インタビュー
「建築漫画家、連載への挑戦」芦藻彬さんインタビュー
クマ財団の奨学生の取り組みを紹介し、クリエイターとしての思いや素顔に迫るインタビューシリーズ。初回はクマ財団2期生の杉原 寛さん、第2回は同じく2期生の伊東 道明さんにそれぞれのクリエイティブへの思いを伺いました。
第3回にご登場いただくのは、大学院で建築を学びながら、漫画家として活動されている芦藻 彬さんです。作業場での漫画の執筆の様子や、8月に参加されたクマ財団の夏合宿のこと、そして2019年3月に開催予定のKUMA EXHIBITIONに向けて構想している作品について、お伺いしました。聞き手は、財団職員の桐田です。
漫画でしか描けない、「世界の空気感」を表現したい
【芦藻 彬(あしも あきら)】
建築漫画家。スマホアプリ発の本格青年漫画レーベル「ジヘン」を中心に活動中。第一の芸術”建築”の持つ概念や価値観を、第九の芸術”漫画”によって描き出す。自家製本レーベル「羊々工社」を主宰し、紙の本の価値を問いただす。東京工業大学大学院建築学系に在籍。
ーー今日はインタビューをお受けいただきありがとうございます。こちらが今執筆している作品ですか?
芦藻:はい、WEBの漫画レーベル「ジヘン」で今秋連載予定の作品です。バベルの塔を建てる設計士を主人公にした漫画で、メソポタミア文明に関する資料や、好きな漫画などを参考にしながら描いています。絵本のなかには歴史的には実際と違うものがあったりするんですけど、絵の雰囲気を参考にしています(笑)。
ーー芦藻さんは子どもの頃から絵を描かれていて、中学時代に漫画を描き始め、大学時代には青年誌の漫画賞で佳作を受賞されたんですよね。漫画を描いていく中で、一番楽しいと感じているのは、どんなところでしょうか。
芦藻:そうですね。いっぱいあるんですけど、例えばペンを入れる瞬間が好きです。ペン先をインクにつけて、こう、スッと線を引くじゃないですか。引くときに、力の入れ加減で線の強弱、太さがとても変わるのでコントロールが難しくて、いつも緊張するんですけど。線がブレずに綺麗に引けていて、かつ強弱も、太くしたいところは太くできている。そういう線が引けたときは、めちゃめちゃ嬉しいですね。
ダイニングテーブルで制作中。
芦藻:あと、一番好きなのは、実は “世界観“ を作ってるときでして。頭の中で非日常の世界に飛ぶような感じで、「こういう変な惑星があったら面白いなあ」とか、「その惑星の中には、ものすごく深い海溝がある場所があって、その海溝はこういう構図で描くとかっこいいんだ」とか想像したり(笑)。そんな風に空想した世界観を、どんな絵と演出で表現していくかを想像していくのが好きなんです。
そうして創造した世界の、空気感や雰囲気を伝えたいという想いがありますね。その世界は楽しそうな場所なのか、ノスタルジーを感じるような場所なのか。漫画って、おなじ場面でもコマ割りによって伝わるものを大きく変えることができると思うんです。例えば1つのコマでも、映画にはないような横長のコマを使って、世界の広がりから寂しさを強調できる。そういうところが、漫画ならではの読後感であり、面白さだと思っています。雰囲気を出せるコマ割りと絵が演出できたときは、やりがいを感じますね。
中学時代に初めて描いた漫画作品と、大学時代に制作した漫画賞 佳作受賞作。
ーーなるほど。現在WEBで掲載されている読み切りの作品(『微分、積分、世界の終わり』)も、独特な世界観を演出する大胆なコマ割りがされているなと感じました。逆に、漫画を描く中で難しさを感じているのはどんなところでしょう。
読切『微分、積分、世界の終わり』、連載作『バベルの設計士』より一部
芦藻:想像した世界観をひとつのシステムとして表現することは、色々アイデアが出てきてすんなりできるんです。でも逆に僕の弱みとして、誰かと誰かのストーリーのなかで揺れ動いていく感情の部分を、きちんと自分のオリジナリティを持って描くというところがまだまだ難しいなと感じています。感情移入できるキャラクターをどう表現していくかというところは、これからよく学んでいきたいところです。
クリエイティブへの熱い想いを、互いにぶつけ合えたKuma Camp
ーーもしかしたら、その課題と感じているところは財団の他の奨学生たちと学び合えるところかもしれませんね。8月には夏合宿(Kuma Camp)もありましたが、いかがでしたか?
