KUMA FOUNDATION クマ財団

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クリエイター奨学金は、学生クリエイターの育成を目的とした、給付型奨学金です。

ニュース

宇都宮 琴音2021.01.07

手描きの温かみのある絵本が創りたくて、童話の世界のようなプラハへ。〜4期生インタビュー Vol.24 宇都宮琴音さん〜

クマ財団が支援する学生クリエイターたち。
彼らはどんなコンセプトやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。
今という時代に新たな表現でアプローチする彼らの想いをお届けします。

>>> 4期生のインタビューについての記事はこちらから。
4期生41名のインタビュー、始めます!

 

 

宇都宮琴音

1995年東京都生まれ。
多摩美術大学テキスタイルデザイン学科卒業後、現在は、プラハ工芸美術大学のイラストレーション・グラフィック学科に在籍中。
リトグラフなどの版画作品や版画技法を用いた絵本を主に制作している。
手作業の温かさを作品を通してこれからも大切に伝えていきたい。
OFFICIALSITE:https://www.kotoneutsunomiya.com

https://kuma-foundation.org/student/kotone-utsunomiya/

 

 

プラハの公園を歩いていて、インスピレーションを得る

 

――多摩美術大学でテキスタイルを学んだ後、チェコ共和国のプラハ工芸美術大学に留学していますが、どんな目的があったんでしょう?

 

宇都宮 もともと私は絵本作家になりたくて、絵を描きたくて美大を目指したんです。それが多摩美のオープンキャンパスを見学したとき、テキスタイルデザイン学科の展示がすごくカラフルで魅力的だったんですね。服やインテリアやクラフトもあれば、布に絵を描いた作品もあって、この学科なら絵も描けるしファッションもできると思ってテキスタイルを学ぶことにしました。

テキスタイルの技法を使って絵本を制作するつもりだったんですが、いろんな技法を学ぶだけで大学4年間が終わってしまった感じでした。絵本を創りたいという気持ちがずっとあったので、絵本やアニメの素晴らしい文化を持つチェコに留学しようと思ったんです。今はイラストレーション・グラフィック学科に在籍しているんですが、教授も絵本作家だし、構内にはリトグラフや印刷ができる環境もあるので自分の作品が制作できています。

 

――絵本という表現のどんなところに惹かれますか?

 

宇都宮 子供の頃はみんな絵本に触れ合うものですけど、ページをめくると物語の世界が広がって、次のページ次のページへと吸い込まれていくような感覚がすごく好きでしたね。私はちっちゃい頃から絵を描くのが好きで、家にあるコピー用紙で簡易ノートを作って色鉛筆でオリジナルの物語を描いていたんです。毎日それを創っていたので、もしかしたらちっちゃい頃のほうが今以上にクリエイティブだったかもしれない(笑)。

 

――絵本を描くために留学したというプラハの街はどんなところですか?

 

宇都宮 街が本当にきれいなんです。中心街に昔の建物が残っていたり、オレンジ屋根のカラフルな建物が並んでいて、街並みがすでに童話の世界のようなんですよね。私はもともと東京に住んでいて、すごく人口が多くて狭苦しい感覚があったんですけど、プラハの人口は120万人ほどなので東京に比べると広々としているし、公園がたくさんあって自然もすごく豊かなんです。街を歩いているだけでも美術館の中を歩いているような感覚があって、すごく創作意欲がわく環境だと思いますね。

2019年12月のプラハの町並み。現在はロックダウン中ということもあり、閑散としているとのこと。(宇都宮さん撮影)

 

――そうした街の空気にインスピレーションを受けることはありますか?

 

宇都宮 『風がふいたら』という絵本を制作したんですが、これはプラハの大きな公園を歩いていたとき、風で木々が揺れていたり、凧揚げをしている子供たちを見てインスピレーションを得たんです。そこからイメージを膨らませて、たんぽぽの綿毛を連れていく風もあれば、凧揚げを手伝う風や誕生日ケーキのろうそくを吹き消す風もあるというふうに、いろんな風について紹介する絵本を創りました。

「風がふいたら」プラハにあるたくさんの公園の音や風景からインスピレーションを得て、色々な風についての物語を絵本にした。

 

 

 

――古いオフセット印刷で制作したそうですが、あえて手間のかかる方法をとる意図は?

 

宇都宮 古いオフセット印刷は、色ごとに版を分けて印刷する技法で、トレーシングペーパーに直接、絵を描いて一色ごとに金属の版に写していきます。印刷だけど、手描きに近い技法なんですね。他にもリトグラフで作品を制作しているんですが、これも石の上に直接、絵を描いて版をとる技法なんです。日本にいた頃は、ろうけつ染めの技法を使って布に絵を描いていて、どの技法にしても私は直接、手で描くやり方が性に合っているんだと思いますね。

 

――手描きというものに、どんなこだわりを持っているんでしょうか?

