KUMA FOUNDATION クマ財団

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クリエイター奨学金は、学生クリエイターの育成を目的とした、給付型奨学金です。

ニュース

伊嶋 響2021.01.18

分断を越えて、人と人をつなぐメディアとなる作品を創りたい。〜4期生インタビュー Vol.26 伊嶋 響さん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

>>> 4期生のインタビューについての記事はこちらから。
4期生41名のインタビュー、始めます!

 

 

伊嶋 響

1994年東京都生まれ。
多摩美術大学情報デザイン領域修士課程修了。
現在はベルリン芸術大学に在学中。
テクノロジーやプログラミングを用いたキネティック/インタラクティブ/インスタレーションアートの制作を通して、人々の認知や認識に影響を与え、見えないものを想像/想起させる現象や体験、身体感覚について探求している。
OFFICIALSITE:http://i-hibiki.de/

https://kuma-foundation.org/student/ishima-hibiki/

 

 

ドイツに留学したことで、コンセプトを深く考えるように

 

――多摩美術大学の大学院を修了してからベルリン芸術大学に留学されていますが、ドイツの大学のどんなところに惹かれたんでしょうか?

 

伊嶋 大学院生のときに半年ほど交換留学で行ったのがベルリン芸術大学だったんです。そのとき感じたのが、教え方の違いでした。日本の美術大学の教育は、作品のスケールや完成度を重視する傾向があると思うんですが、ドイツの美術大学はコンセプトを重視するんです。なぜその作品を創ろうと考えたのか、なぜその問題意識を持ったのか、といった考えを深めていくことをサポートしてくれて、先生と生徒の関係もフラットなんです。私は日本で学んでいたとき、自分でも「コンセプトが弱い」と感じていたので、もっとコンセプトを考えることに時間を使いたいと思って留学を決めました。

もうひとつは、様々なフィードバックを受けられることがあります。日本では文化的に意見すること自体が反対しているように取られることがありますが、ドイツでは教師と生徒間だけでなく、学生間でもディスカッションが盛んで、一緒に考えを深めていくために議論するんですね。いろんな国から来た人や社会人経験を経た人など多様なバックグラウンドを持った人が沢山いるので、文化のぶつかり合いみたいな感じなんです。自分にはない視点からフィードバックを受けられることに魅力を感じましたね。

伊嶋さんが通う、ベルリン芸術大学。(新型コロナウイルス感染症が拡大する前の写真)

 

――ドイツでは考え方や意識が変わるような出会いや気づきはありましたか?

 

伊嶋 私はなんて自分の国の歴史について知らないんだろうと実感しましたね。ヨーロッパは地続きなので、国と国の関係を知らないとコミュニケーションが成り立たないというのもあるのだろうと思いますが、ドイツの人たちも含めて、ここで出会った人たちの多くが自分の国の歴史をちゃんと知っているんです。ドイツ国民として、ナチスの問題も知っておかなければいけないという気持ちがあって、みんなでその問題を考えて解決していこうという文化があるように感じます。

3年前に交換留学をしたとき、韓国人の学生と歴史について話す機会があったんです。その人が日本にいたとき、「昔、韓国は他国に占領されていた」と日本の学生に話したところ、「どこに占領されてたの?」と聞かれて苦笑したそうです。その話を聞いて、私も昔勉強して知ってはいたけど、すっかり忘れていたことを反省しました。私もこのまま意識せずにいたら、相手に失礼な言動をして傷つけてしまうかもしれない。それからは自分の国の歴史を学ぼうという意識に変わりましたね。

 

――そうした意識の変化は、作品に影響しましたか?

 

伊嶋 交換留学から帰った後、日本がしてきたこと、そして韓国をもっと知るために実際に韓国まで行ってきたんです。ソウルの戦争博物館に行ったとき、映像で日本兵を鬼畜と呼んだりしていて、こうした教育を受けた人は日本人のことを同じ人間として見てくれるのかな……と思ってすごく悲しくなりました。でも、日本でも韓国の人たちに酷いヘイト発言や差別を平気でをする人がけっこう多いですよね。この分断をどうすれば乗り越えられるだろう?と考えて創ったのが、平和の少女像をモチーフにした『Statue of̶e̶a̶c̶e̶』なんです。

 

――本来は椅子に座っている少女の姿がなく、体温のぬくもりと影だけが残っているという表現ですが、この作品で伝えようとしたことは?

