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活動支援生インタビュー Vol.6 しろこまタオ 「“Exhibition No.10 -/&○-“」
クマ財団では、プロジェクトベースの助成金「活動支援事業」を通じて多種多様な若手クリエイターへの継続支援・応援に努めています。このインタビューシリーズでは、その活動支援生がどんな想いやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。不透明な時代の中でも、実直に向き合う若きクリエイターの姿を伝えます。
活動支援生インタビューシリーズについての記事はこちらから。
>活動支援生インタビュー、はじめます!
Tao Shirokoma|しろこまタオ
デジタル機材を用いた独自の木版画技法で創作活動を行うしろこま。神話的物語性・現代的装飾性・デジタル木版画という3つを主な思索主題とした創作活動は、家族と暮らす自宅のアトリエから生み出されている。活動支援で新たな機材を導入したアトリエに訪れ、しろこまの創作スタイルや今後の展望を伺った。
インタビュアー・ライター:淺野義弘
――活動支援の枠組みで購入した機材について教えてください。
しろこま:EPILOG 社レーザー加工機 FusionEdge24を導入しました。加工エリア内にカメラがあって、細かな位置合わせがしやすいです。これまで使っていた30W機から60W機になったので、分厚い素材の加工スピードも上がりました。1800×900mmまで刷れるプレス機 SN-10B型も、力の調整がしやすく刷りやすそうです。
――大学院を修了してから半年以上かけ、アトリエを基礎から作ったと伺っています。
しろこま:セルフビルドに興味が湧き、本で調べながら半年ほどかけて完成させました。機材を置くことを前提に設計し、根太レス工法という方法で基礎から壁張りまでほとんど自分で作っています。元がログハウスのような造りなので、細かな位置合わせなどには苦戦しました。機材も揃い、アトリエの環境も整ったので、改めて次の制作を始めようというところですね。
――2021年11月に行われた個展「“Exhibition No.10 -/&○-“」を拝見しました。木版画からレリーフ、大きな立体作品までが並ぶ様子に驚かされ、しろこまさんは「版画家」という肩書きでは括れないように感じました。
しろこま:版画は薄いインクを何層にも重ねて作られますが、立体作品やレリーフも、レーザー加工機で切り出した部材を継いだり、重ねたりして構成されています。重ねるものの厚みが違うだけで、すべて版画の考え方の延長として制作しているんです。
版画作家としては珍しい試みだと思うのですが、作品の額縁も自分で作っていて、ここにも層を重ねた構造が表れています。中の絵とそれを差し込むマットや外側の額縁を分離したものとして捉えず、すべてを一緒にデータ上で作っていくやり方は、装飾性まで考慮した現代的な方法だと思っています。
立体作品は一つの板から切り出すのではなく、細かなパーツを何層にも貼り合わせて、少しずつ継ぎ目をずらしながら組み合わせて作っています。版画やレリーフは平面の重なりで厚みを持ちますが、立体作品はさらにそれを「組む」ような発想になり、軽量化のために内側を空洞にしたり、1mm単位で幅を調整したりという工夫も必要になりました。
――作品のボリュームは違っても、版画としての技法や考え方が通底しているのですね。初めて版画に関心を持ったきっかけは?