芦藻:最高でした!!…最高すぎませんか?(笑) 二日間ずーっと、ただひたすら会った人と熱い話をして。しかも、こちらから話を投げかけたら返ってくるんですよ、絶対。基本的に、思い切り自分の熱い想いをぶつけて、そのまま熱い想いが返ってくることって、日常ではそう多くないと思うんです。でもクマ財団では全員から返ってくる!もっと話したいのに時間が足りない!って(笑)。
今この人とまず2日くらい思いっきり話した後に、こっちの人とも2日くらいかけてじっくり話をしたい。そんな風に深く話を聞きたい人がたくさんいて、キョロキョロしちゃってましたね(笑)。そこで話した2期生の方と、コラボレーションの企画も立ち上がっていて。合宿後も直に会って話し合えるきっかけももらえたので、本当に素晴らしい会でした。
2期生 篠原 祐太さんとのコラボレーションも!
建築漫画家、イタリアへ
ーーそれは何よりです。合宿ではエキシビションで展示したい作品についての構想もシェアしていただきましたが、今はどんな作品を作ってみたいと感じていますか?
芦藻:最初は建築と漫画を絡めて、漫画のコマ割りを三次元で表現してみたいと思っていました。立体化されたコマの間を覗き込んで、ページの裏側を読むことができるような。
ただ講評のとき、KUMA EXHIBITIONのプロデューサーの方から「今後きみが表現していくのは漫画なのだから、二次元の漫画を展示して”この人の漫画をもっと読みたい”と思ってもらえるようにした方が良いのでは」というアドバイスをもらいまして。確かに、立体的な漫画を作る”現代芸術家”のような人なのかなと思われてしまっては勿体無いかもとも感じました。
僕が掲載いただいているWEB漫画は毎日広報できるし読んでもらえるんですけど、KUMA EXHIBITIONの会場になるスパイラルはそうしたWEB漫画に興味を持っていない人も来てくれる場所だと思うので……例えば自分の漫画の原画を一面に貼って、興味を持ってもらえる展示にできたらとも思います。さらに原画を一枚一枚売っていき、売られた部分が虫食いになっていく展示もありかなとも(笑)。
ーーそれは面白いですね!漫画の原画ならではのインパクトも感じられそうです。そこではどのような漫画を描いてみたいと?
芦藻:今年は建築を学びにイタリアの大学に留学するのですが、留学先であるベネチアの日常風景、その雰囲気や空気感を僕がやりたいコマ割りや演出の仕方で表現してみたいなと思っています。展示形式に関しては、まず白黒で全ての風景の原稿を書いた上で、カラーの原稿も作って、白黒の原稿の上にカラーのものを貼って。カラーの原稿が一枚売れたら、その原稿のところが白黒の風景になる、みたいな。そんな風に展示のアイデアはたくさん出てくるんですけど、まだ決めかねてる感じですね(笑)。
ーーイタリアでの学びも活かして、素晴らしい作品になりそうですね。連載予定の漫画は現地で描かれるんですか?
芦藻:はい。漫画は机があれば、どこでも描けますから。これまでも高速バスの中や、ゼミの合宿先などでも描いてきました(笑)。
ーーそれは頼もしい。またイタリアでの話も聞かせてくださいね。
<お知らせ>
芦藻さんの漫画は無料マンガアプリ『MANGA ZERO』より読むことができます!
(ダウンロードはこちらから!)
読み切りとして公開されている『微分、積分、世界の終わり』はもちろん、『特別先行公開「ジヘン新連載秋の陣」』にて芦藻さんの連載作品『バベルの設計士』の一部が公開されています。ぜひご覧ください。
(10/22 追記)
『バベルの設計士』の連載が始まりました!こちらからお読みいただけます。
『MANGA ZERO』のアプリをダウンロードして作品に「いいね」「コメント」を頂けると、それぞれここでしか見られない描き下ろしの感謝画像が表示されるとのこと。ぜひご覧ください!
<編集後記>
建築漫画家として建築と漫画のコラボレーションを行うだけでなく、装丁にこだわった製本サークルも運営されている芦藻さん。インタビューの間も自身の創作に影響を与えた様々な漫画や建築について、熱く話をしてくださいました。
将来は漫画家として活躍し、ゆくゆくは製本デザインと漫画制作の工房を持ちたいという壮大な夢もあるとのこと。これから連載に挑戦していく彼の活躍が、一層楽しみになりました。
クマ財団ニュースでは、今後も奨学生へのインタビューを定期的に掲載していきます。次回も、お楽しみに!
Image by 芦藻 彬
Photo and writing by 桐田 敬介