インタビュー

未来のアイデアを伝える手段として、アンビルドの設計をしていきたい。〜4期生インタビュー Vol.10 丹羽達也さん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

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4期生41名のインタビュー、始めます!

丹羽 達也

 

1997年愛知県生まれ千葉県育ち。小学生時代の4年間を香港で過ごす。
東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻在籍。
建築の「時間/変化」にまつわる設計理論をテーマとし、歴史研究を通じた現代・未来の建築論への接続と自身の設計活動への反映を目指す。
「TOKIWA計画」で辰野賞(卒業設計学内最優秀賞)、せんだいデザインリーグの日本二、JIA東京都学生卒業設計コンクールの銀賞を受賞。「未完の団地」で建築新人戦2018のAIJ社長賞を受賞。

https://kuma-foundation.org/student/tatsuya-niwa/

 

 

 

時間の変化を予測して、設計に組み込んでいく

 

――「時間/変化」にまつわる設計理論をテーマにしているそうですが、これはどういった考え方なんでしょうか?

 

丹羽 高度経済成長期に日本の建築家が唱えた「メタボリズム」という理論があるんです。新陳代謝ができる都市や建築を造ろうという考え方なんですが、メタボリズムは失敗だったとも言われているんです。たとえば黒川紀章が設計した中銀カプセルタワービルは、住居ユニットを交換することで新陳代謝ができるという設計でしたが、実際のところ一度も交換されていません。経済性の問題もあって失敗したと思うんですけど、僕はメタボリズムの思想自体が悪かったとは思わないんです。

そうしたメタボリズムの設計は、アンビルドの提案が多いんです。アンビルドである以上、検証しようもないですが、設計者がどういう意図で設計していたのか、理論的な方面から探っていくという研究をしています。

 

――丹羽さんもアンビルドの設計をしていますが、どんなふうに「時間/変化」を組み込んで設計していますか?

 

丹羽 僕が初めて時間の変化を意識したのが、大学3年次の「多摩ニュータウンの団地を改築する」という課題でした。団地は最初に大量の棟を建設したがために一斉に老朽化が進んで、一気にリノベーションすることになります。建設当時はファミリー向けに建てられたとしても、その後、入居する人まで同じような世帯だと固定的に考えるわけにはいきませんよね。そこで、後から入居する人のライフステージに合わせて改築ができる「未完の団地」を提案しました。ポイントごとに徐々に改築していくというプロセスを含んだ設計になります。

 

――「未完の団地」はかなり余白のスペースが用意されていますが、この余白が将来的に活きてくるわけですね。

 

丹羽 余白を持たせておいて利用方法を自由にすることを、建築では「フレキシビティ」と言うんですが、余白を持たせすぎると、設計のコンセプトがわからなくなってしまうんですよね。オフィスがフレキシビティの典型ですが、フラットな場所を用意して、その中で自由にレイアウトするという設計になると、そもそも設計者は何を設計したのか?という話になってしまうので、そことの兼ね合いが難しいところです。

「未完の団地」今後30年間における建物と住民の「変化」を設定し、そのプロセスに応じて必要となる機能を改築・新築によって段階的に挿入していく。

 

――「TOKIWA計画」では、日本橋首都高の地下化事業を題材とした都市計画を提案をされていますが、どんな未来都市を構想しましたか?

 

丹羽 日本橋の高架が20年かけて撤去されるという都市計画なんですが、僕の問題提起として、20年後に本当に地下道路が必要なのか?という疑問があります。それこそ自動車が減少していたり、新しいスモールモビリティが登場して自動車がなくなる可能性もあるだろうし、20年かけて造った地下道路が無駄になるかもしれない。僕の姿勢としては、そうした可能性も考慮しつつ、必ずしもそうなるとも言えないという立ち場を取っていて、もし自動車がない時代になった場合を考えて提案しています。

 

――それで「船」が自動車の代替交通として提案されているわけですね。

 

丹羽 そうですね。もうひとつの問題意識として、20年間その場所が工事中になってしまうことがあります。従来の工事現場は仮囲いで隠され、20年後にやっと都市の変化が見えるというものでしたが、もっと変化が連続的に見えるようにしたいと考えました。

工事期間中は、建物を壊して撤去したり、地下を掘ったり、いろんな工事がありますが、その工事ごとに仮設物を建設します。たとえば穴が崩れないように鉄骨を入れたり、穴の上を工事車両が通る橋を建造するわけですが、そうした仮設物をすぐに撤去せず、痕跡として残していく。その痕跡を船着場として利用しようという提案です。

「TOKIWA計画」工事プロセスで生じる仮設物を副次的に建築化することで、自動車の代替交通としての船着場を発展させていく。「変化」が軽視される都市計画へのアンチテーゼとしての提案。

 

 

 

アフターコロナの時代における設計者の危機感とは

 

――今はアンビルドの提案をされていますが、将来的には、実際に建物を造りたいのか、それともアンビルドを追求していくつもりなんでしょうか?