 

伊嶋 元になっているのが「あいちトリエンナーレ2019」のセンサーシップの問題です。規制したとは言っていないけど、表現が規制されたことは事実で、この作品では少女像の不在と慰安婦の方たちへの否定を表しています。私にとって従軍慰安婦の問題は、韓国と日本の国際関係の問題ではなく、人権問題なんですよね。被害にあった人たちが同じ人間であることに想像がおよばなくなっているように思うんです。姿はないのに体温が残っていることは、存在を否定される慰安婦の人たちの不在を表しています。たとえ居ないことにしても、鑑賞者が椅子に座ると体温が残っている。そこに私たちと同じ人間が居たことを想起してほしいと思っています。

「Statue of P̶e̶a̶c̶e̶」慰安婦問題についての作品《平和の少女像》のオマージュ作品。椅子に少女像の姿はなく、影だけが椅子の後方へと延びる。

 

 

 

私たちのコミュニケーションを分断する“想像力の欠如”

 

――多摩美術大学時代のテクノロジーやプログラミングを用いた作品と比べると、かなり作風が変わった印象があります。これまでの作品はどんなコンセプトだったんですか?

 

伊嶋 学部の卒業制作で創った『”A” Creature』という作品は、動きによって生き物を思わせる別の個体を生み出すというコンセプトでした。生き物ではないので何も発信していないわけですけど、鑑賞者は意志や感情を感じ取ったりする。それもある種のコミュニケーションだと思っていて、当時は鑑賞者がその個体とどんな関係を結ぼうとするかに興味がありました。

そのコンセプトをもう少し深めて創った作品が『”A” Living CUBE』です。これは人がタッチした動きやリズムを機械が覚えて、キューブの内側から同じ動きをするという構造になっています。真似をするということは生物の普遍的な振る舞いなので、それを無機物に落とし込んだとき、人はそこに意志や感情を感じ取ることができるかに興味がありました。私は一貫して個対個のコミュニケーションをテーマにしていて、作風はけっこう変わったかもしれないけど、『Statue of P̶e̶a̶c̶e̶』においてもそれは変わっていないと思います。鑑賞者と作品との対話が生まれてほしいと思って創作していますね。

「”A” Creature」無機質なものではあるが、生き物を思わせる別の個体を生み出すという作品。多摩美術大学での卒業制作。

 

――これまでは、どちらかというと感覚的な表現だったのが、ドイツや韓国の経験を通してメッセージ性が強くなっていったようですね。

 

伊嶋 日本にいたときは、人に何かネガティブな反応をされたり反論されるのが怖くてメッセージ性の強い作品を創っていなかったと思います。生き物のような動きをする作品を創っていたときは、無機物が意志や感情を想起させるという現象に興味があったわけですが、今はその現象を生み出した先に何を表せるかを考えていて、コンセプトを伝えるために作品を創りたいと思うようになりましたね。

それは自分の考えが正しいから伝えたいという気持ちではなく、考えるきっかけになる場であったり、議論できる土壌を作りたいという気持ちです。私としては願いを込めて作品を創っていますが、それを見て体験した上でどう受け止めるか、どう考えるかについては鑑賞者に委ねたいと思っています。

 

――今後はどんなテーマに挑んでみたいと考えていますか?

 

伊嶋 私の中にあるメインテーマとして、メディアが私たちの関係性にもたらす影響について考え続けたいと思っています。私が考えるメディアというのは、テレビやPCなどのデバイスやインターネットのことだけでなく、自分の身体もメディアだと思っているんです。さらに広義で言うと、文化や先入観みたいなものもメディアだと思っていて、私たちのコミュニケーションの間には常にそれらがレイヤーのように介在しているというイメージです。逆に言うと、私たちはそれを介してしかコミュニケーションができない。それが個対個のコミュニケーションにどのような変化をもたらしているかに興味があって、それが制作の軸になっていますね。

 

――メディアのコミュニケーションへの影響というテーマは、今後どう作品に反映されていくと考えていますか?

 

伊嶋 この世界には多くの“分断”があると考えています。私たちの関係性を分断しているものは何かと考えると、それは教育や文化であったり、固定観念や先入観だったりしますよね。“想像力の欠如”が分断を生むひとつの要因だと思っていて、たとえば平和の少女像だと、少女像の見た目という視覚的な部分で思考が止まって、自分と同じ人間が関わっている問題なんだという想像力が働かなくなったり拒否してしまっている人も多いように感じます。私は自分の作品で何かを伝えたいと思ったとき、それを直接的に視覚化するのではなく、鑑賞者に想像してもらうためにはどうすればいいかを考えて制作しています。

これからも、どういうものが分断を生んでいるかを自分の研究テーマとして、より深めていきたいと思います。想像を喚起することによって分断を越え、人と人をつなぐメディアになるような作品を創っていきたいです。

 

――本日はありがとうございました!

ベルリン留学中のため、オンラインにて取材。

 

伊嶋 響 information

■ベルリン芸術大学「New Media class」
https://newmedia.medienhaus.udk-berlin.de/students/hibiki-ishima

 

■第26回 学生CGコンテスト ノミネート作品展覧会(オンライン展覧会)出展
2021年2開催月予定

 

Text by 大寺明