インタビュー

活動支援生インタビュー Vol.13 大日方 伸・篠原 祐太「新しい 色/食 体験を。」地球色を堪能するフードエキシビジョンを終えて

クマ財団では、プロジェクトベースの助成金「活動支援事業」を通じて多種多様な若手クリエイターへの継続支援・応援に努めています。このインタビューシリーズでは、その活動支援生がどんな想いやメッセージを持って創作活動に打ち込んでいるのか。不透明な時代の中でも、実直に向き合う若きクリエイターの姿を伝えます。

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Shin Obinata | 大日方 伸

クマ財団3期生 大日方 伸

Yuta Shinohara | 篠原 祐太

第1期・2期生 篠原 祐太

2022年4月23日に、東京・馬喰町の“地球を味わう”レストラン体験体験を掲げるANTCICADAと、3Dプリントテクノロジーを駆使するデザインスタジオ積彩によるコラボ企画「EARTH COLOR 地球色を堪能するフードエキシビジョン」に参加した。

食用昆虫が身近ではない食文化にいた私にとって、虫を食べるという経験は、例えば見た目がわからないように加工されたものでも、少なからず自分の食の経験値がテレテレッテッテッテーと上がる気がする、かなりの非日常で刺激的なエンタメだ。そんな中、ANTCICADAの料理は、食材としての昆虫に、否が応でも真正面から向き合うことができる。それは、ワークショップにも近く、何を食べているかを明確に教えてくれる。

EARTH COLOR 地球色を堪能するフードエキシビジョンの様子

昆虫には、とても美しい色を持つものがいる。周囲に紛れる擬態としての鮮やかな緑だったり、捕食者に危険を警告する赤や黄色、模様など。積彩は、積層技術からなる3Dプリンテイングだからこそできる色の動的表現を食器という形で具現化することを試みた。当日、レストランの片隅にもプリンターが置かれ、静かにフィラメントを紡ぎながら成形までの道のりを目の前で見ることができた。昆虫という共通項から生み出される食体験のホストであるお二人に、今回のコラボについてお聞きした。

聞き手・書き手: 野上優佳子

出会いは高校生の時。クマ財団で再会し、新たな試みを共に

――そもそもお二人が出会うきっかけはなんだったのでしょう?そして、今回のコラボはどのような経緯で実現したのですか?お二人が出会うきっかけも合わせて簡単に教えていただけると嬉しいです。

大日方:元々高校生の頃からイベントなどで知り合っていて、クマ財団で再会できて嬉しかったのを覚えていますね。高校生の頃から篠原くんはタッパーに虫を詰めて配り歩いているような人でした(笑) クマ財団で再開した後は、カリキュラムの中の合宿などでお互い昆虫の持つ魅力について語り合いました。僕は「色」、篠原くんは「食」の観点から魅力を探求しており、

その中から「新しい 色/食 体験を。」という言葉をきっかけにコラボレーションがスタートしました。色と食は密接な関係にあり、視覚が味覚体験に与える影響は計り知れません。「食は冒険だ」と語るANTCICADAの新しい食体験に、「色で驚きを」と制作を続ける積彩の新しい色体験を加えることによって全く新しい味覚と視覚のマリアージュを生み出すことができるのでは?という思いから、今回の企画が実現しました。

積彩が今回制作した器には「生命のスープ」が盛り付けられた

色と食、同じ音であり五感である共通項。実際にこのフードエキシビジョンを体験した私は、さらに「触」を加えたい。ふだんは近寄りがたい(私は実は極度に虫が怖い)存在にこんなにも能動的に近づいて触れたのも、編み物のように折り重なりながら重厚な色のコントラストを発しているのに非常に軽い器に触れたのも、初めてだったので。

――お二人それぞれのコラボを終えての率直な感想を教えてください。 

篠原:積彩さんの器はそれ自体とても迫力があり、既に作品として完成されている中で、そこに合わせる必然性のある料理をつくる作業はかなり難航しました。

実際、どの料理も、器があってそこに乗る素材があって初めて完成するものですが、これだけ単体としても魅力的な器に料理を載せるのは初めての試みでした。ただ、その難しさも含めて存分に楽しませてもらい、最終的には、納得のいく表現ができたと思います。

