種、ファッションならではのフォーマットだと思うので、当時発表した作品も完成させてあるものです。ファッションショーも同時に、ファッションの歴史の中で長く続いてきた表現方法だからこそ、そこに真摯に向き合いたいと思いました。結果、ショーが終わったいま、大きな学びになったと感じてます。
― まさにルックでは佇まいの造形美がある一方で、今回は身体を拡張させるような造形美が感じられました。演出面でもこだわった点などありますか?
岡﨑:演出については、演出家の酒井さんと話して決めていきました。例えば、「JOMONJOMON」のタイトルの由来が、動いたときに「ボヨンボヨン」する擬音語から発想させていて。そのイメージから最初はゆったりした動きで構成を考えていたこともあるのですが、酒井さんとお話しする中で、あくまでも現代社会における身体の動きとの連動を大切にしようと思いました。
― 服の素材としても現代社会において親しみのあるものを使っていますよね。
岡﨑:そうですね。それは、「JOMONJOMON」のコンセプトにある縄文時代の土器に由来しています。当時、彼らも土器には日常で手にしていた土や縄を使っていて、それであるなら、僕も現代の日常にありふれているリブ素材、レース、軽量ニットなどの素材を用いて表現することが自然な行為だと思ったんです。
― そして、それらコンセプトの強い核軸となっているのが在学中の制作から一貫している「祈り」ですよね。先ほどのお話にあった通り、「人が着たときの造形美」により、「祈り」の意識に変化はありましたか?
岡﨑:在学中に発表していた作品は、意図的に少し高い台に乗せて展示することで祭壇に祀るようなイメージで造形美を考えていました。そこから、今回は「祈り」の対象が一方向ではなくて、アニミズムのように自然万物に宿る神と人間が近づくことで共生するイメージへと変化していきました。なので、モデル選びに関してもウィメンズ、メンズという意識よりも「ヒューマン」というカテゴリーで決めていき、彼らをこれまでのルックのように身体すべてを覆い隠すのではなく、人間の皮膚や身体のかたちを見せるようなバランスでスタイリングしていきました。
― 今回のショーで、在学中に発表したグラフィカルな平面構成が立体的に立ち上がってきた印象を個人的に感じました。
岡﨑:たしかにその意識の切り分け方は、グラフィックを学んでいる中で平面のレイアウト全体のバランスで考えてかたちにしていたことが繋がっているのかもしれません。ファッション用語であれば「シルエット」というところに、僕は「造形」という言葉を使っているんです。僕個人としては、「シルエット」と聞くと2次元的に感じていて、人が着た360度のイメージには「造形」という言葉がしっくりくるんですよね。服から広がる2Dと3D空間の違いは、今回のショーでより明確に感じました。
― その両方の意識を持ち合わせていることは、服を通して空間を捉える上でなにか影響を受けているように感じますか?
岡﨑:僕自身、モビールの動きが好きなんです。モビールの構造は彫刻的である一方、点で止まっていることで、自然の風でゆらゆらと揺らぐフラジャイルさもある。そして、その風による揺らぎを僕たちが見る行為自体、自然を愛でる行為でもあると思うんですね。そういったモビール的な動きのイメージは、僕の作品にも通ずる部分があります。特に今回ウォーキングによって、点で止まっているディテールが風に任せて躍動感をもつことで、身体の動きの拡張と自然を感じる想像、どちらも表現できました。
― これまでにアートギャラリーにて、ヘッドピースなどの展示・販売を行い、その後ファッションショーを経験しましたが、今後の展開はどのように考えていますか?
岡﨑:ショーを終えて、改めて今後はファッションのコンテクストの中でしっかりと戦っていきたいです。ブランド活動を継続しながらも、もっとファッションの枠組みにとらわれない自由な表現にも挑戦したいですね。まだ具体的にはイメージが固まっているわけではないけれど、とにかく自然体で真摯に表現と向き合っていきます。
― 本日はお時間ありがとうございました。