 

宇都宮 手描きに近い技法で制作したほうが、作品と自分との距離が近くなる気がするんです。念を込められるというか(笑)。手作りの温かみを出したいので、面倒くさくて大変だったとしても、私はそっちの技法を選ぶんですよね。

制作風景。直接手を使って描く方法を選び、作品を作り上げていく。(クラスメイトのYa Chu Kuoさん撮影)

 

 

 

 

コロナ禍で感じた、変わらない日常の意味を絵本にしたい

 

――宇都宮さんの絵は、子供が自由奔放に描いたようなタッチですけど、これも手描きの感覚とつながっている?

 

宇都宮 そうですね。ちっちゃい頃のほうがクリエイティブだったと言いましたけど、子供って上手く描こうとか、こう描かないといけないというルールがなくて、何も考えずにどんどん絵を描きますよね。楽しんで描いている感覚が絵に表れていて、私は子供たちの絵をすごく尊敬しているんです。私も子供の頃のように楽しんで描く感覚を忘れないようにしています。

「HOBIT」J・R・R・トールキンによる児童文学の『ホビットの冒険』の本を、学校の課題として制作。

 

――大人になると、心のままに自由に描くということが逆に難しくなってきませんか?

 

宇都宮 幼い頃はあまり経験もないので評価や決まりごとを気にせず自由に絵が描けますけど、大人になっていろいろ学ぶにつれて、こうしたほうがいいと考えてしまいますよね。デザインを学んだりすると、かえってそれがジャマになって子供の頃のようなピュアな描き方が難しくなる感じはありますね。なので私は、その中間くらいの感覚で描くようにしてます。デザインをちょっとは考えつつ、基本的には“楽しんで描く”ことを一番大切にしています。だから、気持ちが落ち込んでいたり、気が乗らないときは、描かないようにしてます(笑)。

 

――スウェーデンのインテリアブランドの企画で、テキスタイルの寝具などをデザインしていますが、自分の作品とプロダクト的な作品に違いはありますか?

 

宇都宮 スウェーデンのSvenskt Tennというブランドで多くのパターンデザインを手がけた故人のデザイナーの方がいて、その方の生地を選んでオマージュ作品を創るという企画で制作したものなんですが、私は黒地に花々が浮かんでいる生地を選んで、宇宙を表現しようと考えたんです。イギリスやアメリカなど世界各国の学生が参加していたので、私は日本人として宇宙の中に日の丸を表現しました。プロダクトの場合は形状やデザインを考えなくてはいけないですけど、自分の中の物語みたいなものを入れることは、絵や絵本とそれほど違わないと思っています。

「The Story of Flowers」Svenskt Tenn の展示 TEN TEXTILE TALENTS での作品。植物の世界の中で広がる宇宙の物語を表現した。

 

――今は、どんな物語を表現したいと考えていますか?

 

宇都宮 卒業制作の絵本を制作中なんですけど、コロナ禍で私が感じたことがテーマになっています。チェコスロバキアは多いときで1日1万5000人くらい感染していて、人口が1069万人ほどなので大変な数になります。私のクラスメイトが感染したり、私も濃厚接触者として隔離生活を経験することになり、いろいろ苦しい思いをしました。これまで当たり前だと思っていたものが一気に当たり前でなくなったとき、“永遠に続くと思っていた日常は本当に続くのかな?”と感じて、その感覚を絵本にしようと思っています。

 

――新型コロナの影響が創作活動においてもかなりマイナスになっているようですね。

 

宇都宮 かなりですね。今は大学もオンライン授業で再開して、人数制限制で施設も使えるようになりましたけど、その前は半年くらい休校していて、お店も開いてないし、隔離生活で家からも出られないという状況でした。本当はリトグラフで作品を制作したかったけど、大学の施設を使わないとできないので、部屋の中で色鉛筆とコピー用紙を使って絵を描いていたんですね。逆に紙と鉛筆さえあれば絵は描けるんだなって気づかされましたね。

作品が完成した際の記念撮影。何よりも”楽しんで描く”ことを大切にしているという。(クラスメイトのYa Chu Kuoさん撮影)

 

――日常のあり方そのものが変わりつつありますが、今の時代の流れをどう感じますか?

 

宇都宮 新型コロナの影響でオンラインで何でもできるようになってきてますよね。外に出なくても食事が買えたり、美術館がオンライン展示をやるようになったり、すべてが一気に変わっていく中で、伝統的な手作業によるものがどんどん失われていくような感覚があります。時代に逆らっている感覚もあるんですけど、そういう時代だからこそ、自分の作品では人の手で創ったものの温かさを届けたいと思っています。

 

――本日はありがとうございました!

プラハ留学中のため、オンラインにて取材。

Text by 大寺明