また、それをお客さんにも体験いただき、初めての食体験だったと言っていただけたのも純粋に嬉しかったです。コラボを終えてみて、料理の観点からも、器の観点からも、新しい可能性が開けた気がしますし、別の形での表現もできないかなと、今後の展開にもワクワクしています。

大日方:ANTCICADAの料理を初めて食べた時、「食は冒険だ」という言葉にとても納得がいったのを覚えています。全てが新しい体験に満ちていて、食べるという行為がこんなに楽しいものなのか!と驚いたんです。

そこからこのコラボが実現して、僕らの器を冒険の一部に加えてもらい、お客さんが喜んでいる様子を見ることができたことにとても満足しています。

ただこのコラボは始まったばかりで、まだやれることがたくさんあるなと課題も感じました。今回のイベントをきっかけに、これからもANTCICADAとのコラボを楽しんでいければいいなと思っています。

EARTH COLOR 地球色を堪能するフードエキシビジョンの様子

一時的なエンタメ消費材でなく、食材として「昆虫」を見つめ直す

ここで改めて、お二人それぞれに、私が興味をそそられた部分を伺っていくことにしようと思う。

私たちの「食べる」行為は、いくつも大きな課題を抱えている。
代表的なものに、地球温暖化と食糧危機がある。

大量生産と大量廃棄のツケは、とても大きくのしかかっている。
人間の、食べるという欲望とタンパク質やカロリーなどの栄養を賄う食肉用動物を飼育するためには、当然飼料が必要だ。その飼料に世界中の農地の80%近くが使われていながら、食肉から得るカロリーはわずか全体の17%と、非常に効率が悪い。食肉用飼育動物は、地球温暖化の大きな要因である温室効果ガスの15%近くを排出する。(そのほかにも、同じ種の個体が過密するストレスや肉体的外傷、感染症や抗生物質への耐性菌拡大とヒトへの感染懸念など、付随リスクも多い)人口増加や、穀物から肉食中心への食事へのシフトが世界各地で予測される中、注目されたのが、タンパク質源としての昆虫だった。

なんてことを、なんとなく私たちはニュースやなにやらで見聞きしているが、本当に昆虫を食べる日が迫っていることを真正面から受け止める機会として、ANTCICADAのコース料理はとても有意義だ。

――ラーメンで大きな話題作りをしてきた篠原さん。さらに食事としてのエンタメ性を強め、ワークショップに近いコース料理体験の提供に進化したきっかけや理由を教えてください。

篠原:コオロギラーメンで表現できることの限界を感じたからです。

老若男女への間口の広がりは感じつつも、コオロギラーメンだけだと「珍しいラーメンを食べられて面白かった」と非日常なイベントごととして消費されてしまう感覚がありました。しかし、僕らが探究していきたいのは、コオロギを含めた日の目を浴びていない生き物たちの食材としての魅力と可能性だし、最終的には、それらが選択肢として受け入れられる世の中。そこで、品数が多く、その食材の背景や想いもセットで伝えることができるコース料理という形式を取ることで、よりまとまった情報量と熱量のこもった体験をお届けすることに決めました。

KUMA EXHIBITION 2018での様子

――「食材の背景や思いも合わせて伝わるコース料理」、まさにその通りでした。今回、私は虫の見た目に対する心のハードルがとても高いため、非常に緊張感を持って食事をしました。一方で、少しずつながら確実に虫を「食材」として見てみることに近づけたような気がします。パウダー化などで昆虫を意識させない食品が多い今、あえて虫の存在を生かした料理を提供してらっしゃるのはなぜですか?