しろこま:大学2年生の頃に版画作家の父に教えてもらい、シルエットを重ねていく技法が自分のイメージの作り方とマッチしました。刷るときに左右が反転したり、インクの乗せ具合でイメージが変わったりするので、自分で予想できないものが紙に表れることに面白さを感じて、そこから自分なりの表現を探すようになりました。レーザー加工機も最初の頃から利用していましたね。
自分の作品では最後に模様を刷りとるような表現をよく使うのですが、これは正確にネガポジを反転した版木を作れるデジタル機材ならではの特徴です。また、凸版と凹版で挟んでプレスすれば、浮世絵の空摺(からずり)のようなエンボス加工ができます。特に銀インクに立体感を持たせると工芸品のような風合いになるので、気に入ってよく使っています。
――版木やレリーフの元になる、データ制作のプロセスを教えてください。
しろこま:あらかじめ何かをイメージして制作を始めることはありません。単純なモチーフや形状の組み合わせを普段から作りためておいて、それを画面上でかちゃかちゃと並べかえたり、色や大きさを変えたりしていくうちに、「こんな組み合わせがあるんだ」とハッとするものが見つかります。そういうものを探って、複雑に組み合わせていくことで、一つのイメージを作っていきます。組み合わせ次第で無限に広がってしまうので、4〜5個くらいをシリーズのようにまとめて制作することが多いですね。作品同士の並び順でも見え方が変わるので、展示のイメージは画面上でデータを並び替えながら考えています。
作品によく使う木目やひび割れのパターンは、普段の生活の中で面白いと思ったものを写真で撮って、デジタルデータに加工してストックしています。たまたま本屋で見つけたひび割れた本棚とか、自宅の木目とか、いろいろですね。駅のタイルの模様を木の板に乗せるような、全然関係のない場所にある模様を転用できるのも、デジタルならではの特徴だと思います。
自分で作った幾何学的なパターンも使いますが、デジタルで作るからといって全てが無機質なものになるわけではなくて。こういう有機的な木目やひび割れを織り交ぜていくと、自然的な模様も再現できるので、その組み合わせも面白いんですよね。
――単純な形状や模様の組み合わせに面白さを見出しているのですね。
しろこま:隣に並ぶものが少し変わるだけでも、シルエットの持つ意味や物語のようなものがガラッと変わることがあります。自分ではイメージを持っていなくても、意図しない組み合わせから意図しない物語が感じられて、そこから作品を作っていけるのが面白くて。
デジタルデータをものに置き換えていく過程でも、だんだんイメージが勝手に膨らんでいきます。たとえば単純な赤い丸をデータで作ったとしても、それを版木にして刷るとイメージが絶対に変わります。インクの厚みや乗り方、ベースとなる紙の色だったり、レリーフにするか立体にするかでも見え方は変わっていきます。
初めは厚みのないデジタルデータから、何回も変換の工程を経ることで、自分の頭でも追いつかないような複雑さが生まれてくるんです。デジタルで並べた状態では感じない物語みたいなものが出てくるんですけど、それは自分が意図したり、既にある話をモチーフとして書かれたものとは違っていて。そこで感じられる物語は、あらゆる人類に共通した、普遍的な神話のようなものなんじゃないかと感じています。
――デジタルデータからアナログな物質への変換の過程で、想像と違う結果になることもありますか?
しろこま:むしろ、初めに想定していたものを超えてくれないと、作品にはならないというか。デジタルのイメージそのままでは作品にならないので、変換で生まれる要素の面白さを感じながら制作しているのかもしれません。
――今後挑戦してみたいことを教えてください。
しろこま:版画の延長で立体作品を作っている人は少ないと思っています。かたちの並びから物語が想像されるという話をしましたが、立体作品同士の並びからもイメージが広がりました。立体を並べるだけで空間が立ち上がり、勝手に物語が広がっていく様子が面白かったので、複数の立体作品が生み出すイメージの変化については考えてみたいです。
――ボリュームの大きな立体作品へと制作の幅が広がる一方で、単色のシンプルなシリーズも展開していますよね。
しろこま:今までの作品でははっきりしたシルエットを使っていましたが、線の素材を並べるだけでもイメージが作れないかと思い取り組んでいます。顔や文字のように見える部分も、すべて線の集合体でできていて、線の組み合わせならではの面白さがあると感じています。
作り方としては、Adobe Illustratorで線だけのデータを作り、レーザー加工機で出せる一番細いラインで彫刻した後に、表面にだけ白インクをローラーで乗せています。けっこう綺麗な線が出たので作品にしていますが、新しいレーザー加工機を使えば、もっと細い線が出せるかもしれないですね。
――新たに導入した機材を使い倒して、素敵なアトリエから多くの作品が生み出されるのを楽しみにしています。本日はお時間をいただき、ありがとうございました!