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活動支援生インタビュー Vol.7 高本 夏実 「ものづくりの原点」

クマ財団では、プロジェクトベースの助成金「活動支援事業」を通じて多種多様な若手クリエイターへの継続支援・応援に努めています。このインタビューシリーズでは、その活動支援生がどんな想いやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。不透明な時代の中でも、実直に向き合う若きクリエイターの姿を伝えます。

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Natsumi COMOTO | 高本 夏実

Tutti 2018

東京藝術大学の大学院に在籍し、自然に内在する普遍の価値を主軸に、感情を喚起するプロダクトデザインを模索する高本夏実。現在、2023 年春の修了作品展に向けて、自身の総決算となる作品制作に打ち込む日々を送っている。7 つの家具を展示する予定だが、それらはすべて“動き”をテーマにしたものだという。彼女のものづくりの信条は、自らの手で作ること。そのため制作はトライ&エラーを繰り返し、長期間に渡っている。そんな高本にものづくりに対する姿勢と修了展作品のコンセプトを聞いた。

インタビュアー・ライター:大寺 明

まずは自分の手で作ってみるという創作スタイル

――来年の東京藝大・修了作品展に向けて、現在、作品を制作中とのことですが、かなり以前から制作に取り掛かっていたそうですね。今はどんな段階ですか?

高本:作品のテーマ自体は3年ほど前から決まっていました。その後、他のいくつかの制作や展覧会と並行しながらリサーチ・試作づくりを少しずつ進め、昨春ごろにはいくつかのモックアップが形になっていた状態でした。
7つの作品を作るにあたり、最初期にはまず一年分のスケジュールを週単位で綿密に組み上げてそれに従う……というように、ある程度、手順を決めてから進めていましたが、そうそう計画通りにいくものでもなく……。現在は、まず2作品ほどの試作から着手し、それがある程度、形になったところで次のデザインを熟考していく……というやり方にシフトしていて、それがわりと馴染んできています。
これまでは、長期的なスパンでじっくり作品と向き合う機会をなかなか持つことができずにいましたが、ご支援のおかげもあって、今は精神的にかなりゆとりを持った状態で制作に励むことができています。大学内には木材・金属・ガラス・塗装等一通りの素材を扱える工房設備が整っているので、基本的には外注せずにすべて自分の手で作っています

――修了展作品については、後ほどまた詳しくお聞きします。その前に高本さんのプロダクトデザインに対する考えをお聞きしたいのですが、さまざまな表現がある中でプロダクトデザインを選んだきっけかは、どういうものだったんですか?

高本:大学進学前まではプロダクトデザインをやろうという考えは、実はまったくありませんでした。当時もっとも興味があったのは建築でした。中学生の頃、公民かなにかの資料集の隅っこにポツンと小さく掲載されていた安藤忠雄さんの「光の教会」を目にしたことがあったんですが、今でもはっきりと思い出せるくらいの強い衝撃を受け、それ以降は建造物への憧れを強く持つようになったんです。……それからは紆余曲折を経て、結局、建築ではなく藝大の油画科を受験し失敗。その後、デザインの道を選ぶことになったのですが(笑)。
大学のはじめの2年間は、自分の専門を見定めるためにグラフィック・映像・絵画・ランドスケープ・メディアアートなどなど、一通りのデザインを授業や課題を通じて学んでいくのですが、その過程で「私には建物は作れないけど、その中に置かれるものを作ることはできる」と漠然と感じるようになり、その気持ちが継続して今に至ります。建築にせよデザインにせよ、ものをひっくるめた空間そのものを作りたいという気持ちは昔から変わっていませんね。

FOG 2019

――プロダクトデザインという表現の魅力を、どんなところに感じますか?

高本:系統にもよりますが、自分の意図をものに反映させるといった点で比較的融通が効きやすい点でしょうか……。規模が大きいものになってくると、そのぶん関わる人の数も金額も桁違いに大きくなるので、そのへんの兼ね合いがなかなか難しいと思うんですが、(プロダクトデザインは)実装したいことの比重と対象の規模感、あとは現物との距離感などのバランスが、今の自分には一番合っているんじゃないかなと感じています。

sapia 2019

――これまでの作品では、蓮の花をイメージした「HASS」や、セミから着想を得た「sapia」など、デザインに自然の要素を取り入れた作品が見られますね。自然がテーマの一つになっているんでしょうか。