篠原:僕たちが一番大事にしているのは、虫の個性を活かすこと。そして、虫の個性をお客さんに感じて、楽しんでいただくこと、です。もちろん、まだまだ心理的なハードルがある食材であることは重々承知しています。なので、味を楽しんでいただきたい場合は、コオロギ醤油やコオロギ出汁のように、形をなくし、心理的抵抗感を和らげる工夫をしています。しかし、中には、噛んだ時の食感が魅力的なイナゴや、丸ごといただいた時のテクスチャーが魅力的な蜂の子のような昆虫もいます。そういう虫たちを一様にパウダーにしてしまうと(確かに食べやすくなるかもしれないですが)そこに虫の個性を感じづらくなり、その虫を殺してしまうことになると考えるからです。 

EARTH COLOR 地球色を堪能するフードエキシビジョンの様子

――コオロギをはじめとし、食材としての昆虫活用の社会実装に向けた動きがさらに盛んになっています。今後、どのように私たちの生活に浸透していくでしょうか。

篠原:栄養価の高さを売りにした健康食品路線。環境負荷の低さを売りにしたサスティナブル路線。その両軸での広がりは今後も起こっていくと思います。しかし、食糧難だから虫を食べないといけない。環境問題が深刻だから虫を食べる。という空気感は、消去法的な寂しさも感じています。仕方なくとか言うなら食べなくてよいよ。虫に対して失礼だよって思うんです。

もちろん、そういう切り口も大事だと思っています。ただ、僕らとしては、それより何より、シンプルな美味しさなど、食材としての唯一無二性や魅力を掘り下げ、そこをまっすぐ伝えていく中で、少しずつでも広がっていけば嬉しいなと思っていますし、そうなるように精進します。

――環境問題が深刻だから虫を食べる。という空気感は、消去法的な寂しさも感じています。仕方なくとか言うなら食べなくてよいよ。虫に対して失礼」。私もまさにこれを思います。人が自分に必要なタンパク質をとるために、まあこれでもいいか、というニュアンスを感じてしまうと、そんな失礼な話があるだろうか、と。食材に敬意と愛を持って、みなさんが食体験を提供していることが伝わるお言葉でした。では、ANTCICADAは今後どのように進化または変化するでしょうか。

篠原:日の目を浴びていない生き物たちの食材としての魅力を探究し、それを世の中に届けていく中で、動物も、植物も、虫も、あらゆることに分けへだてなく向き合える社会につなげていきたい。しかし、その挑戦は壮大で、僕らだけではできないことだと思っています。

今回のコラボレーションもそうでしたが、様々なジャンルの垣根を超えたコラボレーションや、共感してくださるお客さんを巻き込んだ挑戦を積極的に行っていく中で、まだ見ぬ景色をみてみたいし、そんな新鮮な発見と驚きを大切に、これからも変化し続けたいです。

食事を提供するだけでなく説明を交えコミュニケーションを図る

人と「作品」を食体験でつなぐ。3Dプリンティングがもたらす価値

大量生産と大量廃棄からの脱却。食料と食器は、今同じ課題を抱えている。

これまで陶磁器にせよプラスチックにせよ「作って、使って、捨てる」というリニア型の仕組みで多くの食器は流通している。しかし、陶磁器の原料となる粘土や石が、成形や着色加工されたプラスチックの大半は石油原料で、どちらも資源は枯渇し始めている。

私たちがふだん使っている食器、その末路を考えたことはあるだろうか。陶磁器は割れたら不燃ゴミに出す。飽きても、手放す時は不燃ゴミだ。軽くて丈夫なプラ樹脂の器を処分するときはどうだろう。自治体によって違うだろうが、私が住む自治体では燃えるゴミだ。主な処分方法が埋め立て又は焼却という終わりしかない。これも悩みの種だ。

3Dプリンティング技術は、元々、量産を最優先したものではない。だからこそ、もしかしたら、課題を解決するヒントを提案してくれるかもしれない。大日方さんに聞いてみた。

 

――これまでの作品を拝見すると、オブジェが中心のようですが、今回のコラボ以前に食器をつくったこと、作ろうと思ったことはありますか? 

過去作品: 遊色瓶

大日方:食器を作ったのは今回が初めてです。ただ、僕らが作るものはオブジェというより、人と作品との「体験」を一番に考えていて。角度によって色が変わる作品は見るだけでなく、手に取って回してもらうことで魅力が高まります。それが服や家具になることでいろんな人の行動と共に作品の価値が高まっていくことが好きで、食器という選択肢もそういう思いから必然的に出てきたものです。

――食品の熱や形状、そして食べる人の感触も使い勝手に直接的に関わる食器。これまでの制作物との大きな違いや難しさはありますか。

大日方:熱や衛生面が一番苦労しました。プラスチックは熱に弱く、3Dプリントで作る食器は滅菌が思うようにできないため、難易度が高まります。今回は食品衛生法に適合したニスを上塗りすることで対応しましたが、長く使用することを想定した場合充分ではないかもしれません。この部分は材料面の改良が必要で、今後の課題になっていくと思います。 

EARTH COLOR 地球色を堪能するフードエキシビジョンの様子

――食器が持つデザインとしての役割に、料理の色彩を邪魔しない、または引き立てる、食べる人が食べやすい、などがありますが、3Dプリンティングだからこそできる、料理に対する新たな役割や可能性は?

