インタビュー

火星でヘリを飛ばすには? 宇宙飛行士を目指し、無人探査機を日夜研究。〜4期生インタビュー Vol.22 阿依ダニシさん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

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4期生41名のインタビュー、始めます!

阿依 ダニシ

1999年生まれ。
筑波大学理工学群応用理工学類3年。
専門は宇宙工学。

火星探査の常識を変えるべく、火星探査UAVの研究をしている。
この研究を通して2つの国際学会に参加し、世界の火星探査について調査した。
現在は、探査用機体のみならず、センサー類も開発している。
「この新しい火星探査の時代に、自分が作った火星探査UAVが示す景色はどのようなものか。」
OFFICIALSITE:https://marsuav2020.wixsite.com/website

https://kuma-foundation.org/student/danish-ai/

 

 

宇宙飛行士になる最適なルートとして、UAV技術者を目指す

 

――まずは宇宙に興味を持ったきっかけを教えてください。

 

阿依 父が鉱物学の研究者だったので、子供の頃から研究者の方と接する機会が多かったんです。宇宙系の分野に携わる研究者も多く、そういった方と話すうちに徐々に興味を持った感じでした。天体観測をしたり宇宙の本を読むようになって、小学校高学年のときには将来、宇宙飛行士になると心に決めてました。それからは「宇宙飛行士になるには、どういったルートが最適か」ということをずっと考えながら頑張ってきた感じです。

 

――火星探査機の研究をしていますが、やはり目標は火星に行くこと?

 

阿依 高校生の頃、イーロン・マスクがスペースXの火星探査を掲げたことで、火星の時代が来ると騒がれていたんです。それからはもう火星の研究一筋ですね。最初は火星の知見を深める基礎的な研究からはじまって、次第に探査機の技術者として火星に行くことを考えるようになりました。当初は4輪で走行するローバーの開発を予定していたんですが、火星について調べていくうちに飛行の重要性に気づき、個人的プロジェクトとして共同研究者とUAV(無人航空機)を開発するようになったんです。このUAVを実際に火星に持っていって、自分で操作して探査することを目指しています。

 

――なぜ飛行することが重要になってくるんでしょうか?

 

阿依 かつて火星にはいろんなフェーズがあったと考えられています。水で覆われていた時代や氷河期みたいな時代があった可能性もあるんですが、それを調査するにはいろんな地点のデータが必要になります。しかし、ローバーの着陸を考えると、探査範囲が平たい地域に限られてしまう。UAVで飛んで行くことができれば、いろんな地点が調査できるようになって、とんでもない発見が次々出てくると思います。

もうひとつ重要な点として、人類が火星に行ったとき、地球に戻るための燃料を現地調達することが今のセオリーなんです。火星にメタンがある可能性がわかってきているんですが、それを探してこないといけない。そのためUAVで広範囲に探査する必要があります。UAVは人類が火星に到達するための根幹技術になると思っています。

 

――今の時代だとドローン型を想像するんですが、なぜヘリコプター型を選んでいるんですか? NASAは気球も検討しているようですが。

 

阿依 マルチコプター型のドローンは、地球上では飛行が安定しやすいんですが、火星は地球に比べて大気が非常に薄い上に重力が3分の1なので、いくら工夫しても火星ではマルチコプター型は飛びません。気球に関しては、火星は風が吹き荒れていて大気の挙動がわからないため、何が起きるかわからない。また、東北大学の方が固定翼にして滑空する方法を研究しているんですが、おそらく火星ではマッハクラスのスピードでないと飛ばないことがわかりはじめています。そうすると残るはヘリ型になるんですが、これまで僕たちが開発してきた機体も残念ながら火星では飛びません。

 

――飛ばないことがわかって落胆はなかったですか?

 

阿依 1号機を作ったときから、ある程度わかっていました。問題はテールです。シングルヘリコプター型はテールローターを回すことで機体が回転しない構造になっているわけですが、火星で使用する場合、電力損失が大きいと考えられています。そこでNASAが採用したのが、2つのローターブレードを逆回転させて機体の回転を止める同軸反転方式です。2020年7月末にロケットが打ち上げられ、現在、火星に向かっている最中なので、結果がわかるのは来年以降になります。

今のところこの方式が最適と考えられているんですが、僕たちは2つローターブレードを交差させる交差反転方式に着目しています。同軸反転方式と交差反転方式、通常のヘリの方式をコンピューターシミュレーションで流体解析をかけたり、実際に揚力を測定する実験を実施したリして、総合的に判断したところ、交差反転方式も火星で飛ぶのに適している可能性を秘めていることがわかりました。これから新しい機体を開発してトライ&エラーを繰り返していけば、可能性は見えてくると思っています。

 

 

 

型破りなことに挑戦しなければ、火星への道は開かれない

 

――地球以外で人類が住める可能性があるのは火星だとされていますが、火星に水や生命は存在すると考えていますか?