高本:私はものを作る際、コンセプトは後回しでひとまず手を動かすタイプなんですが、あるとき「なんで私はこの形を作ろうと思ったんだろう……?」と自分でも気になりだした時期がありました。そこであらためて過去の制作の痕跡(作品のアイデアスケッチはすべて残しておくタイプです)をひとつひとつ振り返ってみると、コンセプトメイキングをしていないがゆえの余白部分に、自分が経験してきたことの蓄積が他のものに先行して紙の上に無意識に表れていたことに気が付きました。私自身は田んぼと山しかないような田舎で育ったので、そうした中で一番身近に触れてきたものたちが作品に反映されること自体は、ごく自然なことだと思います。
それらを意図的に作品のコンセプトとして組み込んだのが、「anima」という“使えない家具”をテーマにした作品でした。

Anima 2018

とてもささいで個人的なことなので、説明が難しいんですけれど……、たとえば、水や空気って身近にあるのが当たり前すぎて普段意識することってほとんどありませんよね。土や水といった、生物が生きていくための基本の環境がまず存在しているという前提の上で、私はラスコーの壁画のような、祭事的な、あるいは天変地異的なものを造形したいのかもしれない……ということに、最近になってようやく気づきました。祭り好きですし(笑)。
つまり、そこにあることを意識させないくらい自然な、あるいは医療器具のように使い勝手重視のものづくりがしたいわけではないのかもしれない、ということです。元来あまり思索的なたちではないので、そのことに自覚的になるまでには、ずいぶん時間がかかりました。

――手を動かしているうちに形ができていくという創作スタイルは、ものづくりをする人特有の感覚なのかもしれないですね。

高本:私は自分の手に負えるもの、自分が責任を持てる範疇で何事も完結させたいという気持ちが比較的強くあって、それが良くも悪くもものづくりへの基本姿勢にもなっているんだと思います。まず自分の手で触れて、いじって、遊んでみて、作業工程や素材の扱いを体感した上で、それを初めてデザインに落とし込んでいくというやり方が、最近になってやっと身についてきたかな……という感じです。
まだ知識が乏しく付き合いも浅い素材を扱う際には、素材の扱いに熟達した工房の先生方の元へ完成形のラフスケッチを持ち込み、製造方法の検討を進めていくわけですが、たいていはディスカッションを繰り返すうちにどんどん形が変わってきます。これが吉と出る場合ももちろんありますが、自分の手に馴染む前に生まれた素材の偶発性を、他の制作にも転用・応用して深めていくことは、なかなか難しい気がしています。
そういったこともあり、なるべく制作現場と図面の間の反復運動を大切にしているのですが、それでもどうしても迷った時には、頭をリセットして最初のスケッチに戻るようにしています。結局、初手の直感が一番間違いがないというか。
また、プロダクトは量産の可否を考えなければいけないこともあり、製造方法を知識として知っているのと体得しているのとでは、素材や、それらを扱う職人さんへの眼差しも自ずと変わってきます。自分でやってしまう方が効率的だから、ということももちろんありますが、扱える素材の幅が広がると、そのぶん造形の幅も広がってきます。それが私にとっては何より楽しいですね。

――家具やプロダクトは、なんらかの機能があるわけですが、部屋に置いて生活を彩るものでもありますよね。心が落ち着くといった精神的な面もあると思うのですが、高本さんの作品は、心に問いかけるような印象があります。

高本:熟練の木工職人による手仕事の結晶、非の打ち所のない美しくモダンな椅子のようなものづくりに憧れた時期もありましたが、先程もお話したように、私の中でのものとの距離感は、普段使いのそれとはやはりちょっと違うところにあるんです。
明かりが灯る棚「Memoria」や倒れない花瓶「Wobble Vase」、使えない家具「anima」などの作品に通ずるキーワードとして、無機物に宿る生命感の具体化(もし彼らが意思を持っていたら?)という、静物の内側に霊魂を感じさせるような共通のテーマのようなものが軸にありました。たとえば「anima」は、人間にとって扱いやすく製材・規格化された、本来は有機的であるはずの樹木たちが、人間の都合の良いように使われることを拒否し、ささやかに反撃する、という明確な意思を感じさせる家具。それまでの混沌とした作品づくりからは一転し、見る側に問いかけるような作品を、頭の中で整理しながら意識的に作っていた時期でした。