大日方:引き立て役にすぎない器を、あえて今回は主役と肩を張るライバルみたいなものとして扱ってみたかったんです(笑)

例えばポートレート写真を撮るとき、写真館に行って白バックで撮れば誰も文句のつけようがない素晴らしい写真が撮れますが、全部それだけだとお利口さんでつまらないですよね。波荒れる崖をバックに撮ってみたり、真っ赤な夕日をバックに撮ってみたりすることで、その人の「らしさ」がより伝わるはずです。3Dプリントが得意とする一品生産は、その「らしさ」を引き立て、演出することにとても向いています。料理だけではなく、食べる人や食べる時間、空間に合わせた過剰なほどのオーダーメイドの食器などが今後考えられると思います。 

――受動的に湧水のように繰り出されるモノに、私たちは押し潰されそうですが、大日方さんの「オーターメイドの食器」という言葉は、まさに大量生産大量廃棄と対極にあり、課題解決のヒントになるような気がします。食と3Dプリントテクノロジー、フィラメント素材によって食器以外にもさまざまな組み合わせが期待できますが、組み合わせを試してみたい素材やプロダクトはありますか?

イベント内では3Dプリンターが稼働し制作プロセスも実演された

大日方:セラミックを扱うことのできる3Dプリンタがあり、とても気になっています。粘土を押し出して積層し、できたものを釜で焼くことで陶器を作ることができます。これを扱えば今回ネックだった熱の問題などを克服することができ、ANTCICADAのコオロギラーメンなどアツアツの料理を入れる器だって作ることができます。これはすぐにでも試してみたいですね。

――最後にお二人にお聞きします。3Dプリンディングと昆虫食、この2つをつなげるキーワードがあるとすれば、どんな言葉を思い浮かべますか?

篠原:「多彩さ」
生き物としての奥深さ。昆虫も、3Dプリンティングも、多種多様で、生き物としての美しさと愛らしさを兼ね備えた存在だと思っています。

伸び代。どちらも、まだまだ黎明期。伸び代しかないと思っています。

大日方:どちらも、「環境に優しい」という点で注目されていることで似ているかなとは思います。

3Dプリンティングによる生産は無駄な生産、無駄な消費を減少させる可能性を持っているとして注目されていますし、昆虫食も地球温暖化などの環境問題を解決する糸口として話題になっています。ただ僕らもANTCICADAも、環境に優しいことは大前提とした上で、それ以上の魅力をこの分野に感じているということは強く言いたいです。環境に優しいから、ということだけではなく、3Dプリントだからこそできる視覚表現があり、昆虫食だからこそできる味覚表現がある。その楽しさ、驚きをこれからも追求していきたいと思っています。


編集後記:

たまに、マグロの解体ショーに出会う。ショーと名づけるぐらいなのでもはやエンタメで、そこに食材へのありがたみを私たちは感じているだろうか。動物が飼育され、屠殺され、精肉加工する様子も、野菜が種から育てられ収穫される様子も、私たちの多くは、そのありがたみも価値も見過ごして消費している。食事という行為に必要な道具の存在もごく当たり前で、素材や加工、自分の手に届くまでの道のりを気にすることもない。
私たちは日常的に、あまりにも拙速に成果物にたどり着き、そこに至る過程を見落としているのだと気づく。その恵みの源流を、私たちはさまざまな形で辿ってみることができる、と改めて感じた。そして、昆虫食と 3Dプリンティングという組み合わせで経験したのは、今回が初めてだった。その軽やかさは、とてもすてきで、驚きと楽しさに溢れていた。
大きな可能性が広がっている。伸び代しかない。

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