 

阿依 今、火星の縦穴が注目されています。中に地下空間が広がっているかもしれないのですが、そこに水がある可能性もあります。さらに言うと地下資源が眠っている可能性もありますし、生命の痕跡が見つかるかもしれない。また、おそらく地下のほうが大気の密度が濃いので、人類が到達した際に地下空間に基地を造ることも考えられます。

今、僕たちは3号機の機体にカメラを取り付けて地形のデータをとり、それを3次元に起こすという作業を大量に行っています。これはローバーが通る最適なルートを導き出すために必要な技術なんですが、それと並行して機体の下にセンサーのモジュールを付けて、それを投下する実験も行っています。火星の縦穴に何かを投下することはまだ行われていないんですが、自分たちの機体なら可能なことなので、今後も試験を継続していきたいですね。

 

――JAXAが宇宙飛行士を募集していますが、着々と夢が近づいている実感があるのでは?

 

阿依 大学卒業後、研究職として3年以上勤務という条件があるので、自分はその条件を満たせないんですが、ダメもとで応募してみるつもりです。それでダメだったとしても、いろいろ調べて応募した経験が得られるので勉強になると思っています。また、アメリカのユタ州に様々なバックグラウンドを持ったクルーメンバーが集まって火星と同じような過ごし方をするMDRS(Mars Desert Research Station)という研究基地があるんですが、ほぼ採用が決まりました。来年9月にMDRSに2、3週間滞在して研究活動を行う予定で、コロナの影響でまだどうなるかわからないんですけど、興奮していますね。

 

――遠い夢の話ではなく、本当に実現に向けて動いているのがすごい。ちなみに大学では、どんなキャンパスライフを送っていますか?

 

阿依 友達からは「すげえ」と言われますけど、自分が目指しているのは本当に厳しい選抜がある宇宙飛行士なので、自分はまだスタートラインにも立ってないと思っています。この間も「トビタテ!留学JAPAN」の援助を受けて海外の学会に参加してきたんですけど、海外の同年代の人たちが自分よりもすごい研究を発表していて衝撃を受けましたね。

今、自分は火星用UAVの研究と、学生団体初の液体燃料ロケットエンジン開発プロジェクトのリーダー、小型人工衛星を作ったりする大学の研究サークルに携わっていて、朝から深夜3、4時までこの3つの研究と作業をしているんですが、たまに怠惰な一日を過ごしてしまうと、夜になってものすごく後悔する(笑)。深夜0時くらいにベッドから飛び起きて、朝まで徹夜で作業するということが多々あります。そうやって毎日頑張ってきて、これまでゼロだった論文も今年は4本書いて全て通ったので、いい方向に向かっていると思います。

 

――宇宙飛行士になるための最適なルートについては、今後もすでに決めているんですか?

 

阿依 最終目標である宇宙飛行になるには、ちゃんとした研究機関の経歴が必要なので、とりあえず大学院に進学して博士号を取るつもりです。今、アメリカのカリフォルニア工科大学と連絡をとっていて、NASAの探査機などの研究をしている機関と連携している大学なので、そこに進学すれば自分の研究とつなげていけると考えています。そこでまず実績を作って、問題はその後です。

宇宙ベンチャーを立ち上げることも考えていまして、今はベンチャー企業やベンチャーキャピタルの方々に会いに行って、どうすればビジネスになるか、成長できる企業を生み出せるかを日々模索しています。それが厳しいようだったら、自分で火星探査UAVの研究所を設立したいと考えています。アメリカのスペースXが有人宇宙飛行や離着陸可能なロケットを成功させているのに対し、日本のベンチャーや研究機関はロケットの発射ができるか否かで奮闘しているくらい大きな差があります。だったら日本でまだ誰も挑戦していないような型破りな方向に進んでいくしかない。それこそNASAに直談判するくらいの気持ちで挑戦していきたいと思っています。

 

――本日はありがとうございました!

 

 

Text by 大寺明

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