Memoria 2021

修了展作品のテーマは「MOTION=動き」のある家具

――それでは、修了展作品についてお聞きします。「MOTION=動き」をテーマとした家具ということですが、どういったイメージを表現しようとしていますか

高本:これまでは、無目的に描いたスケッチから曲線や面を抽出してとりあえず立体に起こし、そこではじめて家具としての機能を物質にまとわせていく……といったコンポジション的な立体づくりを行っていましたが、鑑賞者側を置き去りにしてしまうこともしばしばでした。
ものと人とがどういう距離感で、どういう感情で、どういったインタラクションを生む空間が自分にとって望ましいのかを、デザインを学んでいる以上はもうすこし引いた視点から検討する必要がある。これまでに触れてきた様々な作品や展示を振り返って、近年はそう感じるようになっていたところだったので、作品と鑑賞者をつなぐ明快なテーマとは……?と考えたとき、あまり悩むことなくすんなりと答えが出ました。
家具を扱うときの人間の動作とそれに連動するモノの動きには、子供向けの玩具に近い使用感があるなと感じていて、そういった遊びの要素を取り入れつつも、それぞれの機能を持ち、かつ造形的なバランスも意識した家具を表現したいと思っています

――7つそれぞれの家具を教えてください。

高本:椅子と机、棚、照明、動く時計のようなオブジェ、他にモビールのようなものも作る予定です。どれもまだ完成していない段階なので、変更する可能性は十二分にありますが。今もっとも制作が進んでいるのは、動くオブジェと机です。これまでの作品は基本的には動きのない静的なものが多かったのですが、今回はどれも動きが伴うので、ただ鑑賞に耐えうる立体物を作ればいいというわけではなく、繰り返しのトライ&エラーが必要になってきます。これが思ったよりも大変ですね(笑

――7 つの家具によって“空間”を表現しているように思うのですが、今回の修了展作品は、「すべての造形芸術の最終目標は建築である」というバウハウスの理念を研究テーマにしているそうですね。

高本:バウハウスは、工芸・絵画・テキスタイルなどの芸術産業を建築に内包・統合させるという体系的な理念に基づいた総合芸術教育機関なのですが、カリキュラムだけで言えば、今の大学での学びのプロセスと非常に通ずるものがあります。私自身、ものづくりは常に包括的な視点から成すべきという考えを持っているので、これらの理念を読み解くためには、今一度同じ道を辿ってみる必要を感じました。
バウハウスの創立は 100 年以上も前のことです。当時の建築や家具への価値観と、様式そのものが飽和状態の現代とを比較した上で、どういうものづくりの在り方が提示できるのか。継承すべき理念と刷新すべき対象は何なのかを、自身の制作を通じて内省・提示していきたいと考えています。

――「MOTION」のある家具によってどんな空間ができるのか、また、どんな家具と人との関りが生まれるのか期待しています。

高本:結局、デザイン自体が人類史的にはごく近代に生まれたものなので、いっそのこと縄文時代や弥生時代くらいまで遡ってみたい気持ちもあります。椅子や机がなかった時代から、どういうモチベーションで家具を設計したり、装飾したりするようになったのかを踏まえて、国ごとの様式を超えたところにあるプリミティブな道具の在り方へも視野を広げていきたいと思っています。

HASS 2019

――今は修了展作品の制作に打ち込む日々ですが、今後の展望を聞かせてください。

高本:これまでもそうでしたが、今後の社会は様々なものがより一層均質化していくんだろうと思います。街の風景を切り取っただけじゃそれが一体どこの国なのか、もうとっくによくわからなくなっている。多様な価値観の共有が必ずしも強いコントラストを生むわけではない、むしろその先には限りなく飽和した、フラットでグレーな世界観が広く横たわっているんじゃないか……とか思ったりします。新しいものへの新鮮な驚きがなくなったとき、ものを見る目も同時に鈍ってくるんじゃないかという恐れを抱きつつ、逆にそこに切り込んでいく余地もまだまだあるのだろうなという期待感もまたあります。
デザインは最低限、説明可能であることが望ましいと頭では理解しているのですが、それはあまりダイレクトに消費者へ向けたものであってほしくはない。たとえば、人間工学に基づいた安全で使いやすい道具はどれも似た形状に落ち着くけれど、そういう均質化はあくまでも道具としての平均値であって、デザインの醍醐味ではない気がしています。(説明における)言葉はものの余白を広げもするし、潰しもする。それに対して私ができることは、せいぜいその表現の幅の端っこ部分を押し広げていくことくらいなのかな……と。
作品鑑賞後、何年後かのふとした瞬間に「あれって一体何だったんだろう……?」とぼんやり頭をよぎる程度の不明瞭なもやもやを作品の中に密かに忍ばせておくような、そんなものづくりをしていけたらいいなと思っています。

――来年の修了作品展を楽しみにしています。本日はありがとうございました。

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