 

丹羽 結局、実際に建てないと設計者とは言えないと思っているので、将来的には資格を取って住宅などを設計したいと思っています。一方で、設計者はクライアントの要望に応えるという面もあるので、自分のアイデアを100%は形にできないと思うんです。そう考えると、アイデアを伝えることだけが目的であれば、アンビルドの方がいい場合もあるはずです。経済的でもなければ法規に合っているわけでもない。多少、現実的でない提案であっても、あえて誇張して未来を描くという手法は、建築家のアイデアを伝えるひとつの手段として有効だと思っています。なのでアンビルドはこれからも続けていくつもりです。

 

――新型コロナによって誰も想像していなかった未来が訪れようとしていますが、今はどんなアンビルドを構想していますか?

 

丹羽 オフィスの需要がなくなるかもしれないということで、新宿の超高層ビルのコンバージョンについて、友人と共同で提案しました。これまでは発電所や工場などの産業機能を持った建物をフレキシブルな設計にして、美術館などに変えるというコンバージョンが多かったんですが、僕たちが構想したのは、もともとフレキシブルなオフィスに対し、逆に産業的な機能を持たせることでした。

そこで高層ビルの風を利用して風力発電を行い、その電気でプールの温度調整をしたりと、いろいろ付随して発想しました。アフターコロナを意識したので、働き方もかなり変わるだろうということで「働かない新宿」というタイトルを付けていますが、もちろん働くこともできて、たとえばプールサイドでリモートワークをしてもいいと思いますね。

「働かない新宿(丹羽達也+廣野智史)」新型コロナウイルスによりオフィスの需要がなくなるという想定から制作。

 

――設計者としてアフターコロナの時代をどう見ていますか?

 

丹羽 新型コロナが流行りだした頃は、建築の専門家の間でも未来が激変するかもしれないという話で盛り上がっていたんですけど、最近は少しずつ平常時に戻りつつあって、実はそんなに変わらないんじゃないかという声もありますよね。僕はまだ社会人ではないのでテレワークがいいのか悪いのかわからないですけど、オンライン化を進めるにおいては、実験的な期間として有効だったんじゃないかと思ってます。

一方で、これまで設計者が建物や都市計画の形を作ることで人をコントロールしようとしてきたわけですけど、オンライン化が進むとオフィスの形は関係なくなってしまいますよね。そうなることへの危機感があります。究極を言うと、建物はただの箱でよくて、中身はヴァーチャルな空間でいいという感覚になると、設計者は求められなくなるんじゃないかって(苦笑)。

 

――今後、丹羽さんの世代が未来を築いていくわけですが、どんな設計者でありたいと考えていますか?

 

丹羽 現状では、凝った建物が求められるのは、個人の住宅であったり中小企業の社屋だったりして建築家の仕事の場が地方中心になっています。都心は大企業や大きな団体がクライアントでゼネコンが受注するので、経済性が優先されて建築家の意向が反映されにくいという現実があります。そうなると画一的な街になって東京への愛着も生まれにくくなると思うんです。東京という大都市であっても、建築家が大きな企画を提案できるようになるといいですよね。

自分が設計者として何ができるかはまだわからないですけど、僕の姿勢としては、クライアントの要望に完全に応えるというより、多少は批判的な視点を持ちたいと思っています。クライアントが求めていることの本質や、その都市にとって重要なことは何なのか?といったことを自分の中で咀嚼して、自分なりに考えを出した上で設計していく。そういう姿勢を持った設計者になりたいですね。

 

――本日はありがとうございました!

新型コロナウィルス感染防止のため、オンラインにて取材。

 

 

丹羽達也information

■2020年度千代田区を舞台とした学生設計展

※WEB開催予定

 

Text by 大寺明

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